嵐の夜-5-
{嵐の夜-5-}
なんとかコミックLOを魔窟に押し込んだ俺。
後で隠し場所を忘れなければ良いが…。
あー…あと、コーヒーも入れよう。
いや…そう言えば、あの子の分を忘れていた。
なら、紅茶にしておこうか。
お湯が沸くまで後三分。
TVでも付けよう…と思っていたら。
ガチャッ…
男「…おう、上がったか」
少女「あ、ありがとうございます~…」ほかほか
男「!!」
素晴らしい…!
暖まったのか、若干頬を染めて!
しかもぶかぶかのYシャツ!!!
素晴らしい!
すばら…あれ?
男「あ…」
少女「…え?」
男「…そ、それ。何?」
少女「…あ!」
俺には見えた。
大きく開いた胸元からしっかりと…。
…黒みがかった、大きな痣。
男「…」
少女「な、なんでもないですよ!」
少女「そ、そう!この間、転んじゃって…」
男「…」
いや、そんな場合じゃないだろう。
お前、Yシャツをなめてる…。正直俺もなめてた…。
…Yシャツって、水分入ると地味に透けるんだよ…。
いや、忘れててナチュラルにYシャツ選んだ俺も馬鹿だったけどさ…。
…。
なんだよ、その痣…!
胸元、横っ腹、鳩尾…!
…きっと、背中にもある。
…これはきっと…!
ピイィィィィィィィィィィィ!!
男「!」
少女「!」
男「お、お湯か…」
男「あ、適当にソファにでも座っててくれ」
少女「は、はい…」
男「さあて…紅茶紅茶…」
…。
やはり、背中にもある。
内出血してるんじゃないか?ってぐらい、色が違う。
…虐待痕。…だろうな。
それに、テレビで見た事がある。
腕や顔、足なんかの「露出部分には虐待痕を付けない」と言う奴の存在を…。
…そう言う奴は、虐待慣れしてるって訳だ。
…多分、あの子の親は…。
あの子を、日常的に殴り付けているはず…。
男「さて…」
男「ほれ、紅茶」
少女「あ…ごめんなさい、ありがとうございます…」
男「…」
先に謝罪の言葉が出てくるのも、虐待されてる子に見られる傾向…だったか。
…いや、決め付けるのは良くない。
だが…。
少女「…あ」
クルルルルルルル…
男「…飯、食ってないのか?」
少女「は、はい…」
男「うん、コンビニ弁当で良かったら…食べるか?」
少女「そ、そんな…!」
男「いいよいいよ…」
男「何日も食ってないんだろ?」
…かなり失礼な言葉だが…鎌をかけてみる。
頼む。違うって言ってくれ。
少女「ち、違いますよ!」
男「…」
…。
良かった…。
少女「た、食べてないのは、今日…だけです」
男「…!」
…おい。
…おい…!
男「…へー」
男「今日は…作れる人が居なかった感じかな?」
少女「い、いえ…」
少女「…」
困り顔。
だが、今の回答はどう言う意味だ?
作れる人が居るのに作らなかったのか?
それとも、誰も居なかったのか?
…どちらにせよ。
この子は、今日、何も食べてない。
男「…ちょっと待ってろ」
少女「は、はい…」
男「とりあえず…こっちはお湯入れるか…」
コポポポポポポポ…
男「…」
チーーーーン!
男「できた」
少女「りょ、両方食べるんですか?」
男「いや」
食える訳ねーだろ。
BIGサイズカップ麺をオカズに弁当か。
男「…」
一瞬、名残惜しい。
せっかく奮発した弁当だもの、無理は無い。
が、こんな子の目の前で食える訳も無し。
男「…ほら」
少女「え…?」
男「いーから」
少女「で、でも…!」
男「腹減ってんだろ?なら、食えよ」
少女「…」
男「な?」
少女「…あ」
男「?」
少女「ありがとうございます…!」
男「…ん」
以外にも、ガツガツと食べる少女。
一日食わないとか、正直想像が出来ない…。
流石に水は飲むだろうけど、本当に三日間ぐらいで死んでしまいそうに見える。
ととと…俺も三分経ったかな?
