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詩のサークル

生きるということ

作者: 齋藤 一明


ゴトリと闇が動き出した

ちらほら佇む見送りの人が、現れては彼方へ去ってゆく

反対側のホームに停まった電車も、ドアを開けたまま彼方へ退いていった


あれは、これから冬を迎える頃だっただろうか

ホームのうどん屋がまだボゥッとした灯りを点していたっけ

あの時求めたうどんは、さて、何を載せてもらっただろうか


湯気で曇った窓のむこうで、赤いランプが明滅するのを眺めていたっけ

ドンブリの蓋を開けると、湯気で踊っていただろう鰹節が、おが屑のようになっていた

音を殺してうどんを啜り、唐辛子が舞うツユを飲み干し

コートの襟を立てて眠りについたものだ




明けそめの駅は寂しさに満ちていた

出迎える人はなく、降りる人もなく

弁当売りもまだ店開きしていない時刻

ホームの外れの洗面所でよく顔を洗ったものだ

白いタイルとアルマイトの洗面器、あれは定番だったのだろうか

キーンと冷えた水が、問答無用で私を昼間の生き物に甦らせてくれた


そして、ゆっくり動き出した列車に乗り込み、色づき始めた山を眺めながら

私は今も列車に揺られている

揺られている


終着駅がどこなのか、私は知らない

あとどれくらい揺られるのか、それも知らない


今はただ、景色を愛で、乗り合わせた客と世間話に興じるとしよう


今も私は揺られている



ーーーーーーーーーー

今回の曲は、『シンドラーのリスト』 です。


あの物悲しいバイオリン ソロから、レールを刻む音を連想しました。

できたら、音楽を思い浮かべながら読んでください。


列車が速度を上げるのに重なってきませんか?


この列車は『人生号』 行き先は不明です。

どこが終着駅か誰も知りません。

どこで降ろされるかもまた同じ。


あなたはいったい、どんな旅をしていますか?


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― 新着の感想 ―
[良い点] 流石です。詩です。 時間というよりも時代が流れ込んできます。 寒さ故に感じる人間の暖かみ。寂しさと郷愁の香りが漂います。 軌道に果て無く 汽笛は消え行く 季節の廻れども 行末は定まらず …
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