迷惑クラッシュ【蒼】
日本語と英語を繋ぎ合わせたタイトルっていいですね。
この話は4月10日の話です。
「おはよー」
僕は若干大袈裟にドアを開けて言った。
「おはよ……」
祐樹君が返してくれた。昨日なんか会釈して終わっちゃったのに。
なんだか嬉しいな。
「おはようございます、廣瀬君」
昨日の相澤さんはどこ行ったんですか!ってくらいにはっきり聞こえた声だった。
「普通級にもう友達がいるなんてすごいです」
紅音のことか。
「あの子は幼馴染だよ」
「そうでしたか」
ぶっきらぼうな喋り方をする人なんだな、と僕は思った。
その時、チャイムが鳴った。
「おはよう!三人とも来てるー?別の人混ざってないー?」
「やだなぁ、先生。いるわけないじゃ……」
「蒼、よく見て。教室の端にいるじゃない」
「あ」
髪を金髪に染めた……上履きが青だからこの学年の生徒であろう少女が教室の隅に座り込んでいた。
「見つかっちゃったー」
「誰……あの人……?」
祐樹君が蚊の鳴くような声で言う。
見知らぬ人というのは変にストレスを与えるものなのかもしれない。
確か三組にいたな。この鼻に抜けるような喋り方をするのは滝川……何さんだっけ。
「うちのクラスの人だと思う」
「そうなんだ……」
少し落ち着いたようだ。
「誰でもいいから早く出て」
「蒼君に会いに来たんだよー」
するとドアがガタンと音を出した。
「真利奈、行くぞ。こんなとこにいたら俺らも病人になっちまうだろ」
そう言われるのが、一番嫌い。
「……ふざけんな」
自分でも驚くくらい低い声が出た。
「蒼、落ち着け」
先生の声がする。
「病人になる前にこの金髪連れて出て行け」
「言われなくてもそうするし」
「っていうか亮太郎!病人って言葉は取り消して」
滝川さんが言った。意外だった。
「違うのかよ」
「謝ってよ」
「悪かったな。これで満足か」
「本当なら土下座して欲しいけど長居する方が迷惑だし帰ろ」
亮太郎と呼ばれた大男は、舌打ちして出て行った。
「あの人たちなんだろ……?」
祐樹君が僕に聞いた。
「ゴミだよ」
「二度と来んな!」
先生はそう言ってドアを力任せに閉めた。
空気が悪い。頭から湯気が出るほど怒りを露わにした先生と、無口で俯いている相澤さんと、会話を聞き取れなかった祐樹君と。三人に挟まれている僕が雰囲気を明るくしなきゃ。
「なんの恨みがあってあんなこと言われなくちゃいけないんだろ……」
相澤さんは泣き出してしまった。
僕は彼女にハンカチを渡した。
「僕のでよければ使って」
「ありがと………」
そうだ。雰囲気変えるんだった。
「先生!なんか決めることあるんでしょ。この時期って」
「そうだった。ごめん蒼。ありがと…」
「いいえ!」
「蒼君は凄いね……」
隣で相澤さんが言う。凄いことじゃないよ。
「色眼鏡を使われるのが嫌いなだけ。バカにされるのが嫌なだけだよ。同じホモ・サピエンスなのに何が違うんだろうね」
僕が言うと、相澤さんが笑った。
マリネは割といいやつ。
*彼に残された時間、あと101日。