嵐の夜-2-
{嵐の夜2}
しまった。
まさかこんな事になるとは…。
コンビニに着いて、ふと週間漫画誌が目に止まってしまった。
おや、俺が学生の頃からやってる漫画は、未だに続いているのか…なんて、手に取ってしまったのが運の尽き。
昔の方が面白かったなー…なんて考えていると、空が唸りを上げ始めた。
あぁ、今日は雨が降るのか…。やっちまった…。
急いで弁当を決める。
おお、大盛り焼肉弁当とは嬉しい限り。
そうだ、どうせ貯金ばっかりで金はあるんだ。たまには贅沢しても良いだろう。
よし、カップ麺も大盛りを買おう。あと、ストレス社会の為のチョコレート。
うん。
うん。
いいね。
会計、1000円チョイ越えた。やはり高くついてしまったか…。
しかも、電気代を浮かせたいからって、弁当をコンビニで暖めるんじゃなかった…。
外は本降り。
たまに稲妻。
…ふと思う…。
俺は何をしてるんだろう…と。
ため息一つ、全力疾走で家に戻る。
と、言うか、家の鍵を開けっぱなしだったではないか…!
あぁ…人間の意識とは、こんなにも簡単に散漫となってしまうのか。
ああ、怖いもんだ…。
よし、ネオン街を抜けてすぐ、俺の部屋が見えてきた。
と言っても、友達が貸し出してくれたオフィスビルの二階。
広さなんてものは大して無い。
そして暖かさは、あるようで無い場所へ…。
今日も俺は、そこに戻る。
走った勢いのまま、階段を駆け上がる。
が…!
背筋が凍った!
階段には、足跡が付いている。そしてそれは、俺の部屋へと続く…!
待て、待て待て待て待て!!
…この時ばっかりは、20分前の自分をぶん殴りたい。
ぶん殴って、鍵を閉めるべきだと力説したい。
俺の手にはコンビニ弁当+α。
空き巣や泥棒に対抗できる手段など、持っていない…。
かくなる上は…!
もう一度、大雨の中に飛び出した。
目の前の自販機で、缶ジュースをいくつか買う。
次に、せっかく分けたチョコレートだが、弁当とカップ麺の上に放り込み、一つの空き袋を作る。
そして、缶を入れて…!
振りまわす!
…よし、自衛策は出来た。
開けた瞬間に来やがれ!
俺はいつだって準備出来てる!
さあ…さあ…!
俺は、ゆっくりとドアノブを捻る。
…。
電気は付いたままだった。
そして、出て行った時の足跡も確認出来ない。
つまり…まだ、奴は居る。
…足が震えだす!
それでも進む…。
コンビニ袋を握り締め、ゆっくりと進む。
どんな絵面じゃ…。
…リビング、良し。
…キッチン、良し。
っつか、全部見えるわ!
誰も居ない…。半分ほっとした。
だが、可能性は十二分。
音を立てずに進め…!俺!
カタンっ…!
!
音がした。
…?
風呂場か…?…風呂場!?
え…?ど、泥棒に入った挙句に風呂…?
厚かましいなド畜生…!
そう考えると、むしゃくしゃと腹が立つ。
どんな野郎が居ようと、俺はこのコンビニ袋を振り降ろすまでだ…!
…よし!
覚悟は決まった…!
後は…!行くぞ!
ガチャン!!
男「うおおおおおおおおお↑泥棒めええええええええ!!」
…。
…。
…。
驚いた。
いや、振り上げた武器が止まるレベルには驚いた。
そこに居たのは…。
少女「え…!?」
タオルで頭を拭く、小学生の女の子だったからだ。
…。
これが、彼女との出会いだった。
{嵐の夜2}
私は、二回ノックした。
コンコン、コンコン…と。
少女「ごめんくだ…さい…」
…とも言った。
電気が付いてるんだから…多分、誰か居るはず。
もう一度ノックする。
コンコン…。
…誰も出て来ない。
…ああ、誰も居ないんだ…。
半分嬉しくて、半分哀しかった。
また、元の階段下へと戻ろう…と思った時!足をすべらせてしまった!
少女「きゃっ!」
思わず大きな声を上げて、手すりへとしがみ付く!
でも!何故か手すりも一緒に斜めへと動く!
少女「やぁっ…!?」
両手で手すりを掴む…!
…ようやく、今度は止まってくれた…。
顔を上げる…すると…。
掴んでいたのは手すりじゃなくてドアノブだった…!
さらに、扉も少しだけ開いてしまった!
私は、一瞬背筋が凍る。
自分のやっている事の大きさに、驚いてしまったから…。
このままじゃ、泥棒のように見えるかも知れない。
このままじゃ、指紋とか、そう言うので私だって分かっちゃうかも知れない…!
…後になって考えれば、そのまま閉めれば良いだけだったんだけど…。
私は怖くなって謝った。
少女「ごめんなさい!!」
…声が階段に響く。
寂しい。
その返事も、全く帰って来ない。
少女「あ、あの…!」
今度は顔だけ突っ込んで中を見渡す…。
すると、私の考えていた部屋とは全く違っていた…。
テレビ、ソファ、大きな机、パソコン…。
見ただけで、住みたくなるような部屋…。
…私が、さっきまで居た場所とは大違いだ。
そして、我に帰って中を見渡す。
誰かが居たら謝らないと…。
そして、泥棒ではないと言わないと…!
…だが、いつまでも声は返って来ない。
そのまま、閉めて帰ろう…と思った時。
扉に掛けられた大きなタオルが目に留まってしまった…。
少女「あっ…!」
…。
自分の身体を、もう一度見てみる。
上から下までびしょ濡れ…。
夏ではあるけど、夜だからちょっとだけ寒い。
…もしも、あのタオルを借りれたら…。
本当に、本当にちょっとだけ…。
そう思ったら、私は動いてしまっていた。
扉のタオル掛けから、大きなタオルを引っ張る。
ふかふかで…とってもふかふかで…!真っ白いタオル。
手に持った瞬間、本当に顔を埋めたくなった。
ごめんなさい・・・!と、心の中で一声。
私は、全力でタオルの感触を楽しみ始めた…。
嬉しい肌触り…。
ふっかふかで…嫌な臭いが一つもしない…。
…。
…幸せ。
…あの家に居たら…ごわごわで薄っぺらいタオルだけで…。
…。
お風呂。いいなぁ…。
最近…と言うか、最後に入ったのは何時だっけ…?
…お風呂…。あんまり入らせてもらえなかったな…。
…。
なんだか、マッチ売りの少女を思い出す。
…鏡。
ちょっと、今の自分を見たいな…。
と、タオルでくまなく頭を拭いていたら…!
ガチャン!って大きな音がした!
びっくりして振り向く!
すると、身長の高い男の人が…!
男「うおおおおおおおおお↑泥棒めええええええええ!!」
…と、白い袋を掲げて怒鳴ってきた…。
本当にびっくりした。
でも、この人もびっくりしてる…。
少女「え…!?」
…これが、彼との出会いでした。