第97毒 猛毒姫、偉くなる
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いい感じで足が鈍ってますね。
NiO「髪が傷んじゃう」
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前回までのあらすじ
よろしい! ならば戦争だ。
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とらんしーばーから流れてくる情報は、刻一刻と悪くなっていく。
『公爵領、ファースト砦が落とされた!』
『公爵領、セカンド城も陥落した!』
モブ・サヨナラー公爵の領地が、片っ端から魔族軍に塗り潰されていく。
「……父上。
此処は、隣の領に頭を下げて、兵を貸して貰うしかありません。
更に、借金でも構わないので傭兵を雇うべきです。
農民から有志を募って、隊を組織しましょう」
次男はこの最悪な状況下で兵を捻出しようと次々と案を出しておるが。
「そんな恥ずかしい事、出来る訳がなかろう!」
残念ながら、屑の心には届かぬ様じゃ。
何とかしようとするニコチン。
すげなく断るトキシン侯爵。
各々の想いが交錯する中。
大広間に、声が響いた。
『……シガテラ? ダイオキシン?』
天上人の様な美しい声。
……この“なでなで”するような声は……間違いない!
「「大姉さま!!」」
泣き声を上げながらシガテラとダイオキシンが叫ぶ。
これが……長女の声……なのじゃろう。
ニコチンがとらんしーばーを取る。
「無事か、セレン」
『中兄様。
今回の魔族侵攻は、今までの力任せの侵攻とは訳が違います。
魔貴族を頂点とした、れっきとした軍隊です。
トキシン家では、絶対勝てない。
今すぐ、逃げて下さい』
「俺たちの事は良い。
お前こそ逃げろ、セレン。
サヨナラー公爵に、許しをもらえ」
『私は、サヨナラー公爵の妻です。
1人でも多くの魔族を殺し、1人でも多くの民を救う義務があります』
「……」
『それに、ここで食い止める事は、トキシン侯爵領への侵攻時期を遅らせる事にも繋がるでしょう』
覚悟を決めた声じゃった。
セレンめ。
此奴。
……死ぬ気じゃな。
「……誰も、そんな事は望んでいない。
駄々をこねずに俺の言うことを聞け!」
『有難う、中兄様……。
それに、お父様に、大兄様。
……シガテラ、ダイオキシン。
……ボツリヌス。
……みんな、みんな。
大好き』
……そこで、とらんしーばーは切られた。
セレンは。
私の存在を。
……ボツリヌスの存在を。
……知ってくれていた、ようじゃ。
……ばきぼきぼき。
聞き覚えのある音。
聞こえた方に目を向けると。
……ニコチンが口から血を垂れ流しておった。
これは、あれじゃな。
噛みしめすぎて、奥歯が砕けた音じゃ。
うむ、苦行の最中に、私も良く鳴らしたものである。
鳴らした本人は、悔しさの余りに痛みに気づいておらぬ。
とても見られた顔ではないぞ。
私は視線を動かして。
この非常事態に、対策を怠った2人を叱責しようとしたのじゃが。
……いない。
いつの間に?
「……まずい……っ」
応接間が沈黙で包まれる中、私は空気も読まずに大急ぎで出口へ向かって突っ走る。
このまま階段を使ったのでは間に合わない!
2階ではあるが窓から飛び降りて、着地寸前で空魔法を使い衝撃を抑える。
かなり無理をして、母家の裏口へ近道をした。
この時期で2人がいない。
……私の勘違いであれば、良いのじゃが。
そんな事を思っていると、馬がひひーんと鳴く音が聞こえて。
侯爵家の馬車が、裏口を目指してやって来た。
遠くからでも視認できる。
馬の手綱を握る長男に。
馬車の中でトキシン家の財宝を大事そうに抱えておる侯爵。
流石は屑。
此奴ら……逃げ出す気じゃ!
私は両腕を広げて、馬車の前に立ち往生する。
「なななな!」
アルコールは驚いて思わず馬車を止めた。
「何をしているアルコール!
構わずひき殺せ!」
アルコールは言われたとおりに馬に鞭を打つが。
馬が歩き出そうとする時で、雷玉を放ち、先に進めない様にする。
「だ、駄目です父上、前に人がいると走り出せないようです!」
「……お前は……セーサンカリか!
一体、何の用だ!!」
何の用だ、は無いじゃろう。
「トキシン侯爵様こそ、一体、この大事な時に何処へ行かれるおつもりですか!?」
「……。
一時退いて、体制を立て直す。
邪魔をするな!」
つまり、金を持って、逃げるという事じゃな。
「勿論です、お父様。
お父様さえ生き残っていれば、トキシン家は復活できるのですから!」
私は逃げ出そうとする屑を擁護した。
「しかし、このままではお父様をお守りするだけの時間を稼ぐことすら出来ません。
何しろ敵は魔族。
指揮を執る物がいなければ、足止めすら危ういでしょう」
「何が言いたい、セーサンカリ!」
「一時的で構いません、私たちに、指揮権を下さい」
私は、先程準備していた羊皮紙を取り出し、トキシン侯爵へ手渡した。
「……トキシン侯爵家の、指揮権、だとぉ?」
羊皮紙の内容はこうじゃ。
『テトロド・トキシンは、自身が不在の間、
トキシン侯爵領の全権を、ボツリヌス・トキシンに委ねる。
ただし、テトロド・トキシンが侯爵領に戻ってきた場合、
ボツリヌス・トキシンは持っている全ての権利を直ちにテトロド・トキシンに返還する』
良くある侯爵代理の内容じゃ。
うむ、こいつが逃げ出すことは読んでおった。
「な、な、なんだ、この内容は!
というか、ボツリヌス・トキシンとは誰だ!?」
「私で御座います」
私がぺこりと頭を下げると、侯爵は「む? あれ? そうだったっけか」と納得した。
「侯爵様。
侯爵様と大兄様がいなければトキシン家を指揮する者は無く、何の抵抗も無く魔族に飲み込まれてしまいます。
しかし、私たちに指揮権があれば、魔族達の足止めが出来ます!
侯爵様、大兄様。
どうか私たちに、お2人を守らせてください!」
私は、涙ながらに土下座する。
「……お前は本気で、私たちのために魔族を足止めしようと考えているのか?」
「勿論ですとも!」
「それが真実だと言うのなら、証を立ててみよ!」
……証?
良く分からぬ。
良く分からぬので、とりあえず前歯から、順番良く折っていく。
ぼきん、ぼきん、ぼきん、ぼきん……。
「あい分かった、もう良い、ボツリヌス・トキシン!」
トキシン侯爵は青い顔をして、私の行為を止める。
こんな事で、良いのかのう。
「貴様の心を理解した。
羊皮紙を貰おう」
私の書いた羊皮紙に。
公爵はさらさらと自身の名前を書いて、魔力を流し込んでおる。
「これで良いだろう。
良いかセーサンカリ・トキシン!
最後の一兵になるまで戦い、私たちのために、少しでも時間稼ぎをするのだぞ!!」
「は、勿論です、お父様!
トキシン家の、名に賭けて!!」
私は曇りなき眼でトキシン侯爵を見つめて、ははーっと平れ伏す。
トキシン侯爵とアルコール・トキシンはその姿に満足したのか、ぴしりと鞭を打って馬車で私の横を通り過ぎて行った。
ぬふ。
ぬふ。
ぬはははははははは!
今、此処に。
ボツリヌス・トキシン侯爵令嬢、改め。
ボツリヌス・トキシン侯爵代行が、爆誕したのじゃった!