今回だけだからな。
「大丈夫か?」
俺は、少女を拘束していたツタを切る。手を差し伸べて、少女を立たせる。どうやら目立った外傷はないようだ。強いていえばツタが絡まっていたところに痣ができているところだ。相当強く構想されたのだろう。
当の少女はコクコクと頷くだけで何も言わない。先ほどの恐怖と突然の出来事で何も喋れないようだ。
「とりあえずこれ着てな。」
俺は着ていた上着を少女に投げだ。あの姿だと寒いだろうし、目にも困るからな。
少女は小さい声で「ありがとう」といい、上着を被る。
ま、それより問題は……
「貴様!!何しやがる!!」
このクズ共をなんとかするところだな。服装からして貴族だろう。だが、身につけている物は貴族でも手に入れにくいものだらけだ。となると、かなりの大物なのだろう。
「女の子1人にこんな野蛮なことをするのかい?最近の貴族は。」
「うるせー!!お前らが悪いんだよ!!俺様がわざわざ来てやったのに!」
「別に呼ばれてきたわけじゃないだろ。お前が勝手に来た挙句に、なに逆上してんだ?」
俺の言葉にカチンときたのかますます怒りの表情を露わにした。たく、貴族ってのは誇り高い故に沸点が低いのが困るよ。全く。
「もう許さね!!殺してやる!!」
ガリアスとかいう男は剣を抜刀し俺に斬りかかってきた。
「あ、危ない……」
流石に少女も心配していた。
が……
「こんなもんか?」
多分誰もがこの光景を目が飛び出すほど驚くだろう。
「な、俺の剣を……」
なんせ、人差し指で止めていたからだ。それを見たガリアスは「な、な、な……」と驚いている。
「確かにいい剣だ。だが、それを使うお前が事態がダメだな。まずお前は……」
「う、うるせー!!」
ガリアスは再び剣を振りかざすが……
「ちゃんと俺の講義を、聞け!」
ガン!!
「ガハ!?」
素早くかわし、横が隙だらけだったので蹴りを入れた。
ガリアスは蹴られたところを抑えながら剣を杖代わりして、立っている。あの様子ならもう戦闘は無理だな。
結構強く蹴ったが案外、丈夫みたいだ。普通ならあばらの二、三本は折れて、立っていられないはずだ。伊達に、貴族ではないって事か。
ま、そこは褒めてやろう。
「まず、剣を持つ手の間が開きすぎだな。第一にその剣はどちらかというと刺すのに特化している。見たところお前は肘の骨が普通の人より太い。斬る時に腕を大きく上げる癖がある。どちらかというと大剣か刀向きだな。」
「……!?」
「ま、どうせ死ぬんだから余計だったかな?」
「ひ!」
俺は取り上げた剣を振り上げる。狙うは首元が寒い一直線。せめてもの情けだ。楽に殺してやるか。
と思ったその時……
「義をもって敵を拘束せよ……樹縛!」
突然地面から植物が出てきて、俺を捕縛した。
俺とした事がもう1人いたのを忘れていた。
「ガリアス様!今のうちに!」
「お、おう!ありがとよ!」
執事らしき人物が剣を地面に刺していた。そして、剣先からツタのようなものが出ており、地面を通して俺のところまで伸びているようだ。
「申し遅れました。私の名はクリス。ガリアス様の専属執事でございます。」
ほお、どおりでさっきから大人しいなと思ったら執事だったか。でも、こいつ只者じゃないな。
「執事にしておくのがもったいないな。」
「ほほ、褒め言葉として受け取っておきましょう。」
ニヤニヤしながらもその強さは本物だ。ツタの強さは魔力に匹敵する。それゆえ、このツタは太くて切りにくい。しかも、拘束も、絶対に抜け出せない縛り方をしている。元軍の関係者ってところか。
「どうした!?クリス!!早くそいつを殺せ!!」
自分が完膚なきまでにやられたのが余程くやしかったのだろう。会話の途中なのに割り込んできた。
「ガリアス様。そんなに簡単に殺していいのですか?」
「そ、それは……」
「そう思い、この植物には特別な効果があるのですよ。」
「特別な効果?なんだそりゃ?」
「はい。この植物は相手の体力を奪い、体力がなくなると次は生命力を奪っていきます。じわじわと苦しみながら惨めな死を遂げるんです。死ぬまで決して切れません。」
「素晴らしい!!俺にもできるのか?」
「はい。ガリアス様なら必ず。」
「よし、ならそいつが弱るのをジワジワと眺めようじゃないか。」
成る程、さっきからなんかおかしいと思ったら俺の体力を吸っていたとはな。
この執事も中々のクズっぷりだな。
「ガリアス様。こやつは中々の腕のようで多少時間がかかりますゆえ、ご休憩をされてはどうですかな?」
「そ、そうか。なら、茶を淹れてくれ。」
「はい只今。」
こいつら、俺がどんどん弱ってくを紅茶を飲みながら楽しむきか?そんなら……
絶望を見せてやるよ。
「お前ら……どうしようもない馬鹿だな。」
「なんだ? 悪あがきか? そう言ってろ。そのうちお前は……」
パン!!
