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『人のいない戦争』  作者: 電子
第2章『殺しの実践』
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第十三話『本当の戦闘』

 ZEROを走らせること五分ほどだろうか。


 しばらくすると、怒号と銃声とともに、凄まじい地響きが聞こえてはじめた。


そして、遠くに見える巨大な建物が、何かで覆い尽くされていた。


まるでエサに群がる蟻のように。


「見えてきたな……」


天野がそう言うと腰からマシンガンを取り出す。


その動作を見て、他の班員も戦闘準備を始めた。大見は狙撃銃にリロードを行う。


コントローラーで行う動作一つ一つに、とても鈍重な気持ちがのしかかった。


 大見がリロードを行ったと同時か少し遅れて、タイミングよく、アナウンスが部屋内に流れた。


"隊長の保住だ。今見えるのは内閣府南門。一、六、十八班は各員班単位で敵を制圧。班ごとの指揮は各班長が行え。六班、十八班は退路を作り、我々一班が、中にいる政府職員救助して、二班隊が降下した地点であるAポイントに着陸予定の輸送機にて避難させる。二班隊はAポイントを確保し、そこを死守しろ"


そう言うとぷつっとアナウンスが切れた。


 天野たちは民家の壁に張り付き、一度呼吸を整えるかのように、待機した。


 神崎がため息をつく。


「制圧って……。この人数じゃ制圧も何も切り抜けるのが精一杯だろ」


神崎が頭を抱えて言った。


「ほんと……。ZEROだからいいけど、生身だったら私漏らしてるわ……」


栗尾も軽口を叩く。


 そんな中、天野がいきなり目を見開いたように画面を見る。


天野が見た画面には、人混みから湧き出てきた鋼鉄の塊。


カタカタカタと地面を這いずるように二台、こちらに姿を現していた。


「お前ら! 馬鹿言ってないでかまえろ! こっちにボスがきたぞ!」


 一台は、百メートルほど離れた右前方の噴水群の陰に潜む一班の方向に、もう一台は、まぎれもなく天野たち六班の方向に迫ってきていた。


 付近に歩兵を伴ってまるで絨毯作戦のようにこちらにじりじりと近づいてくる。


「おいおい……! 砲塔こっち向きやがった」


ゆっくりと、鈍重に砲塔が狙いを定める様子に、神崎は息を飲んだ。


砲塔は六班がいる地点に向けて回転し、高さを調節している真っ最中だった。


 バックアップ担当の佐伯のパソコンから、ピーピーピーというアラームがなった。


「しゃ、射撃きます。着弾地点表示!」


佐伯がそう言うと同時に、パッといきなり薄い赤のいびつな範囲バーチャルが、各員の画面に表示される。


「くるぞ! 当たるなよ!」


天野が叫ぶ。それと同時に、壁に張り付いていたZEROたちは、一旦離れる。


大きな路地を、六班、そして後続の十八班のZEROあわせて十数機が、散り散りに逃げ惑った。


「私のまわり赤く染まってる! 当たっちゃう!」


睦合が泣きわめくように動揺した様子を見せる。


おそらく睦合はZERO経験自体浅いのだろうことは大見も知っていた。


睦合は、たどたどしい様子で、赤い範囲バーチャルが表示されていない部分へ、無様に逃げた。


 そんなドタバタから、約一秒だろうか、班員たちにはとても長い時間に感じたが、不気味な間をおいて、戦車からポッと砲煙が上がった。僅かな風を切る音を伴って、範囲バーチャルとはかなりずれた、後ろの方に弾が着弾した。


