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『人のいない戦争』  作者: 電子
第3章『非日常な日常』
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第十九話『不穏』

 ベトナムでの、紙が舞い散る中で行ったあの乱戦は終わった。

 第六班の戦闘は終わり、皆が部屋の外に出ようとドアを開けると、その前にはまるで取材陣か何かのように、他班の連中が集まっていた。どうやら噂がどことなく漏れていたらしい。


「なぁ神崎。お前んとこ、今回大ゴケしたんだって?」


二十代に見える陽気そうな男が、神崎に質問する。神崎の名前を知っているあたり、神崎とは顔見知りなのかもしれない。


「るせー。質問なら後にしてくれ。目がチカチカして頭が痛いんだよ」


神崎はその男をシッシッと手でおいはらうような仕草を見せた。そんな神崎に続いて、天野が部屋を出る。するとまた野次馬は天野に殺到した。


「あ、天野技術部! 今回、全機失ったってほんとっすか」


質問が投げかけられる。それを見かねた神崎がイラついた口調で言った。


「お前らいい加減に……」


神崎は天野を守るように野次馬を押し退けようとする。そんな神崎を天野は「いいよ」とでも言いたそうな優しいジェスチャーで制止すると、野次馬たちに向かって説明を始めた。


「本当だ。しかも鹵獲された。私の責任だ。報告書は後日部内のネットワークにあげられるから詳しくはそれを読んでくれ」


天野はありのまま説明する。ざわつく野次馬たち。そんな野次馬に一瞥すると、天野は大見に言った。


「……大見。少し話があるんだが」


天野は大見の腕を掴み、野次馬を押しのけて人気のないところへ向かった。大見は天野に人気のない奥の廊下の突き当たりに呼び出された。


「無理やり連れてきてすまないな……頼みがあるんだが、今回はお前にも報告会に出席して欲しいんだ」


天野が言った。突拍子のないことだったので大見は少し動揺した。


「え? 報告会にはいつも天野さんだけで」


大見は驚いた口調で言った。


「俺が特別に申請した。安心しろよ。俺の責任逃れの弁明のために呼んだんじゃない。ちょっと気になることが二点ほどあってな」


天野は神妙な顔で、廊下の壁にもたれかかる。大見はそんな天野の様子を伺う。


「二点?」


大見が尋ねた。


「お前に話すのは迷ったんだがな」


そう天野は言うと、話を続ける。


「まず一点、お前はあのバンバリンとかいうただのテロリストグループがあれほどまでの力を持っていること、にどう思う?」


「そう……ですね。あのブーゼルの頭数とあの練度……少なくとも居酒屋にいた2体はともかく、書店にいた方の5体は全機、一定の技術は持ってましたし……テロリストにしては手際も良かった」


大見は答えた。天野はうんうんと小さく二回うなづく。


「俺は奴らはプロ集団じゃないかと思ってな。確証はないけどな」


「プロ……」


「ああ、それと二点目、あの親玉のブーゼル。あいつはお前を倒したんだ。しかも圧倒して、だ。あいつはもしかしてGROWN WAR経験者じゃないのか? 心当たりある奴はいないか?」


天野は尋ねる。


「……思い当たるとしたらベンジャミン。GROWN WAR 世界ランキング一位、アメリカのプレイヤー……です」


大見はブーゼルにやられるときのことを回想しながら、その名前を口にした。


「ふーん……おれはそのベンジャミンが怪しいと思う。麻生でも、お前に戦闘で敵う奴はおそらくいないだろう。他の遠隔兵器業務を行っている法人の中にも、お前や、14班の波路町のようなGROWN WAR経験者以外に、あれほどまでの力をもっている奴がいるとは考えにくい」


天野は神妙な顔で言った。


「でも、前に言ってましたよね。他の十位以内のランカーは全て他社が引き抜いたって」


「そう報告を受けてる。どことまでは言われていないが。だから上にはそれがガセの可能性があることと、ベンジャミンの所属を突き止めるよう提案する。それから他の十一位以下のランカーで隠れてた奴はいないか」


「なるほど……わかりました。ベンジャミンについて聞かれた場合は僕から説明します」


大見はそういうと、時計を確認した。


「よし。準備しとけ。あと10分で始まる。今回は報告会兼、反省会ってやつだ。お前に責任は一切ない。万が一追求されてもおれが擁護するから安心してくれ」


天野はそう言うと大見の肩を叩いて部屋に戻っていった。

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