晴れた朝に
{晴れた朝に}
…。
結局、寝る事の出来ないまま朝になってしまった。
と言うのも、数時間おきに少女がうなされていたからだ。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「殴らないで…ごめんなさい…」
…と。
その度、俺はどうして良いのかが分からなくなったのだが…夜の三時ごろ、うなされている彼女の頭を撫でてやると、また、彼女はすやすやと音息を立て始めた。
五時ごろ…。またもうなされる声。
頭を撫でる。また、すやすや…。
…。
あーもー!ダメだよこんなの!卑怯だろ!!
もう…心が折れた。
この子は、俺が匿おう。
少なくとも、この子が家に帰るより、よっぽど良い生活を送らせてやれるはずだ。
…もう…捕まっても良いような気すらしてきた…。
…。
…。
…。
七時ごろ…眠気に負けてアヘ顔をしながら寝ていると、ふと、背中に感触があった。
どうやら毛布を掛けられた感じ…ではあるが、もしかして…。
少女「…よいしょ」
少女「…鍵…鍵…」
少女「これ?かな…」
やはり家出少女だったか。
だが、残念ながら、俺は着替えてない為、俺の右ポケットに鍵がある。
一生懸命探してるけど、それは全然違う鍵。
少女「…ありがとうございました」
…あぁ、多分
「あれ?鍵…合わない!」
とか言って戻ってくるんだろうなぁ…。
ククク…可愛い奴め。
ギィ…パタン
ガチャッ…ガチャガチャガチャ…
ほら、あわな…!?
カチャン…
男「!?」
…チャリン!
カツ…カツ…。
慌てて飛び起きる!
やっべ!?クッソ忘れてた!!もしもの時の為に、合い鍵を用意してたんだ!
やばい…!このままじゃ…!このままじゃ…!
ダッダッダッダ!
ガチャッ!バタン!
男「おい!!」
少女「!!!」
男「…か…帰るのか?」
少女「ご、ごめんなさい!お、起こしちゃい…」
男「…!」
男「お、お前…さ!…あ、朝飯!そうだ!朝飯ぐらい食ってけよ!」
男「別に!それぐらい負担じゃねーから!!」
少女「…!」
少女「…」
少女「ごめんなさい…」
男「そんな…」
男「か…帰るのか…?…お前…?」
少女「…はい」
…嫌だ…。
嫌だ…!
男「…なぁ…?殴られたりとか…してないか…?」
少女「…!」
男「…なぁ」
男「違うなら違うって…言ってくれ」
男「家出した理由が、ただの喧嘩なら…!そう言ってくれよ…!」
少女「…」
男「…なぁ…?」
少女「…ち」
少女「違いますよ!」
少女「ちょっと、お父さんやお母さんと喧嘩しただけです!」
少女「私は…!」
少女「…私は!!」
少女「…」
少女「…大丈夫ですよ」
男「…」
男「…そっか」
男「…ごめんな」
少女「…いえ」
男「そうだよな…」
男「お前には、帰る家がある…」
男「…そうだよな」
少女「はい…!」
少女は、答えるなりうつむいた。
…唇を、強く噛んでるようにも見える…。
やっぱり…やっぱり…!本当は…!
違う…!俺の気のせいじゃない!
俺の…!俺の妄想じゃないはずだ!
救ってやりたい…!
こんな!こんな小さな子を…!
殴るような奴から!
男「…」
男「じゃあさ…!」
少女「はい…」
男「…もし、嫌じゃなければ…もしもまた、家出をした時…来いよ」
少女「…」
男「ほら…これ、やるからさ!」
タッタッタッタッタ…
少女「!」
男「…これ、お前にやるから!」
少女「これ…!これって!」
男「…合鍵だよ」
男「もし、俺の妄想で!お前を困らせてるだけなら!」
男「…どぶにでも捨てろ」
男「でも…でも、もしも…!本当に家が嫌なとき…!」
男「…いつでも、来て良いから」
男「…な?」
少女「…!」
少女「…お兄さん…」
男「じゃ…」
男「俺は、帰るよ」
男「…元気で」
少女「…あ…!」
カツン…カツン…カツン…。
そうだよ。
これぐらいで良い。
本来、俺が介入するような話じゃねーんだから。
そう、行き場を失った時、たまーに訪れる喫茶店…的なさ。
そんな感じで良いんだよ。
依存させちゃいけない。
俺だって、依存しちゃいけない。
ただ、カッコ付けて終わりにすりゃ良い…。
そう言うもんだ。
ギィ…。
男「…じゃあな」
ギッ…!
パタン…。
男「…」
男「…どうかしてるよな…俺」
男「寝よ」
さっきまで少女が寝ていたベッドへと倒れこむ。
少し、柔らかくて…甘い香りがした気がする…。
…でも、もういいや。寝て忘れよう。
どうせさ?一夏の夢だったんだよ。
あー…カップ麺買わないと。
あと、洗濯物も…。
…いーよ。
もう…いいよ、全部…。
昼には起きる。
…。
…。
…。
…起きた瞬間、感覚で遅刻を確信!!!
男「…!」
男「うおっ!」ガバッ
男「やべ…何時だ?」
男「…正午…か」
男「って休みじゃねぇか!!」
…。
あぁ…買い物行かないと。
あ…そう言えば、インスタントコーヒーも少ない…。
あと五時間は寝たいけど、そうもいかねーわ…。
重い体を起こす。
そう言えば、なんでこんなに眠いんだ…?
あぁ…。なんか昨日居たな…。
…なんだろ。
もう風化し始めてる…。
あー…。
少女「zzz…」
あぁ、そう。
こんな感じの…!?
男「…おあぁ!?」
少女「ふぇ!?」
男「えっ!?ええ!?」
少女「え!?な、なんですか!?」
男「お、お前!?」
男「お前!なんで居るの!?」
少女「え!?」
少女「あ、朝!合い鍵をくれたじゃないですか!?」
男「ええ!?もう使ったの!?」
少女「い、何時来ても…良いんじゃないんですか…?」
男「あっ…」
少女「…ま、また」
少女「また喧嘩しちゃって!…来ました」
男「…」
男「…そっか」
男「…じゃあ、居ろよ」
少女「…!」
少女「…良いんですか?」
男「ん…」
少女「…あ!」
少女「ありがとうございます!」
男「…」
こう言う風に、感謝されるのも悪く無い。
いや、世間体で言えば、悪い事はしてるんだろうなぁ…。
だが、こんな関係で良いよ。
居場所が無くなったとき、来れば良い。
…。
これが、俺と家出少女の、不思議なかんけ…
少女「あ!」
男「ん?」
少女「そう言えば、言い忘れてました!」
男「?」
少女「私、「雛」って言います!」
男「雛?」
少女「名前です!」
男「…おー」
男「じゃあ、雛ちゃん…かな?」
少女「はい!」
男「…ん。よろしく」
雛「よろしくお願いします!」
これが、俺と雛との、不思議な関係の始まりであった。