ドゴンと土煙が上がり、大見たち六班のZEROのカメラが大きく揺れた。


 後ろを振り返ると、後続していた十八班のZEROの一機が、土まみれになって爆風で吹き飛ばされ、横たわっていた。


おそらく直撃ではないが、かなり至近弾だろう。


もしも人間ならば即死だったはずだ。


 しかしそのZEROは土にまみれても何事もなかったように立ち上がった。


ZEROだからこそ、爆風程度の攻撃は無傷。


それはまるでいくら撃っても死なないゾンビのようで薄気味が悪かった。


 現地の敵の兵士たちは、どう考えているのだろうか。


まるで不死の軍団に見えているのかもしれない。


 大見がそんなことを考えていると、神崎が叫んだ。


「おい佐伯! 測定ズレてんじゃねえか! ちゃんと計れバカ!」


「僕に言わないでください。僕が計算してるんじゃないんですから。文句があるなら機械に行ってくださいよ」


佐伯が無感情に反論する。


 散り散りになったZEROたちは、各々で各民家の影などに身を潜めた。


「口論はあとだ! 戦車をどうにかしないとまずい! 狙撃班準備! 車長を狙え!」


天野が口調を荒げた。


戦車から身を乗り出して指示を出している車長を狙うよう天野が言った。


「は、はい!」


大見があたふたしながらコントローラーを操作し、即座に射撃姿勢をとる。


 また、同じ狙撃犯の栗尾もすぐさまスコープを敵の戦車の上部に向けた。


 大見はスコープの照準を合わせようとスティックで調節しているが、手が震えてうまく合わない。


今までこんなことはなかった。


震えるなんてことは。


「なにやってる!」


天野が隣で叫ぶ。


「ふ、震えて」


大見が言った。


震えの原因はわかりきっていることだった。


極度の緊張と、ここで一線を超えてしまったら、自分はどこかおかしな人間になってしまうんじゃないのか。


人殺しになるなんてーー。そんな苦悶する大見に、天野が頭を抱える。


「おい!」


 天野は叫ぶ。


 だが、大見とは裏腹に、平然としっかりとした物言いで答えた人間がいた。


「私がっ!」


栗尾はそう言うと、即座に躊躇なくボタンを押した。


タンという短い銃声が一発。


ひとつの大きな薬莢がゴトンと地面に落ちた。車長の頭はZERO用の大型狙撃銃の銃弾で肩あたりから上全て丸ごと粉砕した。


 『車長の残りの部分』が、命中の衝撃で大きく仰け反ったのが大見のスコープ画面からでも見えた。


「ゔっ……」


 大見は、ズームしていたスコープのせいで、非日常なグロテスクな光景を画面越しに間近で見てしまった。


込み上げて来る吐き気を必死で抑える。


 しかし、グロッキーな大見と違って、敵の戦車のほうは、長を失ってもなお、活動を続けていた。


そんな軍人たちは、ひるむことなく、そして復讐するかのように、狙撃した栗尾の方に砲塔をすぐさま向ける。


「オイオイオイ敵討ちかよ。お前のほう向いてんぞ! 栗尾!」


神崎たちが退避行動を行う。


「佐伯、演算まだか!」


天野が叫ぶ。


「間に合いません! あと2秒!」


佐伯がそう言った瞬間、爆煙が砲塔から見えた。


「とりあえず伏せろっ! 砲弾なんか当たらん!」


天野がそういった瞬間、また大きな爆発が襲った。


砲弾は栗尾から少し右にそれ、森口の目の前に被弾した。

 その衝撃で、森口、そして近くにいた睦合のZEROが何メートルか吹き飛ばされた。


「たく俺かよ。栗尾をちゃんと狙えよな」


森口が軽口を叩く。


「大丈夫か? 損害は」


天野が確認を迫る。


「右手首にダメージ。だが可動は問題ない。睦合もノーダメージです」


森口が隣の睦合の画面を見て、睦合のZEROの被害状況もついでに確認した。


「吹っ飛ばされる人の視点ってこんなんなんだね……」


睦合がつぶやいた。


 その刹那、今度は、右前方の一班のいる方で大きな砲撃による爆発が起き、噴水軍付近に爆発し、2体ほどのZEROが空中に飛び上がった。