「その内……なんだ?」
俺の体を捕縛していた植物を気合いで吹っ飛ばした。それも、完膚無きまでに。
「馬鹿な!!この植物は聖騎士でもきれなかったというのに!?」
執事も驚いているようだ。普通の聖騎士ならそうだとしても、今回は相手が悪かったな。
「さ、お仕置き開始っと。」
腕をボキボキ!と鳴らし、一歩一歩近づいていく。それとともに、2人とも後ずさりをする。
おそらく、彼らには俺が鬼神に見えるだろう。
「ひぃ!?」
「あ、おい!?俺様を置いてくのか!!」
「うるせぇ!!てめーの事は自分で守れ!!」
執事は主人を置いて逃げてしまった。
「ふ、所詮、金だけな執事だ。誠意も忠誠心の微塵も感じじないな。」
さて……
「かわいい女の子にこんな思いをしたんだ……覚悟は出来てんだよな?」
「ひぃ!?」
恐怖のあまり、尻もちをついて地べたを這いつくばる。すると、ズボンがだんだん広がる様に濃くなっていく。
まさか、失禁するとは思わなかった。これ、人に見られたら自害したくなるほど恥ずかしいのだ。
でも、だからって許すわけにはいかない。
「逃げるな。男なら覚悟を決めろ。」
俺は、足を持ってガリアスを引きずり、襟を掴んで持ち上げた。
「は、離せ! 俺を誰だと思ってる! 大貴族のコーラン家の御子息だぞ!!」
ほお、まさかコーラン家の息子とはな。(詳しくは後日説明。)
「だからなんだ?お前を殺すと親父が黙ってないとかいうのか?」
「も、もちろんそうだ!」
「だけどな、こうも考えれるんだよ。」
「……?」
「精霊契約で無理をして、高位精霊と契約しようとして失敗し死んだ……っててもあるんだよな〜?」
「そ、そんなこと……」
「どうせ、あの執事もこの森で死ぬんだ。証拠がなければそうやって片付けられるさ。」
「な!?」
「でも、このまま帰還したとしても……精霊契約が失敗したという理由で家を追い出されるかもな。」
「そ、そんなことは……」
「ま、どっちみちお前は終わったんだよ。」
精霊契約とは聖騎士になるためには必要不可欠。
「せめてもの情けだ。楽に殺してやるよ。」
ガリアスが落とした剣を首に当てる。
「ま、待ってくれ!そうだ!お前、俺の護衛につけ!そうだそれがいい!金は好きなだけやるから!お、女だって好きなだけ、やらせてやるから……」
こいつ……
イラっとして、少し力を込めたため刃が肉にあたり血が出ていた。
「ま、待ってくれ!たのむ!!」
俺はトドメをさしてやろうかと思った時……
「待ってください!!」
先程まで恐怖でキョトンとなっていた少女が声を上げた。
流石の俺も少しびびった。
「なんだ?」
「さ、流石にそこまでは……」
その一言に俺は「は!?」っなった。その間に剣先が緩み、喉元から離れる。
「なんでた?こいつはお前を襲落とした挙句、純潔を奪おうとした最低男だぞ?殺されても文句は言えんだろ。」
「でも……」
少女は覚悟を決め……
「確かに私は襲われました。でも、その方を殺されないでください。」
「………」
「その方にも家族がいます。家族が失う悲しみは私はよく知っています。」
「だが……」
「お願いします!殺さないでください!」
「………わかったよ。」
俺は剣を捨て、襟をさらに強く掴んだ。
「俺は今すぐにでもお前を殺したい。だけど……そいつが殺さないでっていう以上、俺は殺さない。」
殺さないと聞いてこの馬鹿は安心したのか少しニヤついた。
それに俺は火がついた。
「殺さないかわりに……」
俺は大きく振りかざして……
「病院送りにしてやるよ!!」
ブォーン!!!!
