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『人のいない戦争』  作者: 電子
第2章『殺しの実践』
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第十二話『現地』

 広がる青い大空に、すぐ目の前にいた天野のZEROがいきなり飛び込んだあと、すぐさま副班長である大見の飛び降りの順番が回ってきた。


「ちょっと! パ、パラシュートはどこで開くんですか」


大見がもたつきながら天野に尋ねようとした。


すると、前の方で神崎が言った。


「ったく、うるせーな。自動だガキ。早く落ちろ」


すぐ後続に控えていた神崎のZEROが大見のZEROを足蹴にして突き落とした。


押し出される振動とともに、大見のZEROも大空に飛び込んだ。


 「何をするんだこの金髪」とでも神崎に文句しようと思ったが、その前にモニターに映る映像の新鮮さに釘付けになり、そちらに目が離せなくなった。


 モニターに映るのは、神崎に押された振動で、やや回転気味に落ちていく大見のZERO。大見はスカイダイビングもしたことないものだから、このリアルな映像は、大見を不思議な雰囲気に包み込んだ。


「……酔いますねこれ」


大見は小さくつぶやく。


そんな大見に、隣に座っていた天野が意にも介さないように言った。


「じきに慣れる。それより……あまりお互い近づくなよ。パラシュートが絡まるし、狙われる」


大見は無愛想にいう天野を見る。


この仕事の時は常に冷静な天野だが、今回ばかりは妙に目が尖っている。


天野自身緊張しているのかもしれなかった。




 落下してしばらくし、パラシュートが開いた。ある高度に達すると自動で開くようになっているらしく、周りのZEROも一斉にパラシュートが開いているのが見えた。


 そして、モニター画面に地面の様子が小さく見え始めたあたりで、一度アナウンスがなった。


"地上、敵戦車1、小隊1。すでに発見されている。注意されたし"


 手短なアナウンスが流れた。


 大見が地上を見ると、全てで六機あった輸送機のうち、後ろ三つの輸送機から降下したZERO軍団の真下には、アリ粒のような黒い点がポツポツと地上で蠢いているのが見えた。


"二班、十四班、二十班はすぐ真下にいる敵を排除しろ。指揮は二班の麓原技術視に一任し、これを以下二班隊とする。二班隊は予定通り、地上付近を制圧。スペアZEROを載せた輸送機がそこに着陸するため、十分な安全度の確保を期待する"