食ーべよ。
…。
…。
…。
TV「どないせーっちゅーねん!」
男「ハッハッハッハッハw」
少女「…♪…♪」
男「…」
TV「だーったれぇアホォ!」
男「ハッハッハッハッハwww」
少女「んっく…」
少女「た、食べるの早いですね!」
男「んー?」
男「まー、俺も腹減ってたからなー」
少女「…もしかして、毎日カップラーメンなんですか?」
男「そうだよー」
少女「だ、ダメですよ!しっかり栄養は取らなきゃ!」
俺が思ったこと。
お前が言うな。
男「っと…紅茶のおかわり入れっかなぁー」
少女「あ…」
男「ん?」
少女「…」
男「おかわり、いる?」
少女「そ、そんな…おかまいなく…」
男「原価10円もしねーんだ。気にしなくていーよ」
少女「あ…」
男「な?」
少女「…ごめんなさい」
男「…」
…空気が凍る。
いや、凍ると言うよりも、冷え込んだ…。
男「その、謝る癖…。なんとかならない?」
少女「え?」
男「いや、別に良いんだけどさー…。ちょっとね?雰囲気が暗くなっちゃうじゃん?」
少女「でも…」
男「…」
男「ま、謝らなきゃやってられない世の中だけどね」
コポポポポポポポ…
男「俺もさ?飛び込み営業やってるから、謝る事については分かるよ?」
コポポポポポポポ…
男「家を回ってさ…契約取るんだよ…。でも、急に怒鳴られる方が多い…」
男「でw話を早く終わらせたいから謝るんだよwww…」
男「…はぁ…面倒くさい」
少女「…」
男「…でも、謝る事前にお礼は絶対言う。…そうすりゃ、少なくとも雰囲気は凍ったりしないからさ…」
男「ほれ、紅茶お待たせ」
少女「あ…ごめんな…」
少女「あ、ありがとうございます!」
男「ん…そんな感じで頼むよ」
少女「はい!」
…。
…。
…。
男「…雨止まねーなー」
少女「そうですね…」
男「…時間は大丈夫?親御さん、心配とかするでしょ?」
少女「…」
少女「だ、大丈夫です」
男「…ふーん」
男「…待って、スマホで予報見るわ…。えーっと…?」
男「…マジか、明日の朝まで止まないってさ、雨」
少女「朝まで…」
…。
雨の中、この娘を追い出すなんて…。
俺には出来ない。
男「…いいよ、朝まで居れば」
少女「でも…」
男「俺の事は気にすんなー。ほれ、朝になったら帰れ」
少女「…」
少女(帰りたくない…)
少女(…そうだ!)
少女「か、鍵は!」
男「ん?」
少女「お、お兄さん起きてる時じゃないと…その…」
少女「鍵、閉められないし…」
男「俺、朝寝てるからなー…」
少女「じゃ…じゃあ、お昼…まで…とか…」
…帰りたくない感じか。
…いや、そこまで俺が介入するべき問題じゃないだろう…。
男「…まぁ、鍵持って閉めて…それからポストにでも返せば問題無いんだけどね」
少女「あ…」
男「…はっきり言うけど、本当に親御さんが心配するからさ…出来れば雨が止んだタイミングで…」
少女「…帰る…」
男「…うん」
少女「…」
…なんだよ。
なんで寂しそうな顔すんだよ。
心配になるだろ?
俺が馬鹿な事言ってるみてーじゃんか…。
なぁ…やめろよ…その顔。
男「…」
男「お前の家の事、少しだけ聞いてもいいか?」
少女「…」
男「…な?」
少女「…」
男「…」
少女「だ、大丈夫です」
少女「朝になったら、雨が止んだら帰ります!」
少女「本当にご迷惑をおかけしました…」
少女「本当に、ありがとうございました!」
男「…!」
だから…そんな顔、するなって…。
…。
…。
…。
結局、この子に俺のベットは譲った。
俺はソファで寝る。
ついでに、書いてる小説サイトの続きも書かなくちゃ…。
…そして…。
十数分前から、小さな音息が聞こえる。
嬉しそうな顔で、こっちに顔を向け目を閉じて…。
…小説に集中なんか出来るか!
…ただ、そんな幸せそうな顔を見ると…やはり不安になってしまう…。
もしも、本当に虐待されていたのなら…。
もしも、本当にご飯すら食えない家庭だとしたら…。
もしも、それが嫌で逃げて来たのなら…。
…。
この子を、本当に家に返しても良いのだろうか…?
この子を家に返す事が、本当に正しい事なのだろうか…?
…まぁ、そう言って匿った善人は、縄を手首に巻く事になってるんだろうが…。
…。
家出少女。
お前は、帰るべきなのか?
それとも、ここに居させてあげた方がいいのだろうか?
…もしも、ここを出て行ったとして…また家出をしたならば…?
本当に、誘拐して酷い事をするような奴の元に行ってしまったら…?
…。
ダメだ。
俺は意思が弱い。
この子を匿っても良い気がしてきた。
だが、勘違いだったら本当にヤバイ。
俺だって、社会的な抹殺をされたくなんかない…。
…どうするべきか。
…朝になったら考えよう。