存在意義【蒼】
あの日あの時蒼は何を思っていたのか
みたいな煽り文書いてみたい
「蒼!蒼!」
お母さんかなぁ。まだ怒ってるだろうなぁ。
「お母さん……?」
部屋から顔を出す。そこにいたのは……
「あっ……紅音ちゃん……」
この間無神経な事を言って嫌われちゃった紅音ちゃん。まだ怒ってるかな……。
紅音ちゃんは暫く何かを考え込んで金属バットを握った。あ、やっぱり怒ってたんだ。金属バットを持ち上げようとしたが重くて持ち上がらないらしい。
「紅音ちゃん……?」
何をするの……?それで……。
この間無神経な事を言ったのはごめんなさい。知らないくせに知った口を聞いてごめんなさい。だから……だから……殴られるのは痛いから……それだけはやめて……。
「一緒に帰ろう、蒼」
僕の家は此処だよ……。
「此処に居ても痛いだけだよ」
紅音ちゃんが手を差しのべる。僕はその手を取ることも振り払うこともしなかった。
「僕が悪いんだ。僕がみんなと同じことできないから……僕も何かできればいいんだけど何もできなくて」
「蒼は私のお話聞いてくれる。お母さんのことも大事にしてる。蒼はみんなにできないことができてるんだよ!」
そんな事を言ってくれる人は初めてだった。哀れむ人はいても認めてくれる人はいなかったから。
紅音ちゃんは僕の手を取った。
「一緒にお出かけしよう」
「私のことは紅音って呼んで!」
靴を履いていたら紅音ちゃんはそう言った。
「紅音………ちゃん」
付けたくなる。いきなり呼び捨てなんてハードルが高い。
「ちゃんはだめ!」
「紅音…………」
「そうそう!」
紅音は上機嫌だ。
暫く歩いて行った先に銀杏の並木道があった。
そこに入って紅音と話をしていたら眠くなってしまい、僕は紅音より先に寝てしまった。
叩き起こされて手を引かれるまま僕は歩き出した。
「帰りたくない!」
紅音の大声で目が覚めた。紅音はさらに強く手を引いた。僕は少しペースを上げて歩いた。
「紅音……大丈夫……?」
涙目の紅音に僕は声をかけたが何も返ってこない。
「待ちなさい君たち!」
さっきのおじさんが小走りで追いかけてくる。警察の人……?なんで……?
そんな事を考えているうちに捕まってしまった。
「みんな心配するよ。お電話すればきてくれるから帰ろう」
おじさんが半ば強引に僕の手を引いた。
「痛いもん!帰ったら痛いだけだもん!お父さんがあるんだもん!あんな家帰りたくない!ほんとなら私だって帰りたい!こんな寒いところいたくない!でも痛いんだもん……」
紅音が泣き出してしまった。
「泣かないで……紅音……」
拭くものがないため僕は自分の服の袖で紅音の涙を拭いた。
「わかったから……ね?おいで。帰ろう」
紅音はおじさんを睨んで叫んだ。
「痛いのは嫌だ!」
紅音は僕の手を引いて走り出す。
蒼君みたいな献身的な彼氏ってかっこいい!