青い聲
紅音は人より耳がいいので声とか音に敏感です。
い、急ぎますよ(^^;;;;;;
「あの子暗いし気持ち悪いよね」
「死ねばいいのに」
「あの子のお父さん怖いからお母さんがあの子と遊んじゃダメって言ってたよ」
「言われなくても遊ばないよ」
自分の悪口は耳を塞いで聞こえないフリ。脳内では焼き付けたあの聲を何度も再生する。蒼が笑って何かを言う聲が、大好きなの。
ドン!と机を叩かれ、思考が何処かへ消し飛んだ。
「気持ち悪いから早く消えてよ!」
そんなこと言われたって……ねえ。
あ……蒼の聲が聞きたいな。こんな雑音みたいな音は嫌いだ。
「聞いてんの?」
私の方が気持ち悪い。こんな雑音は邪魔だ。だったら耳を澄まして虫が翅を羽ばたかせる音を三時間聞かされ続ける方がまだマシだ。
「早くしてよ!」
私は教室を出た。廊下に出た途端にドアを閉められた。
また耳を塞いで、あの聲を思い出す。
「紅音?」
三次元の蒼の聲がして私は耳を塞いでいた手を離した。
「どうしてこんなところにいるの?」
「いや……ちょっとね……」
「あっごめん」
「え?」
「だって学校では話しかけちゃダメって」
「いいよ、今は。一人だし」
「ホント?!」
蒼は目を輝かせた。
「……うん」
そんなに嬉しいことか……?
他愛もない話をしていると担任が戻って来た。
「どうしたの?こんなところで」
「いや……別に……戻ろっか」
私は蒼に言う。
「うん!」
ドアを開けて入ろうとする。
「入ってくんなって……あっ」
いじめっ子が言う。後ろにいた担任に気づいて何もなかったかのように席に座った。
担任は気づかなかったようで教壇に立つ。
あんなに大きい声だったのだから気づかなかったわけなんて、ないんだけどね。
虐めが悪化したのは小四の頃からだった。
悪口で済んでいた遊戯がエスカレートしていった。物を隠すなんて当たり前になり、暴力を振るわれることも少なくなかった。
私は一層蒼と距離を取るようになった。こんな遊戯に蒼を巻き込んではいけないと思ったからだ。
標的と仲が良い生徒も巻き込まれるケースなんて少なくないし、蒼の性格からして止めに入るだろうと考えた。そんなことしたら標的が蒼に変わってしまう。
この頃蒼は本格的に体調を崩し始め学校には殆ど通えなくなっていた。
蒼が退院した。六月、梅雨、体調崩しやすい時期。
蒼は昔から鈍感だけどあまりにもわかりやすければ気付くだろうから、せめて蒼の前では強く、笑顔で……。
「痛いよ……」
さっきダイブしたベッドの上で弱音を吐いてみる。
痛いのは体なのか心なのか。もう私にはわからない。
「蒼の声が聞きたいな……」
次回は蒼が頑張りますのでよろしくお願いします