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豚公爵と猛毒姫  作者: NiO
拉致編
88/205

第87毒 閑話 トキ、小聖女の回想をする

 僕の名はトキ。

 今回は(・・・)、ムカシヤンマ帝国の帝王だ。


 今回の縛りプレイの内容は

 『時魔法による攻撃・防御(絶対破壊・絶対防御)』

 『時魔法による時間遡行(いつでもセーブ&ロード)』

 『時魔法による増殖・復活(無限増殖、無限復活)』

 以上3つの使用禁止。

 まあぶっちゃけ、この3つのうち1つでもアリだと何でもアリのチート状態になるので、ほとんどの回で縛ってある。

 つまり、ほとんど縛り無しの状態と言ってもいいかもしれない。



 バッタ武国の制圧に成功した僕らは精鋭3000名を引き連れ、そのまま皇国攻略へ乗り出した。


 武国から皇国へ向かう道のりは5通り。

 そして、どの道を選んでも。


 必ず彼女は。

 笑えるくらい。

 毎回僕の前に現れる。


 5つのルートの内1つを選んで進んでいると。

 100人に満たない人数を引き連れて、やっぱり彼女は現れた(・・・・・・・・・・)


「これはこれはトキ帝王閣下、久しぶりじゃのう」


「……ああ、久しぶりだね、小聖女様(・・・・)


 僕は親しげに小聖女……14歳の(・・・)ボツリヌス(・・・・・)トキシン(・・・・)に語りかけた。


**************************************


 帝国から飛行魔法で鉱国の象牙壁の上に辿り着いた彼女は。

 数日間そこに滞在した後。


 帝国側に降りる事を(・・・・・・・・・)決断した(・・・・)



 彼女は待ち伏せしていたセルライト・ピッグテヰル公爵の下僕に捕えられ、そのまま公爵領へ連れ去られる。

 セルライト・ピッグテヰルと言えば王国5公の1人であり、豚公爵であり、魔法キチガイであり。

 そして、催眠術と(・・・・)洗脳の名手であるが(・・・・・・・・・)

 彼女の精神力の前ではそれも上手くいかなかったようだ。

 彼の再三に渡る要請を跳ね除け。

 独自の魔法理論で魔族の侵攻を予見した彼女は。

 同じく5公の1人であるモブ・サヨナラー公爵と結託しこれの撃退に成功。

 その功績を評価され、ストリー王の推薦をバックに、皇国の聖女への道を駆け上る。

 初めての『光魔法を使えない聖女候補』であったが、彼女は諦めていなかった。

 フヨウ皇女のフォローの中、3年を掛けて光魔法の習得に成功する。

 その後『小聖女』の2つ名で皇国を影に日向に支え続けてきたのだ。


「……流石は小聖女……いくらでも戦術が出てくるんだなあ」


 今回の小聖女様は魔石の鎧を身に纏い、空魔法で移動をする様だ。

 その前は時魔法の魔法陣化に成功しており、流石の僕も本気で冷や汗をかいた。

 更にその前は特攻+各種魔法カクテルによる極大自爆で、帝国軍がまるごと消滅した。

 

 何度も人生をコンテニューするにつれて、分かったことがある。

 自分の命が危機に陥る時、出す答えは皆ある程度限られている、という事だ。

 それは皇女も武王も国王も帝王も同じだ。

 まあ、当たり前である。


 だけど、彼女は。

 ボツリヌス・トキシンは、面白いくらい毎回違う。

 以前は面倒くさくて3歳位の時点で暗殺していたんだけど。

 今では僕の精神安定剤だ。

 この繰り返す世界で狂わないでいられるのは、正直彼女のお陰かもしれない。


 今回はどんな戦略を見せてくれるのだろう。

 わくわくしながら見ていると。

 彼女の周りにいる兵士……どう見ても農民上がりの捨て駒達が。


 全員、真っ青な炎を上げた(・・・・・・・・・)



