第十九話『不穏』
ベトナムでの、紙が舞い散る中で行ったあの乱戦は終わった。
第六班の戦闘は終わり、皆が部屋の外に出ようとドアを開けると、その前にはまるで取材陣か何かのように、他班の連中が集まっていた。どうやら噂がどことなく漏れていたらしい。
「なぁ神崎。お前んとこ、今回大ゴケしたんだって?」
二十代に見える陽気そうな男が、神崎に質問する。神崎の名前を知っているあたり、神崎とは顔見知りなのかもしれない。
「るせー。質問なら後にしてくれ。目がチカチカして頭が痛いんだよ」
神崎はその男をシッシッと手でおいはらうような仕草を見せた。そんな神崎に続いて、天野が部屋を出る。するとまた野次馬は天野に殺到した。
「あ、天野技術部! 今回、全機失ったってほんとっすか」
質問が投げかけられる。それを見かねた神崎がイラついた口調で言った。
「お前らいい加減に……」
神崎は天野を守るように野次馬を押し退けようとする。そんな神崎を天野は「いいよ」とでも言いたそうな優しいジェスチャーで制止すると、野次馬たちに向かって説明を始めた。
「本当だ。しかも鹵獲された。私の責任だ。報告書は後日部内のネットワークにあげられるから詳しくはそれを読んでくれ」
天野はありのまま説明する。ざわつく野次馬たち。そんな野次馬に一瞥すると、天野は大見に言った。
「……大見。少し話があるんだが」
天野は大見の腕を掴み、野次馬を押しのけて人気のないところへ向かった。大見は天野に人気のない奥の廊下の突き当たりに呼び出された。
「無理やり連れてきてすまないな……頼みがあるんだが、今回はお前にも報告会に出席して欲しいんだ」
天野が言った。突拍子のないことだったので大見は少し動揺した。
「え? 報告会にはいつも天野さんだけで」
大見は驚いた口調で言った。
「俺が特別に申請した。安心しろよ。俺の責任逃れの弁明のために呼んだんじゃない。ちょっと気になることが二点ほどあってな」
天野は神妙な顔で、廊下の壁にもたれかかる。大見はそんな天野の様子を伺う。
「二点?」
大見が尋ねた。
「お前に話すのは迷ったんだがな」
そう天野は言うと、話を続ける。
「まず一点、お前はあのバンバリンとかいうただのテロリストグループがあれほどまでの力を持っていること、にどう思う?」
「そう……ですね。あのブーゼルの頭数とあの練度……少なくとも居酒屋にいた2体はともかく、書店にいた方の5体は全機、一定の技術は持ってましたし……テロリストにしては手際も良かった」
大見は答えた。天野はうんうんと小さく二回うなづく。
「俺は奴らはプロ集団じゃないかと思ってな。確証はないけどな」
「プロ……」
「ああ、それと二点目、あの親玉のブーゼル。あいつはお前を倒したんだ。しかも圧倒して、だ。あいつはもしかしてGROWN WAR経験者じゃないのか? 心当たりある奴はいないか?」
天野は尋ねる。
「……思い当たるとしたらベンジャミン。GROWN WAR 世界ランキング一位、アメリカのプレイヤー……です」
大見はブーゼルにやられるときのことを回想しながら、その名前を口にした。
「ふーん……おれはそのベンジャミンが怪しいと思う。麻生でも、お前に戦闘で敵う奴はおそらくいないだろう。他の遠隔兵器業務を行っている法人の中にも、お前や、14班の波路町のようなGROWN WAR経験者以外に、あれほどまでの力をもっている奴がいるとは考えにくい」
天野は神妙な顔で言った。
「でも、前に言ってましたよね。他の十位以内のランカーは全て他社が引き抜いたって」
「そう報告を受けてる。どことまでは言われていないが。だから上にはそれがガセの可能性があることと、ベンジャミンの所属を突き止めるよう提案する。それから他の十一位以下のランカーで隠れてた奴はいないか」
「なるほど……わかりました。ベンジャミンについて聞かれた場合は僕から説明します」
大見はそういうと、時計を確認した。
「よし。準備しとけ。あと10分で始まる。今回は報告会兼、反省会ってやつだ。お前に責任は一切ない。万が一追求されてもおれが擁護するから安心してくれ」
天野はそう言うと大見の肩を叩いて部屋に戻っていった。




