プロローグ その3
「うん、落ち着いて。いいね」
こわごわと追撃がないか確認しながら、立ち上がってもう一度彼女の方にむき直す。
「どうにも、僕と理子では魔法少女に対する理解度に差があるみたいだね。だったら、ほら、キミの方で。何かないの? 自分が魔法少女だって証明できる何か」
「そうね。んー」
難しそうな顔をしながら悩んでいる。まるで魔法少女になったというのが妄言ではないかのように見える。こう眺めていると彼女の頭がおかしくなったわけでない可能性が多少はあるような気がしてくる。そうであればどれだけよかったかな。最近、疲れてたんだろうか……。お隣なのに気づいてあげられなかったな。勉強かな。部活かな。すわ、いじめとか……!
「ん、何か失礼な視線をこっちに向けてるように見えるんだけど?」
「いやいや、お気になさらずに」
無駄に、勘がいいなあ。ホント。
「そうね。慌てていて連れてくるのを忘れていたんだけど、魔法少女といえば定番の存在。私に魔法少女の勧誘をしたかわいいマスコットキャラクターを連れてくるから、ちょっと待ってなさい。いいわね」
と、言うなり駆け足で再度お隣の自分の家に引き返してしまった。
お隣とはいえあのままの格好で出て行って、僕の家族や、自分の家族や、道行く人間に見られるのを心配しなくていいのだろうかと老婆心を抱いてしまう。魔法少女って正体がばれても大丈夫なんだっけ? って、心配するところそこじゃないよな。
そんなことを考えていると、再度階段を駆け上がる足音が聞こえてきた。
「ほら、連れてきたわよ」
理子が連れて、いや、持ってきたのは、小さな犬? 猫? とにかく特徴のあまりない、真っ白な四本脚のぬいぐるみだった。首根っこを片手で掴み、ドヤ顔でこちらに突きだしてくる。こちらを向いたぬいぐるみの顔が心なしか困惑している情けない顔に見える。おお、僕も同じ気持ちだよ。仲間だ。
「早く恭ちゃんに説明してちょうだい」
こちらに突きだしたぬいぐるみに向かって理子が命令している。あらためて大丈夫かな? と、心配しつつ眺めていると脳内に声が響いてくる。
「キョウ……。こんにちは。キョウ。で、いいんだよね」
唐突な呼びかけにあたりを見回すが目の前に突き出されたくたびれたぬいぐるみ以外には、部屋には理子しかいない。もしかしてほんとにぬいぐるみが話している? いや、テレパシー? いやいや、僕の頭までおかしくなった?
「聞こえているんだね。キョウ、キミの頭は正常だよ。少なくともリコよりは全然マトモだ」
「いや、そこ比べたらダメでしょ!」
あ、失礼な発言に思わず声を出して応えてしまった。理子がきょとんとした顔でこちらを少し見たあと、再度自信に満ちた目をこちらに向けてくる。
「ほら、ぬいぐるみがテレパシーで話しかけてくるのよ? この超常現象。これこそ、わたしが魔法少女である証明と言えるのではないかしら! ふふふ!」
理子の台詞に、今のやりとり彼女には聞こえてなかったのかと胸をなで下ろす。
「これ、本当にこのぬいぐるみが話しているの?」
「そうよ!」
「そうだよ」
耳と心に同じ返答が重なる。マジかー。