「こいつら、やりやがった(・・・・・・)!」



 帝国の精鋭たちが、悲鳴を上げてたじろぐ。


 何しろあれは、繋業解放(カルマ・クラッシュ)と呼ばれる……ほぼ、自爆魔法と言われている物だったからだ。




 自分がどれだけ今後、世界に影響を与えるか。

 それはカルマの糸の数で決まると言う。

 繋業解放(カルマ・クラッシュ)を使った者は、そのカルマの糸を引きちぎって燃料にすることで、爆発的な力を得ることが出来。


 ……そして、数10分後、死に至る。


 まさか100人の素人軍団が、全員繋業解放(カルマ・クラッシュ)を使うとは。

 一体どういう忠誠度をしているんだ。

 もはや彼らのスピードは、我ら精兵の兵隊をも凌駕する。

 逃げられない。

 それならば。


「帝国の一騎当千の猛者よ!

 今こそ、奴らを蹂躙し、帝国此処にありと鬨の声を上げるぞ!!

 30分間、持ちこたえるのだ!

 それだけで、奴らは全滅瓦解するぞ!!」


 ぐう、おおおおおおお!


 こうして死兵たちとの戦いが、始まった。



***************************************


 本当に、小聖女には驚かされてばかりだ。


 攻撃は死兵たちに任せ、自分は光魔法で回復に回っている。

 当初は何故そんな事を、と思っていたが、30分経ってから初めて気が付いた。

 繋業解放(カルマ・クラッシュ)を使ったはずの者たちが、誰も死なないのである。

 

「…おお、そうか!

 小聖女、やってくれる!!」


 まんまと策にはまり、思わず僕は声を上げる。


 光魔法の能力は。

 全ての状態異常の完全回復。


 ……まさか、繋業解放(カルマ・クラッシュ)状態異常判定になる(・・・・・・・・・)なんて、思ってもいなかった。


 繋業解放(カルマ・クラッシュ)

 ↓

 光魔法により状態異常回復

 ↓

繋業解放(カルマ・クラッシュ)

 ↓

 光魔法により状態異常回復

 ↓

繋業解放(カルマ・クラッシュ)


 これで、なんと無限に繋業解放(カルマ・クラッシュ)をし続けられるというわけだ。


「くそ、やっぱり小聖女を倒すしか無いか……」


 毎回思うが、相当に骨が折れる作業だ。


***************************************

 



