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『人のいない戦争』  作者: 電子
第3章『非日常な日常』
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第二十二話『トラップ』

 天野たちは、南アフリカ共和連邦に降り立った。ケープ国際空港内は、あたりに警備職員がぎっしり張りつめていた。そのおかげか、港内は比較的治安が良い。日本と変わらないくらいだろう。

 しかしながら、そのような状況とは対照的に、窓から見える街々の景色は、ひどく荒廃していた。打ち捨てられたゴミクズが風と共に宙を舞い、浮浪者のような失業者が、そこかしこにたむろしていた。目を凝らしてみれば、遠くからは黒煙が上がっているのもわかる。

 聞こえる音といえば、救急車、警察車両のサイレンと、たまに聞こえる喧嘩の罵声くらいなもんだろう。


 その凄惨な街の様子は、天野と栗尾が首につけた小さなアクセサリー状の隠しカメラをとおして、部屋にいる大見達の目にも入っていた。


「……ひどいな。二十一世紀の半ばまでは、アフリカ大陸きっての先進国、南アフリカも変わっちまったな」


部屋のモニターに映るその様子を見た森口が思わず口にした。森口だけじゃなく、大見を含む誰もが思っただろう。日本という治安がオールグリーンな国では体感することがないその光景に、みな不思議な感覚を味わったはずだ。


「それにしても……こんなところにバルトアドバンス社があるんでしょうか。とてもあるようには見えないんですが」


大見が森口に尋ねた。


「ホームページは存在しているようだし衛星写真ではこんな風に映ってる。でもメールも電話も繋がらない。休みなのか、それとも暴徒に襲われでもして全員殺されたかだな。はははは」


森口は笑いながら、バルトアドバンス社を写した衛星写真の画像を大見に渡す。

 そこには、四角い小さな建物がそこにポツリと写っていた。あたりには小さな二、三階建ての小型のビル群、そのどれもが使われているかどうかわからない廃墟ビルの様相を呈していた。


 そうしているうちに天野から無線を入った。


"現在目的地に向け進行中。装甲車でよかったよ。拳銃もったチンピラに襲われても安全だ"


天野は冗談まじりで言った。近くを歩く人々は天野達が乗るG-58型装甲車を珍しがってジロジロとみてくる。中には棒切れで叩いてくるものもいた。


 しばらくすると、目的地のビルにたどり着いた。先ほどとは違いあたりに人影は少ない。みた限り玄関口には案内も何もないが、ビルの上に看板らしきものが英語で書かれている。


「ここが目的地のはずですが……降りるのは少々危険かと。ZEROを先行させてはどうですか?」


大見が天野に進言する。すると天野は即答した。


"そうしたいのは山々だが、あくまでZEROは最終手段だ。ここは我々だけで確認する"


天野はそういうと腰から拳銃を取り出し、弾が装填されているか再度確認した。


"まさか生身でこいつを扱うことになるとはな"


天野が装甲車のドアを開ける。栗尾も後に続いた。玄関口に向かい、一階に入る。


"翻訳機……っと。あー。誰かいませんかーー??"


天野が叫ぶ。それに遅れて翻訳された英語が繰り返された。


"誰もいないって……。おじさん怖くなってきちゃったよ"


天野はそういいながら階段へ向かった。


"やめてくださいよ。ピリピリしてるんだから! 休みかも知れませんよ?"


栗尾が天野に言った。


"こんな物騒なところに鍵をかけないバカがいるか。守衛もいないって……ますます怪しいだろ。GROWN WARの一位のベンジャミンってプレイヤー、やっぱあのデータはフェイクか"


天野はそう言いながら階段を登る。少し警戒しているのか、拳銃をすでに手に持っていた。それに気がついたように、あわてて栗尾も拳銃を取り出した。


「あたりに反応はありません。遠隔兵器はないようです」


"いてたまるか。ブーゼルなんか出てきたらこんなオモチャじゃダメージすら与えられないんだぞ"


天野はそういうと一旦立ち止まった。


"……まて。何か音がする"


天野は、二階の廊下の突き当たり、一番奥の部屋を見た。


「……こちらからは聞こえません。なんの音ですか??」


大見が天野に尋ねる。


"うん……なんか……ディスクが回る音かな。なんか動いてるのかも。佐伯。あたりの通信トラフィック調べてくれ"


天野は佐伯に指示を出すと、その音の発生源であろう部屋に近づいた。


"……鍵がかかってる?"


