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豚公爵と猛毒姫  作者: NiO
魔族侵攻編
90/205

第89毒 猛毒姫、斎く

日常話だけどなんだかシリアス回になっちゃった。

******************


 前回までのあらすじ


 ひさかたの 光のどけき 春の日に しず心なく あぶらとり紙

 

******************


 アコギが屑魔石を持って来てくれた。

 非常に有難い。

 これであふろが治る。

 そして。


「以前おっしゃられていた物も、準備させてもらいましたよ」


「そうか、助かるぞ。

 ……ふむ、これはなかなか、良い感じじゃあないか」


 私は呵呵大笑しながらアコギに礼を言う。

 本気(まじ)で良い物を作ってくれた様じゃ。

 まるで前世で使用した物の様(・・・・・・・・・・)に手に馴染む。


 私は自分の頬を張って、笑顔を浮かべる。


「さあ、久しぶりの“降霊(おしごと)”、頑張るかの」


########################################




「え、ボツリヌス様、今何とおっしゃられました?」


「ふむ、オーダーよ、父親に会いたくはないか」


 私は何気ない風に声を掛ける。


「えーっと……私は天涯孤独の身で……」


「実は、旅の途中で降霊術を習ってのう」


「そんな話、聞いていませんが」



 うむ。

 だって実際は旅の途中で習っておらぬ。

 正確には前世。

 しかも、如何様(いかさま)じゃ。

 オーダーはじと目で此方を見ておるが。



「……何か考えでもあるんですかね。

 良いですよ、父に会わせてください」


 まんまと食いついてきおった。


「くくく、良し、掛かったな馬鹿め。

 此方へおいで」


「……おおおぉぉぉ、結構、本格的ですねえ……。

 あと、心の声、漏れてますよ」


 私は自分の部屋を今日のために前世のイタコの降霊場に変えておった。


 いつものお気に入りである水玉どれすの上から、特殊な曼怛羅(まんとら)の書かれた白装束を身に付ける。

 更に伊良太加(いらたか)念珠をじゃらり。

 線香に似た香を焚き。

 実はあまり使わないのじゃが、梓弓も装備。


 全部、アコギに工面してもらった物じゃ。


「では、始めるぞ」


 さっそく私は部屋のかーてんを閉め切り、弓をみょんみょん鳴らしながらお決まりの呪文を唱える。


「い……意外と堂に入っていますね」


 オーダーはちょっとびびっておった。

 まあ、100年くらい同じことをやっておったし、堂に入ってないと流石に悲しいが。


「恩!」


 最後の呪文を唱えた後、私の頭上で雷玉(サンダーボール)を光らせる。

 同時に、両方に設置しておいた蝋燭に、ぼ、と火がともる。


 ……ちなみに今日の日のために発展魔法である火魔法も習得していた。


「……おお……凄い、これは、騙されますね」


 オーダーは、まだ信じていない様で、笑いながら私に話しかける。

 じゃが声が少し震えておるぞ。


 私は、イタコの時代、父の口寄せを依頼した娘へ向けるかの様に声を掛ける。



『久しぶりじゃの、オーダーよ……』


「……あの……ボツリヌス様、喋り方が変わっていないんですが」


『うむ。

 この少女の体を借りておるせいで、こんな喋り方になってしまうようじゃ、許せよ』


 そう言って、私は呵呵大笑した。

 ぶっちゃけ、オーダーの父親の喋り口何ぞ分からぬ。

 だから、そこに関しては言い訳から始めた。


「ふーん、そうなんですね。

 じゃあ、貴方は、私のお父様なのですか」


『ああ、信じてくれよ。

 オーダーよ、息災にしておるか』


「……ええ、お父様。

 息災にしております」


『お前には、申し訳ない事をした』


 オーダーが、ぴくりと反応する。


「……ボツリヌス様?

 多少のおイタは許すつもりですが……だとしても、やって良い事と、悪い事があります」


『私は、お前たちを、守りきれなかった』


「……総料理長に聞いたんですか?

