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無色透明  作者: 夜桜菫
Xデー篇
35/41

温度差クライシス【蒼】

蒼は養護学級で友達できるかなぁ。


この日付は前回同様の4月7日です。

 入学式の最中、さっきのことばかり思い出してはニヤケを抑えた。

 楽しみの一つでもあった入学式の校長の話なんか耳に入ってこなかった。どんな話をしてたんだろう。

「手、握っちゃった……」

 昔は普通に手を繋いでたのに。



「このクラスの担任の森永(もりなが)だ。よろしくな」

 三組に一度顔を出してから養護学級の教室に行く。この流れは前々から説明されていたことだった。

「一人ずつ軽く自己紹介してくれ」

 一人一人、名前と簡単にコメントしていく。人の話し方の癖と声、顔をじっと観察しながら覚えていく。

 は、まで来たから僕の番はもうすぐだ。なんて言うか考えなくちゃ。覚えるのと考えるのを両立するのって思ったより難しいな。考えるのはアドリブに任せて今は覚えることに集中しよう。

「次の奴!」

 僕ですね、はい。脳味噌を高速回転させて考える。差し障りのない軽い挨拶で……。

廣瀬(ひろせ)(あおい)です。普段は養護学級にいてこのクラスにはいないことが多いですがよろしくお願いします」

 我ながらナイスな挨拶だ。

 なんか周りが騒ぎ出した。可哀想って思われてるのかな。嫌だな。


 全員の挨拶を聞き終わったところで僕は退出。養護学級の教室は一階だ。みんなと違って楽だ。

 クラスメイトは僕とあと二人。このクラスは他学年もいる。しかし今年は二人とも同い年なのだ。

 席が三つ並べられ、『適当に座って待っててね』と黒板に書いてある。並べられた席の両端に男子生徒と女子生徒が座っている。

「遅くなりました!おはようございます!」

 二人は一瞬振り返り、軽く会釈しただけだった。

 男子生徒の名前は芳川(よしかわ)祐樹(ゆうき)くん。この子は軽度の発達障害なんだそうだ。言葉が通じないことがたまにあるらしいのだが、それなら通じるまで伝えればいいんじゃないかと思う。ゆっくり話すとか……工夫して。

 女子生徒の名前は相澤(あいざわ)由美(ゆみ)さん。この子は重度の喘息持ちだそうだ。少しの刺激で発作を起こしちゃうために、普通級にはいられないらしい。

 僕は真ん中に座り、先生を待った。

 暫くして先生がやってきた。

「あ、みんな早いね!おはよう!」

「おはようございます!」

「おはようございます………」

「………………」

「私は養護教諭の須藤(すどう)依理(えり)よ。よろしくね」

 先生が黒板に名前を書いた。

「じゃあ一人ずつ自己紹介してもらおうかしら。誰からか自分たちで決めて」

「最初に自己紹介したい人いるー?」

 僕はできるだけはっきりと言った。

「いいよ先に」

 祐樹君が言う。

「私は後でいい」

 相澤さんが言う。

「じゃあ僕からいきます。僕の名前は廣瀬蒼です。三組です。フルーツタルトとか、タマゴサンドとか食べてみたいです。写真でしかみたことないけど海に行って蟹を食べたいです」

 先生が吹き出した。

「よろしくお願いします……って先生なんで笑うんですか!」

「ユニークで面白いなぁって思って……!」

 ゆにーく?まぁいいや。蟹もいいけどマグロも食べたいな。

「次はどっちが自己紹介するー?」

「お先にどうぞ」

 相澤さんが僕を挟んで祐樹君に言う。

「いやいいよ。一番最後で」

 祐樹君が僕を挟んで相澤さんに言う。

「じゃんけんして勝った方から!」

「じゃんけんぽん」

 勝敗が決まったようだ。

「私は相澤由美です。ええっと……」

 クラスかな。僕はあの名簿表を取り出してみせた。

「ありがと……。四組です。よろしくお願いします」

「僕も見せて……」

 隣で祐樹君が言う。

「うん!いいよ!」

 相澤さんに一声かけて僕は祐樹君に見せる。

「ぼくは一組の芳川祐樹です。よろしくお願いします」

「あ、そうそう。教科書配らなきゃね」

 先生が教科書を配る。

「変なのがないかは先生が確認したから大丈夫だと思うけどもしよければ祐樹の分は蒼が確認してあげて」

「はーい」

 二つとも確認したが、特に異常は見られなかった。

「何もなければ名前書いちゃってー」

 名前を書く。

「あとこれプリント。家の人に渡してねー」

 プリントに目を通す。

「今日はこれでもう解散だから!また明日!」

「さよならー」

 割と自由なんだな、養護学級は。

「蒼ー!帰ろー!」

「二人ともまた明日ね!」

明日って、いい言葉ですね。


彼に残された時間、あと104日。

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