「……やっぱり君は凄いね、小聖女。

 光魔法+魔石+ボツリヌス・トキシンの組み合わせは、正直卑怯だよ」


 頭がもげても心臓が爆発しても、光魔法で再生しながら知らん顔で突っ込んでくる。

 全然恐怖が無い様に見える。


「ぐぶ……そうか、それは良かったのう」


 周りを見渡すと、辺り一面死体の山が築かれていた。

 100人の農民で、精鋭騎士3000人が全滅だ。


「どうやら、残っているのは僕と、君だけだ」


「成程、という事は、私の勝ち、じゃの」


 圧倒的優位な状態で、これだけの大損害を出されたのだ。

 確かにその通りだろう。


「そうだね、君の勝ちだ」


 僕は足元に横たわる、四肢を切断された小聖女に向かって返事をした。


「まあそうは言っても、死んだ兵士たちは時魔法で元通りに出来るんじゃろ?」


「出来るよ、やらないけど」


「……その方が良いじゃろうな」


「今回は復活系の時魔法は使わないって決めてたからね」


「……」


 小聖女は、僕に向かって何か言おうとして、止めた。


「……どうしたの?」


「……いや、忠告しようとしたが。

 良く考えたら、お前って敵じゃしのう。

 やっぱりやめた」


 小聖女からの忠告か。

 聞きたかったなあ、残念。


「それよりも、どうじゃ、私は。

 かなり厄介な相手だと自賛したいんじゃがのう」


 小聖女が呵呵大笑する。

 笑い声は、吐血によるむせ込みで途絶えた。


「そうだねえ、厄介さで言えば、今までで3番目くらいかな」


「ぬう……頑張ったつもりじゃが、上には上がいるのう」


「ちなみに2番目は魔王だよ」


 小聖女は、「それなら仕方ない」と溜息を付いた後。


「それで、1番は誰なんじゃ」


 と聞いた。


「……良く考えたら、僕たちって敵同士だよね」


 小聖女はきょとんとした顔をした後、再度呵呵大笑した。


「その通りじゃのう。

 ……さて。

 そろそろお迎えが来た様じゃ。


 嗚呼、楽しい人生じゃった。

 最後は帝国の武力も削れたし、10年くらいは皇国を攻める事は出来まい」


「うん、そうだねえ」


 しばらく小聖女は小さい声で何か喋っていたが。

 次第にその瞳は、濁って何も映さなくなった。


**************************************



「……確か、あの後たまたま見つけたんだよね、『帝国の至宝』」


 鉱国の象牙壁のてっぺんで、この世界で1番おいしいワインを飲みながら、僕は1人言ちていた。


 横には、若干5歳のボツリヌス・トキシンが横たわっている。


 僕が倒したわけではない。

 彼女が勝手に酒を飲んで酔いつぶれただけだ。


 彼女を横目に見ながら、しばし物思いにふけっていると、ボツリヌス・トキシンが目を覚ました。


「時魔法使いよ、その姿はなんじゃ?」


 ……あれ。

 いつの間にか、当時の年齢になっていたらしい。


「ああ……結構いいお酒だったからね……。

 折角だし、酒の味が一番わかる年齢になってるだけだよ」


 適当に誤魔化した。

 それにしても、てっきりセッカイから譲り受けたとばかり思っていたワインは、知らずに盗んだものらしかった。


 まあ、僕がほとんど飲んじゃったから、お返ししようと新しく『帝国の至宝』を時魔法で作り出すと。

 ボツリヌス・トキシンにワイン瓶で殴られた。


「大事な物を、ぽんぽん増やすな!

 何が大事か(・・・・・)分からなく(・・・・・)なるじゃろう(・・・・・・)!!」




 殴られた僕は、目をパチクリする。

 ……意外だ。


 なんというか、ボツリヌス・トキシンはもっと実利主義な人間と思っていた。

 今回のワインだって『おお、らっきー』とか言って懐にしまうだけの図々しさを持っている物かと。

 ……いや、違うな。

 これは、彼女が許すラインを超えていたんだろう。

 これを超えると、もはや人間が人間ではなくなるライン。

 踏み越えた僕だから気づいた事実を、彼女は本能的に知っていたんだろう。


 ……もしかしたら、以前彼女が忠告しかけた事は、これに類する事だったのかもしれないね。




****************************************


 いよいよ夜明けだ。


 ボツリヌス・トキシンが選んだのは、……鉱国側だった。


 彼女は僕に一度だけ手を振ると。

 躊躇することなく空へダイブしていった。






 ボツリヌス・トキシンには、2つの未来がある。


 帝国側に降りた場合の。

 小聖女となる彼女は。

 僕に人間の可能性や素晴らしさを教えてくれた。

 彼女に待ち受ける未来は、光り輝いている。



 そして、鉱国側に降りた場合の。

 2つ目の未来の彼女は。

 僕に人間の醜さと恐ろしさを教えてくれた。

 彼女の厄介さは、魔王も凌ぐ程(・・・・・・)

 待ち受ける未来は……まあ、言うまい。



 そう言えば、テンセイシャの1人に聞いた事がある。

 とある世界には、彼女と同じ名前の毒があるという。


 最強と言われたその毒……ボツリヌス毒素(トキシン)は、たった1㎏で70億人を殺害出来るらしい。


 これほど彼女に相応しい名前はない。

 


「……それじゃあ、いってらっしゃい。

 ……猛毒姫(・・・)



 1万mの高さから零れ落ちた一滴の蜂蜜が。


 後々世界を飲み込む猛毒になるなんて。



 ……今はただ、僕が知るのみである。

ブックマーク74→72。


さて、どこまで下がるかな?

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― 新着の感想 ―
[良い点] ボツリヌスってそんなに凄い毒だったんですか!! 知りませんでした! 私、自作品の中でダイオキシンを神殺しの猛毒って位置づけにしてるもんで! ボツリヌスにしようかなーと誘惑に揺れてます!
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