そう言うとアナウンスは切られた。


 その直後、風切り音に紛れて、遠くの方で、銃声がひっきりなしに鳴り始めた。


おそらく、右のほうにいる後続部隊の二班隊と地上のコンゴ兵士との交戦が始まったのだろう。


 大見が二班隊のほうを見ると、なにやらひゅるひゅると落ちていく物体が見える。


画面を拡大してみると、銃弾を受けちぎれちぎれになったパラシュートによってきりもみでおちていく二機のZEROが見えた。


 大見がレーダーチャートを開いてみると、仲間のオールグリーンを示す緑だった光点が赤く染まり、その下には『no signal』の文字が表示された。


「……始まったか。さっそく二機脱落」


天野が言った。神崎もしきりにレーダーを開いて詳細を確認している。


「えーっと、落ちたのは、20班のヤツと……14班……女隊長のところか。この距離だと、へなちょこ銃とはいえ、さすがのZEROのぶっ壊れるようだな」


神崎は少し笑いながら言った。


「あまりよそ見するな神崎、もう地上だ。降下に集中しろ。奴らにはスペアのZEROに切り替わるだけなんだから、そんなことはどうでもいい」


「スペア……そうか。換えが効くんだった……ZEROがやられるなんて滅多にないから忘れちまう」


神崎は思い出したかのようなそぶりをしながらレーダーを閉じる。


「ま……だからって粗末にすんなよ。一機やられるだけで二千万吹っ飛ぶんだ」


天野はそういうとZEROを少し早めに降下させはじめた。


そして降下の準備を始める。


「わかってますって……!」


神崎が天野に続き、そのまた後ろに大見のZERO、そしてその他の班員達が続いていく形となった。






 次第に地上が迫ってくる。


大見たち六班は割と中央に降下しているため敵は周りには見当たらない。


その一方で、着陸した別働隊、二班隊がいる東の方角では銃声が鳴り止まない。


一定間隔でドンドンという鈍重な戦車音も聞こえている。


「あっちは奴らに任せて、俺らは着陸したら一班に続け」


天野がそう言いながら着陸した。


 その直後、大見のモニターにも地面が迫る。大見はこの前の模擬戦で戦闘を行ったときよりよほど緊張する。


「GROWN WARではパラシュート着陸なんてやったことないですよ……」


大見が愚痴たれながらモニターを凝視して集中する。


 だが神崎がそんな大見に気の抜けた声で答えた。


「心配すんな。失敗しても着陸ごときじゃZEROは壊れねえ。骨折もなにもねえんだからな。適当にしとけ」


「……人形というのは便利ですね……全く」


地面に着地すると、振動で大きく大見の画面が揺れた。





 先行隊である一班と大見たち六班、そして十八班は、約200〜300メートル間隔で市街地の中心に着陸することに成功した。


 先頭を行く一班は、目標地点の内閣府に向かっているようで、画面に映るレーダー、一班のZERO7,8体のZEROが目標を示すオレンジの点の場所に向かって高速で移動していた。


「一班のやつらは仕事が早いな。隊長様に怒られないよう、俺らも急ぐぞ」


天野がレーダーでそれを確認すると、すぐにZEROを走らせ始めた。


 その姿を見て、大見たち班員もそれに続く。


 大見はZEROを走らせながら通り過ぎる道々を見ると、既に何刻か前に戦闘が繰り広げられていたのか、窓ガラスは割れ、人の気配は全くしない家屋が延々と続いていた。


「これは……」


大見が思わず口に漏らす。


 この前の模擬戦では見ることのなかった本物の惨状がそこにはあった。


家の近くには幾つかの民間人、軍人とも思われる死体が散見されている。


家屋には無数の弾痕が刻まれていた。


「……内乱がどのような経緯で引き起こされたのかはわからないが、どうであれ、少なからずともこういう事のツケが回ってくるのはいつもこういう下々の民だ。覚えといたほうがいい」


天野は哀れむような目で画面を見つめると、すぐに画面上に地図を表示させた。


「それにしても……5km圏内に入ったっていうのに、兵士がいないのは不気味だな。ほとんど中央に何千という兵、全部集結させてるのか」


天野は神妙な顔をして話を続ける。


「数っていうのは怖い。ズールー戦争しかり、そしてアフリカのインディアンとの戦闘しかり、時に非力な者たちが集結して強者を撃退することがある」


天野の言葉とともに聞こえてくるスピーカーの遠くからの銃声が、薄気味悪い。


「……インディアンはほとんど蹂躙に近い形で敗れたんじゃ?」


大見は言った。


「実は逆に数で押しつぶされた戦いがいくつかある。これがそうならないといいが。俺らはまだいい。ロボットだからな。だが、中央を守ってるアメリカ軍一個大隊のやつらはたまったもんじゃないだろう」


「……」


大見は顔が少しこわばった。


別に大見が『コンゴ』にいるわけでもないのに、『自分の本体』が数に押しつぶされ、殺される様子を頭に浮かべてしまったからだ。


これから起こることは、実在の出来事。


大見はびっしょり手汗をかいていた。


「……緊張してるか。俺もだよ。初めてだからな。こんなのは。今までは殺してもせいぜい二十人前後。それもテロリストだ。今回は……まぁ、何も考えないようにしてる。考えると、負ける。そんな気がするよ今回は」


天野が手を大見に見せた。


天野の手にもまた、汗が滲んでいた。


天野がペラペラと話し始めたという事実が、天野自身の緊張を表しているようでもあった。




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