 流石に怒りますよ?」


 うむ。

 これらは全部、コックに聞いた。

 コックに聞いて、其れっぽい事を喋っておるだけじゃ。


『ただ、これだけは言わせておくれ……。


 私は、お前を。

 お前たちを。


 ……愛していたと』


「……知っていますよ。

 貴方、自分の最期の言葉を覚えていないんですか?」


『……すまぬ。

 死ぬ時の記憶が、非常に曖昧でのう』


「『お前たちを守れなくて、本当にすまない』……ですよ。


 貴方を恨んだこともありますが……今なら分かります。

 あれは普通、死の間際に言える台詞じゃないです」


『良かった……私はお前を傷つける言葉を吐いて死んだのではないんじゃな。


 ……であれば、最後に伝えておく。

 お前には、私たちの分まで、幸せになってほしい』


「……ボツリヌス様」


『ぼつりぬす? それは誰の事じゃ?』


「これは、全部貴女の仕込んだウソなのは、分かっています」


『仕込んだ? うそ?

 言っていることが良く分からぬのじゃが』


「分かっています。


 分かっているうえで……。




 ……甘えても、良いですか?」



 次の瞬間、オーダーが泣き付いてきた。



「お父さん、御免なさいお父さん!

 私、貴方の望んだ娘には、なれていません!!」


『大丈夫。

 分かっている。

 分かっているさ、オーダーよ』


「お父さん、お父さん!

 会いたかった、会いたかったああああ!

 ごめんなさい、私に力が無くて、ごめんなさい、お父さん!

 う、う、ううううううううううう!!」



『大丈夫。

 分かっている。

 分かっているさ、オーダーよ』



 実際は、何も分かっておらぬのじゃが。


 他のイタコが行う口寄せと違って、似非(えせ)である私は正直降霊なんぞどうでも良いと思っておる。

 死んだ人間の言葉なぞ、どうでも良い。

 それよりもむしろ。


 生きている人間に、生きる気力を与える言葉を紡ぐ方が、よっぽど大事なのじゃ。

 じゃから私は、これからも嘘を付く。


 わんわん泣き続けるオーダーの頭を撫でながら、そんな事を思っておった。



**************************************


「ボツリヌス様、そういえば、お伝えしたいことがあったのですが」


「おお、なんじゃ、オーダーよ」


「私の本名、実は、オーダーじゃないんですよ」



 私は、ぶーっと噴き出した。



「だから父も、私の事をオーダーと呼んだことはありません」


「そうなのか。

 私の体を通して、オーダーの父上も混乱しておったのかもしれんのう」


 適当な言葉を並べて見る。



「……いえ。

 もし、お父様でも、きっと同じことを言っただろうな、と思います。

 有難うございました」


「降霊中は、私の記憶は無いので、何を言っておるのか分からぬ」



 とりあえず誤魔化したが。

 オーダーも、自分の身を大事にする心を、思い出してくれたじゃろうか。

 今回の降霊は、彼女の自立計画の一部に過ぎん。

 どうやら昔の心的外傷(とらうま)が原因で、私以外に心を許さない人間性になっておるらしい。

 いや、心を許さないと言うか、興味が無いのかもしれぬ。


「私ももう少し、他者に心を開いてみます」


 オーダーは、ぽつりと呟く。


 これが、彼女にとっての大きな一歩になって欲しい。


「……ところで、降霊術って、誰にでも学べるんですか?」


「いや。

 最低でも私くらいの精神力が無いと、無理な様じゃ」


「……え。


 それって、誰にも不可能って事じゃないですか」


「……いやいや。

 学ぶ者は結構、おったぞ?」


 まあ、前世の話じゃが。


 私は、呵呵大笑しながら。

 弓をみょんみょんと鳴らすことにした。 


イタコの癖に90話目前までイタコしなかったボツリヌス様。

本編でもイタコの出番はあと1回だけ。 ……多分。

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