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『人のいない戦争』  作者: 電子
第1章『入社』
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第五話『本音と疑惑』

「ありえない! こんなのは」


 企画会議が終わり、皆が昼飯を済ませに出払っている中、大見は五枚ほどのホチキスで止められた書類を片手にソファーで頭を抱えていた。


 しばらくすると、ドアが開き、先ほどの班長会議で出払っていた天野が戻ってきた。


「あれ? みんな出払ってるのに、どうした大見。お前昼飯はいいのか」


天野は一人うなだれている大見を見ながら言った。


「……この書類を出すために待ってたんです」


大見が席を立ち、天野に渡す。


天野はその書類を受け取り、パラパラと目を通す。


「ああ、オプションパーツの企画書ね? 机に置いといてくれれば、後で目を通すのに」


天野はそういうと、その書類をポンと机に置き、昼飯を食べに行くのか財布をポケットに入れた。


「いや! 待ってください。これ、仕事と言えるんですか?! やばいですよこの企画書の内容」


大見は企画書を指差す。


「なんかあったのか?」


天野がもう一度企画書を手に取り、再度ページをめくる。


「小学生以下の内容なんですよ! 僕でもわかります」


大見が声を荒げた。


 そう。あの二時間で話し合いは、まるでクラスの学級会のように、話し合いのプロセスを踏まず、ただただ空想を皆で言い合っただけであった。


そして、その戯言が書き連ねられたのが、この『企画書』である。


 天野はタイトルを見る。


「タイトルは『最強の対空ミサイルをZEROに装備する』か。ははは。このタイトル書いたのは神崎だな」


天野が笑うと、企画書を机に放り投げた。


「笑ってる場合ですか! 怒られますよこれ!」


大見が天野に訴える。


「いや大体これでいいだろ」


めんどくさくなったのか、中身もろくに見ないまま天野はGoサインを出す。


「え?! 企画書ってことは、これどっかの会議で発表するヤツです……よね?」


「次の第一開発部企画課の会議でするよ? 私が」


「ええ?! いいんですか? 僕だったら恥ずかしすぎて自殺します」


大見は目を丸くして天野に言った。


「文章さえ弄ればまともになるよ。例えばこの『最強の対空ミサイルをZEROに装備する』だって『現段階における対空ミサイル技術のZEROへの転用の可能性』とかにしておけばそれっぽくなるだろ?」


天野が笑う。


確かにタイトルこそそれっぽいが、中身まで取り繕うことはできない。


いや、天野は中身も全てそれっぽくまとめ直す気なのだろうか。


そう大見は考えつつ、ジト目を天野に向ける。


「天野さん……もっと真面目な人かと思ってました」


大見はため息をつきながら呟いた。


「失望した目線を向けるな。こんなのはな、お遊びだよ。俺らが国民、さらには他の経理部や総務部の社員に対して業務内容を隠蔽するためのな。ここの業務内容を知っていいのは、上の役員共と、そして俺ら開発部だけだ。他の社内の連中には適当に仕事っぽいことしてるそぶりをみせていかにも普通の仕事をやってるように見せるんだよ」


天野が言う。大見にとって天野の第一印象はもっと真面目な人間だと思っていたが、思ったよりそうでもなさそうだ。


いや、手を抜くところは抜く人間なだけかもしれない。


「でも、表の仕事がこんな適当だなんて。天野さん、最初、「ZEROは開発などを知ってる我々だからこそ使いこなせる」だとか「だから軍ではなく法人に委託している」っていっていたじゃないですか。僕たち、これ開発に入るんですかね?」


大見が天野に尋ねる。


「あーまぁそれは綺麗事というか……実際は一部だけだよ。実は、ほとんど表業務はおまけだ。本当にその『言い分』を満たしてるのは、表向きの部署が研究開発課に所属している一班とか二班みたいな純粋な戦闘班だけだ」


「研究開発課?」


「……エリートの奴らの集まりさ。任される戦闘業務も大掛かりなものが多い。それに、機密性も国家機密レベルの案件ばかり扱ってる。俺ですら情報は知らない」


「へぇ。じゃあうちの六班は?」


「小規模な紛争処理、残党処理、災害処理とか。あ、一回だけベトナムで交通整備ってのもあったな。デモが起きてね」


「ええー……」


「落胆したか? ほとんどがこういう感じだよ。残りの三班から二十班まではな」


天野がやれやれといった素振りで言った。


 そんな天野の言い草を聞いてるうちに、ふと、大見は疑問を浮かべた。


 陸自などの軍隊ではなく『いち法人』にこの業務が託された理由は、どうやら実情は違うということだ。


それの理由付けは一部の班が責任的に担っているだけで、他の班は実際は特にそういうわけでやってるわけではなさそうだった。


 だがそれでもここまで規模を拡大する意味が、大見には少し不可解だった。


表向きにはこの業務そのものが法に触れるものであり、本来ならばその業務に係るものが増えれば増えるほど情報統制は難しくなるからだ。


それなのに、そこまで重要でもない任務をわざわざ三班〜二十班、単純計算で140人程度に情報を与えることはかなりのリスクを抱えることになる。


これほどのリスクを抱えるくらいならばいっそ自衛隊に全て権限を渡したほうがよっぽどノンリスキーなように思える。


「……天野さん、あの……」


大見は天野に尋ねようとする。


「なんだ?」


天野は優しげな顔で答えた。大見は押し黙り、二人の間に沈黙が流れる。


 すると、静かな部屋に突然アナウンスが流れた。


"合同演習のお知らせです。十四班波路町隊、六班天野隊 十三時からコード00092で模擬戦を行います"


「……間が悪いな。質問は後にしてくれ。お遊びの準備をしなきゃならん」


天野は駆け足で自分のデスクに向かいパソコンを起動する。


「あ、天野さん? お遊びって?」


「今からやるお遊戯だ。模擬戦だよ。負けたら最悪だ」


「ま、負けたらなんかあるんですか?」


「……負けたらのお楽しみだ。大見。みんなを集めてくれ」


天野は少し急いだ口調でそう言うと、デスクに座りなにやらキーボードをカタカタと叩き始めた。


大見の周りになにやら騒々しい風が颯爽と吹き始めた。

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