 一班は近づいていた分、戦車の命中率も良かったらしく、二人たまたま固まってしまったところを狙い撃ちされてしまったようだ。


「ありゃりゃ。天下の一班も、慣れない敵と、この通信遅延じゃ、敵わないか」


神崎が無駄口を叩く。

 すると、一班の方に着弾したその土けむりに紛れて、残りの一班のZERO達は、なにくそ、とでも言わんばかりに、噴水群から抜け出し、一挙に敵の中に飛び込んでいった。


その瞬間、遠くでは銃声が雨のように鳴り始めた。


「っおい! 一班の奴ら飛び出しやがったぞ」


スピーカーから紛れるパラララという銃声に紛れて、神崎が叫ぶ。


「あの中を切り抜けるつもりか」


天野もカメラ越しにその様子を見て、やや呆れながら答えた。


しかし、恐らく一班の彼らなら、おそらく真正面の突破を成功させるのだろうということは、天野自身感じていた。


彼らの能力は天野は思い知らされるほど知っている。


大見や14班の波路町までは行かないまでも、相当な実力者集団であり、自分たちとは一線を画しているという事実を。


 そんな天野に、森口が静かに天野の方を向いた。


「どうするんです。班長。このままだと迫ってきているコンゴ兵と乱戦になりますが」


森口が言った。


「我々も手をこまねいてるわけにもいかんだろ。だからと言って俺らじゃ大見以外はあそこを切り抜けられないだろう。とりあえずレーダー上は南門付近にデジタライズ社のGROWNが数機……。ということはおそらく米兵も一個二個小隊くらい構えて交戦してる。左のそこから迂回して門の前に出ることができるから、まずやつらと合流しよう」


天野が左側の通路を指し示す。


メインストリートの横道は、曲がりくねっており銃撃されづらい。


敵が配置されていないわけがないだろうが、正面突破ははっきり言っていくらZEROとはいえ、バカのやることだということは、班員の全員が把握していた。


ここを通れば、多少門から距離はあるが、門の横っ腹に出ることができた。


「いやぁ。ここだって相当兵隊を構えてるはずだ。まぁ正面のあの軍勢とぶつかるよかマシだけどよ」


神崎がせせら笑うようにいった。


「とりあえず、あいつらはこのまま圧し潰す気だ」


兵士たちは、ジリジリと戦車を先頭に近づいてくる。このままでは押しつぶされる。


「でもこちらも通れるはずないだろう。みすみす脇腹を通過させるか?」


森口があたりを確認しながら言った。


メインストリートの正面で構えているコンゴ兵士たちは、じりじりと近づいてくる。


「あの中に突っ込むわけにはいかないだろう。それにこれ以上迂回するのは無理だ。この迂回ルートが限界だ」


天野は言った。


「降りる場所間違ったんじゃねえですかい? 突破できる気がしねえ」


森口が呆れながら言った。


「他の門はもっと無理だ。あれでも一番少ないんだ。他は1000人以上で固めてるらしい」


天野はため息をつく。


「ったく仕方なさそうだ」


森口がそう言うと、天野はすぐさま内線をつないだ。


「こちら六班。十八班、六味寺班長聞こえますか」


"こちら六味寺。個人回線つなげてくるって、なんかあったのか"


トーンの低い男性の声が天野の耳に入ってくる。漏れた音が隣に座っている大見にも聞こえていた。


「我々は左の路地から突入し、迂回して門付近の陣地に合流する。殿を頼みたい」


天野が無味乾燥な口調で言った。


悩んでいるのか、六味寺も数秒押し黙った。


"ったく。押し付けやがって。迂回通路か。……了解した。奴らをひきつけてから、我々もあとに続く"


少しの沈黙を経て、六味寺は答えた。


「面倒ごとを押し付けて申し訳ない。こちらも路地を早急に確保する」


天野はそう言うと通信を切った。


 一呼吸大きく息を吸って、そして吐いた。


「……行くぞっ!」


天野はすぐさま切り返すと、路地に飛び込んだ。



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