「ぎゃー!!!!」
勢いおく空の彼方へと消えていった。
「うん。あの方向なら町の方角だし、全身骨折で済むだろうな。安心安心。」
多分読者含めここにいる精霊全員が「それは安心なのか?」とおもっただろう。
「殺したわけじゃないし、生きてればいいじゃん。」
「誰に言ってるんですか?」
お、ナイスツッコミありがとう。
てか……
「高位精霊がこんなとこで何してんだ?」
「それは……」
どうやら訳ありのようだな。
「あ、それより……」
少女は俺を押しのけ走っていく。草むらあたりを漁っている。
そして、その手には血まみれの蛇が握られていた。
精霊語「ごめんなさい……私のせいで。」
精霊語「いえ、姫が無事なら……」
何やら精霊語で話をしている。
「う、ぅぅぅ……」
精霊語はわからないが話からすると……
「その精霊がお前をかばったのか?」
蛇「いえ、違うんです。私のせいなんです……私が油断したばかりに……」
お、人語話せるとはあいつもかなりの精霊だな。
「そうか……」
精霊語「姫、私は精霊王の元にいきます…」
精霊語「そ、そんな……」
精霊語「姫、お先に良き夢を見させていただ
きます……」
精霊語「いや!行かないで!」
「ううぅ……」
泣いてしまった。
それは、俺の中の何かを動かた。
いつぶりだろうな。こんな感じになったのは……誰かを助けたいとおもったのは。
「ちょっとそいつを見せろ。」
「うぅぅ………ど、どう…するつもです…か?」
「いいから見せろ。」
俺は少女から蛇精霊を受け取り、傷ぐちを見る。
傷口はそんなに深くないが出血がひどいな。これなられなんとか……
懐から液体が入った瓶を取り出した。
「ほら、泣いてないでこいつをかけてみな。」
「うぅぅぅ………これはなんですか?」
「いいからかけてみろ。」
「わかりました……うぅぅぅ……」
泣きながらその液体をかけた。
すると……
「な、何これ!?」
突如傷口が光を帯び、傷がどんどん縮まっていく。
そして……
「うう、は!?一体何が!?」
さっきまでガクンとしていた蛇が嘘のようにピンピンしている。
「確か、私は死んだはず……なのになんでここに……」
どうやら混乱しているようだ。
「うわぁぁぁん!!!」
突如少女がまた、泣き出した。
「ひ、姫!?」
「よかったよかったよかったよかったよかったよかったよかったよかったよかったよかったよかったよかったよかったよかったよかったよかったよかったよかったよかったよかったよかったよかったよかったよかったよかったよかった!!」
「ひ、姫。く、苦しいです……」
今の少女には、誰の言葉も入ってこないだろう。
あたりは涙でプールみたいになっていた。精霊の涙って高くうれたっけ?
それより……
泣いてはいるが、表情はものすごく喜んでいる。
こうしてみるとすごくかわいいな。
この出会いが俺の運命を変えた。