天野は扉を開けようとしたが開かない。仕方なく天野は諦め扉から手を離した。


その瞬間、けたたましいサイレンが建物内に鳴り響いた。


"くそなんだこれ!! 大見どうなってるっ!"


天野は耳を抑えた。

 すると、今度は大見達六班の部屋でもピーピーピーと警告音が鳴った。熱レーダーに蠢く熱源が一つ映し出されていた。


「ね、熱源反応っ!!」


レーダーとモニターを監視していた大見が叫んだ。


"何?! どこからだ!"


天野はすぐに銃を構えた。辺りを見渡すが、それらしき影はない。


「階段裏……!? 現在階段を登っています。 型番はGTJ-5045……マスクドです! 数は1」


大見が言った。


"クローンデジタライズの旧型の遠隔兵器か……! そいつが門番ってわけだ"


天野は拳銃を構える。ゆっくり、一歩また一歩と階段を登ってくる音が聞こえてきた。その不気味な等間隔の足音が緊張をさらに高める。


「ZERO起動します!」


大見は装甲車に待機させているZERO三機を起動させようとした。しかし、天野が制止する。


"必要ない。マスクド程度なら脱出できる"


天野はそういうと安全装置を外し撃鉄を引く。


「危険ですっ!」


"栗尾! マスクド型はブーゼルと違って拳銃は余裕でぶち抜ける。こいつは動力源が下腹部だったはずだ。そこを狙え! 俺がやつを引きつける。お前はその間に抜けろ!"


天野はそういうと走り出した。


"ちょっと!!"


栗尾は思わず叫んだ。

 天野は走ると、二階に向けて最後の二歩のところまで登りかけていたマスクドに向けて引き金を引く。重い反動とうるさい銃声が鼓膜を突き刺した。

 しかし銃弾は少しそれて左足に当たる。


"こっちだポンコツ!"


天野はそういうと、反対側の廊下へ走りマスクドを誘導する。マスクドは歩行がすこぶる遅い。おそらく操縦者がいない自律走行だろう。自律走行の場合、姿勢を保って歩行するだけで精一杯になる。ゆっくりと天野の方に向かって追いかけていった。

 栗尾はその隙に階段から一階と二階の階段の中腹に身をひそめる。


"天野さん挟みましょう!"


栗尾は銃を手に壁を背にして機会を伺っていた。


"了解だ。奴が俺の有効射程に入ったら一斉射しろ"


天野はそういうと拳銃を構え、狙いを定める。ZEROなら機械がオートでずれを補正してくれる。だが今回は生身。そんな機能はない。天野の呼吸が次第に荒くなる。


すると、なぜかいきなりピタッとマスクドは停止した。


"……?"


天野は不審に思ったが、動く気配はなかった。30秒だろうか、いや1分……そのくらい待ったが、動く気配はない。


"動かないですね"


栗尾はそういうと銃を下ろして、少し近づいた。その瞬間、マスクドのいきなり目が起動した。そして後ろを振り向き、腰から銃を素早く取り出した。明らかに先ほどとは違う動き。


"栗尾!"


天野は反射的に走り出していた。そしてマスクドに飛びついていた。この間、2秒ほどの出来事だった。

天野に抱きつかれたマスクドは体制を崩して地面に倒れた。


"逃げろ!"


