第88毒 猛毒姫、直毛に戻る
突然の仕事。
無くなる連休。
消える睡眠時間。
かいしゃぐらし!
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前回までのあらすじ
ボツリヌス・トキシン二等兵!
恥ずかしながらおめおめと故郷の地へ戻って参りました!
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という訳で、帰ってきた。
離れのめいど達は全員泣きながら私に抱き着いてきたため、なんとか振り切って自分の部屋へ。
ちなみにマー坊は引き剥がせなかった。
凄い力じゃ。
「マー。
とりあえず2人で話をさせてくれますか?」
「……」
マー坊は憮然とした表情でオーダーを見ておったが。
「……わかりました。
大聖女様、また後でお話を聞かせて下さいね!!」
そう言うと、笑顔で出て行った。
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久しぶりの会話 オーダーの場合
「……さて、アフリヌス様」
「ボツリヌスじゃ」
「そうでした。
ボツリヌス様」
オーダーはこちらに顔を向ける。
「お帰りなさい」
「只今帰ったぞ」
「それでは、旅の報告をお願いします。
包み隠さず、1つ残らず、ですよ」
……包み隠さず、1つ残らず、か。
その話題の中に、首を回転させられそうな物がいくつかあるんじゃが。
「ああ、安心してください、大丈夫ですよ」
「あ、安心して良い、とな」
おお。
無事帰宅した私に向かって、流石に首を引き千切る様な真似はせん、と言う事かの?
「確かに私の指は何本かありません……。
でも、ボツリヌス様の首を回転させる力は十分にありますから!」
「別にそんな心配はしておらんよ!?」
オーダーが笑顔で意味不明の”がっつぽーず”を取ったので、慌てて突っ込みを入れる。
……仕方あるまい。
私は覚悟を決めると、今までの事を細かく話し始めた。
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久しぶりの会話 ハンドの場合
「お帰りなさいませ、大聖女様!!
久しぶりにオーダーさんと会って、どうでした?」
「うむ。
目が回った」
「目が回った?」
ハンドが不思議そうな顔をしておる。
「それにしても大聖女様、大変可愛らしい髪型をしてらっしゃいますね」
「おお、そう言って貰えると助かるぞ」
あふろを直毛にするにはそれなりの魔力量を込めた雷魔法を使わなくてはならぬ。
つまり、アコギが屑魔石を持ってくるまでの数日間はこの髪型のままじゃ。
「……私もやってみようかしら(ボソ)」
「ん? なんじゃって?」
「何でもありません」
「いや、何か不穏な言葉が聞こえたのじゃ。
何といったのじゃハンドよ」
「何でもありません」
「おい、ハンドよ。
早まるでないぞ!
絶対それだけはやめた方がいいぞ!!」
「何でもありません」
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久しぶりの会話 マーの場合
「あわわわ、大聖女様、お久しぶりです―」
「久しいのう、マーよ。
……じゃから抱き着くなと言っておるじゃろう」
「むふーむふー。
……あわわー! 大聖女様、とってもモコモコですね!! あわわわー……」
マー坊は「よーしよしよし」と私のあふろ髪をもふり始めた。
ム〇ゴロウさんか。
「私もお揃いでアフロにしたかったんですけど、長年掛けて長髪にしましたからねー。
かなり迷ったんですけど、断念しました」
マー坊が悔しそうにしておる。
……うん、それが良いじゃろうな。
というか、私がしているからという理由であふろを選択肢に入れないでおくれ。
「あーあ、ハンドさんは良いなー。
髪が短いからすぐに変えられて」
……。
いや、多分これは、単に短い髪を羨んでいるだけじゃ。
そのはず。
「可愛かったなー、ハンドさんの髪型」
……。
これも、単にハンドの髪型を褒めておるだけじゃ。
まだ、あふろと決まったわけでは。
「可愛かったなー、ハンドさんのアフロヘアー」
……。
マー坊よ。
何故情報を出し惜しみつつ最終的に全てを事細かに説明する。
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久しぶりの会話 コックの場合
「おお、ボツリヌス様。
凄いな、マジで帰ってくるとは」
「久しいのう、コックよ。
ところで、早速ご飯の依頼をしたいのじゃが」
「もちろん!
何でもいいぞ。
肉なんかはあんまり食べられなかったんじゃないか?」
そんな事はなかったぞ。
私の主食は熊肉じゃったし。
「……なーんてな。
肉なんて食い飽きただろ?
多分、ボツリヌス様の欲しい物を、用意してあるぜ」
コックは笑うと、厨房からお膳を持って来た。
その内容は。
白米。
塩+白米。
ふりかけ+白米。
醤油+白米。
卵ごはん。
納豆ごはん。
……まるで嫌がらせの様な米押しじゃ。
「……これが食べたかったんだろう、ボツリヌス様」
「うむ!
これじゃ!
これが食べたかった!
いや、本気で!!」
私は嬉し泣きをしながら声を上げた。
流石はコック。
思考を先読みされて、若干悔しいが。
私は慌ただしく箸を取ると、取り敢えず一番手前のお茶碗を掻っ込んだ。
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久しぶりの会話 三男+次女の場合
「わーーーーー!!」
「きゃーーーー!!」
「久しぶりじゃ、2人とも。
おお、大分大きくなったのう!」
「凄いや聖女様、髪型、カッコいい!!」
「髪型、とってもカワイイ!!」
おお、これは嬉しい。
子供たちの感性は信頼できるからのう。
しばらくこの髪型でも良い気がしてきた。
「なんだか頭から血しぶきを出してるみたい!」
「なんだか呪われた血塗れのタンポポみたい!」
大変な感性の持ち主じゃった。
ちょっと待て、どこの誰じゃ!
この2人の幼く多感な時期に、”血しぶき”やら”血塗れ”やらを良い物と勘違いさせた痴れ者は!
……あれ?
私じゃった。
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久しぶりの会話 テーラーの場合
「久しぶりだな、毒舌娘」
「おお、テーラーじゃあないか。
久しいのう」
「……っていうか、その髪型はなんだ」
「そうじゃ、聞きたいことがあるんじゃ。
この髪型、どう思うかのう?」
「ああ、変な髪型の自覚はあるのか」
「ひ……ひどい」
「……まあ、良いんじゃないか、似合ってるぞ」
「……え? そうか?」
テーラーが褒めてくれた。
「……そうか。
そうか、似合っておるか。
ぬははははは!
嬉しいのう!!」
「調子に乗るな」
「そりゃあ無理じゃ、似合っていると言われると誰だって嬉しい。
ところでどうじゃ、お主も同じ髪型にしてみんか? ん?」
私はにやにやしながらテーラーにも同じ髪型を薦めてみる。
「はあああ?
断る。
何が悲しくてそんな罰ゲームみたいな髪型をしなくちゃいけないんだ」
……その後。
魔石が届いた後すぐに、私は髪型を直毛に戻したのじゃった。
※※※この物語はフィクションであり、登場する髪型などの名称はすべて架空のものです※※※
アフロの皆様すみません!
ギャグなのでどうかご勘弁を。