第七話『ペルペル』
天野は深呼吸をし、栗尾に問いかけた。
「……栗尾。敵は何人だ」
「座繰。何人?」
栗尾は、先頭にいた座繰に数を数えさせた。
座繰は、画面のカメラを拡大し、遠くにいる瓦礫山の影に見える二機のZEROを確認する。敵のZEROたちは、辺りをキョロキョロとはして様子から、まだこちらに完全に気づいたようではなさそうだった。
「うーん。人影は二つですがもう少し接近して見ないことには。瓦礫山の後ろに潜んでる可能性も……」
座繰がそう言った瞬間、座繰のZEROに覆いかぶさるような真っ黒な影ができた。
「っ!?」
座繰は気配を察知し上を見上げると、白いのっぺらぼうの、まぎれもないZEROがすでに座繰のZEROを射程に捉えていた。
そしてすぐさま何か鈍痛な一撃が座繰のZEROのカメラが揺らした。
「うわ!」
座繰が驚いて声を上げた。
すぐさま座繰のモニター画面はNO SIGNALの文字が表示される。
「く、座繰機やられました」
戦闘不能。
座繰は何が起きたのかは全く理解できなかった。
しかし、座繰のすぐ後ろを歩いていた栗尾と睦合のZEROのカメラからは、敵のZEROがブレードで一瞬のうちに首から脇腹にかけて切り裂いた様子が見えていた。
「……くっ!」
栗尾はすぐさまマシンガンの引き金を引く。
地面伝いに弾痕が敵のZEROを追う。
しかし敵のZEROはそれらをすでに予知しているかのようにすべて交わすと、すぐに攻撃態勢に入った。
そしてすぐさま、栗尾と睦合の二機に同時に攻撃を素手で繰り出す。
「早……」
栗尾はとっさに攻撃をかわしたが、地面を転がった。睦合は交わすことはできずに関節部分に手刀が突き刺さる。その後、中の配線をぶち切られ、即座に機能が停止した。
一瞬の出来事に、天野が栗尾に問う。
「おい何があった。報告しろ栗尾」
「……隊長機です! 現在応戦中!」
栗尾は再度距離を取り、マシンガンで近寄らせない。
しかし、毎分三百六十発のマシンガンは、十五秒もすると弾がつきる。
敵はその弾切れを見計らい、弾が尽きると同時に敵は栗尾に突っ込んで来た。
「……!」
栗尾は、空になったマシンガンを捨てると、ブレードを抜き、敵に向かって突っ込んだ。
栗尾の切迫した状態を感じ取った天野が、
「ちっ、どうやら奇襲好きな隊長さんらしいな」
天野は不機嫌そうに言った。
すでに一機がやられている。
数ではまだ五分だが、これ以上やられるとかなり不利になる。
こういう狭い土地は、人数差がもろに出やすい。
そう考えていると、神崎が席を立ち上がる。
「天野さん! 俺らもそっちに合流しましょう!」
神崎が助言する。
「だめだこれ以上固まったら包囲されたとき突破できなくなる! 大見、森口は近接戦闘用意!救援に迎え!」
天野は大見と栗尾に命令する。
二人は「了解」と短く答えると、すぐに栗尾達がいる方は走りだした。
天野の顔に少し焦りが見えた。
「俺らの周りにも潜んでる可能性がある。対遠隔兵器レーダーは聞かないのが厄介だ」
天野はそういうと、マシンガンを構える。
天野達は慎重に路地を進んでいった。
一方栗尾はひたすら攻撃をしのいでいたが、苦戦していた。栗尾のZEROは動かす足や腕からすでに火花が散っている。
「こんな、終わってたまるかっつーの!」
栗尾のZEROが渾身のパンチを繰り出す。しかし敵はそれもスルリとかわすと、すぐさまグネリと体をねじり、復元力も利用して栗尾のZEROに蹴りを入れる。
「ぐっ!」
栗尾はとっさに回避するが、しなやかなZEROの足はついに、栗尾のZEROの左腕を折った。
「うっ!」
栗尾のZEROは衝撃で地面に倒れる。
かつ
「もう見えてます!」
大見はそう言いながらスナイパーライフルを構えた。
「狙撃ってこんな体勢じゃ……」
栗尾は二の足を踏む。それとは対照的にすでに大見は準備は整っており、すぐさま引き金を引いた。
対遠隔兵器用の鉛玉が発射される。
しかし、敵はとっさに身を竦める。重厚な鉛玉は、命中することなく、その奥の家屋の壁をえぐっただけだった。
「交わした……?!」
大見は目を丸くする。大見に嫌な悪寒が走った。先行する栗尾が銃を構えたと同時かワンテンポ置いて、敵は剣を取り出し、森口のZEROを引き裂いた。
「くっ……!」
森口の画面にもNOSIGNALの文字も表示される。
「反応速度がすごい。栗尾さん気をつけて!」
大見は神妙な顔でそういうと、スナイパーライフルを捨てて腰のブレードを引き抜いた。
それに合わせて栗尾も引き抜く。
大見達二機のZEROは即座に敵隊長機に向かって突っ込んだ。
すると敵隊長機は独特の体術の構えを見せる。
「抜かないのか!?」
大見が驚いたその瞬間、栗尾のZEROが前に出て切り掛かった。
「死ねっ!」
その刹那。敵隊長機の華麗な回し蹴りが栗尾のZEROを直撃した。
鈍重な一撃は栗尾のZEROの脇腹を引き裂いた。
栗尾は、大見が何を言ってるのかがわからず聞き返した。
大見はすぐさま天野に尋ねる。
「天野さん! 僕以外にこの会社にスカウトした人っていないんですよね!?」
大見は神妙な顔で言った。
「なに?!どういうことだ」
天野はそんな大見の顔を見ながら即座に答えた。
「こいつ……僕知ってます! 僕のやってたゲームの世界ランキング二十四位の日本人ランカーですよ!」
大見の一言に部屋が静まる。
GROWN WARの上位ランカーがこの戦いに参戦しているのだ。
GROWN WARでの上位ランカーが優秀であることは大見自身がシミュレーション演習で立証している。
天野は焦りながら、敵である十四班のデータベースプロフィールを開く。
そこに書いてある敵の隊長『波路町』には、特に特筆すべき事項は書かれていない。
「ばかな。そんなデータはどこにも……」
天野が驚いた顔で呆然としている。
「……ペルペルは体術の達人なんです。『GROWN WAR』の時も物理エンジンの数値と挙動をほとんど把握してGROWNを動かしてました。体術に関しては間違いなく、トップクラス……」