マスクドは、思いっきり体をひねり、天野をはねのけた。その衝撃で天野は、吹っ飛ばされ、地面を二メートルか三メートルほど転がった。それに追い打ちをかけるように、マスクドは手榴弾を投げる。


"く……"


天野はすぐさま立ち上がろうとした。これがもし、ZEROだったのならば、立ち上がれていただろう。そして退避することなど造作もないことだったに違いなかった。もしかしたら反撃で一、二発、ぶち込めてたかも知れない。

 だが、今は違う。人間の体だった。ZEROと天野の生身の体では、性能がまるで違っていた。


"ドォォン"


天野は爆風で吹っ飛ばされた。衝撃で左腕がちぎれ、顔面は血だらけになっていた。


「あ……」


大見が、声にならないような言葉を発した。

 班員の誰もが起こったことが現実なのか混乱していた。その中で、森口だけが冷静さを保っていた。


「馬鹿野郎なにしてる! ZERO出すぞ!」


森口はすぐさまデスクに戻った。ハッと気づいたようにZEROの操縦メンバーの大見と神崎が席に着き、ZEROの操縦コントローラーを握った。


「わ、わたし、救急車を!」


睦合が慌てて電話を取り、国際電話番号を調べている。


「アテになるかこの国の救急なんか! ケープタウンのデジタライズ社に連絡しろ! そこなら確実だ!」


森口はそういうとZEROで階段を即座に駆け上った。それに続き大見、神崎が続いた。


「おい! 栗尾っ! しっかりしろ!」


森口が叫ぶ。栗尾はその場で呆然としていた。まるで蝉の抜け殻のようで、森口の言葉が届いていなかった。


「神崎! 栗尾を装甲車に!」


森口はそういうと、マスクドに向かっていった。腰からブレードを抜き、振り下ろす。マスクドは奇妙な軋み音を上げながら、まるで体操選手のように交わした。

 森口は、すぐさま天野の盾になるように、マスクドの前に立ちふさがる。


「大見。こいつは……俺の動きを即座に認識して、最小限の動きでかわしてやがる。旧型の自律走行にしては高性能すぎるぜ」


森口がブレードを構える。


「ええ。こいつは自律走行じゃない。誰かが操っています」


大見はそういうとハンドガンを取り出す。


"……おや、そのクセ……銃を取り出しながら片手でリロードする仕草は、ベトナムの……あのZERO君かな?"


声が聞こえてくる。ザラザラとノイズが混じった声。マスクドから、その音は発せられていた。


「……おまえは!」


大見はそういうと、銃を構えた。


"おいおい。悪かった降参だよ。君相手にさすがにこのポンコツじゃ敵わない。こっちだってまさか君が出てくるとはおもわないからさ"


マスクドはそういうと銃を捨てた。


「何が降参だ……! お前……誰なんだ! ベンジャミンか?!」


大見は銃を突きつける。


"ベンジャミン? ああ! あのくだらないゲームか。懐かしいね"


マスクドの操縦者が言った。


「懐かしいだと?! お前、今何やってるのかわかってるのか? 殺しを楽しんでるだろ!」


大見は震えた声で言った。もちろんこれは怖いのではなかった。大見はそのヘラヘラした態度と口調にすこぶる腹が立った。


"楽しんでる? 楽しんでるのはそっちだろ?……バカ言うなよ"


マスクドから、またもヘラヘラとした声が聞こえてくる。


「黙れ! お前、ここで何やってる?」


"質問したり黙れっていったりなんなんだよ。別にここでは何もしてないよ。ここは特に役割を果たさないデコイさ。じゃあな"


そういうと、マスクドは主電源が落とされたのか、活動が停止した。


「おい! ふざけんなよ! 何がデコイだ! おい!」


大見は叫んだ。


「大見。もういい。それより班長を……。出血がひどい。止血はしたが、ZERO越しの雑な手当てだ」


森口が大見をなだめる。未だに興奮状態にある大見が、コントローラーを握りながら未だに息を荒げていた。


 そうしているうちに、謎のもう一つの装甲車が到着した。そこにはクローンデジタライズの三日月のマーク。

 彼らはすぐさま、天野、それから放心状態の栗尾を装甲車に載せると、すぐさま支部に戻っていった。




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