第84毒 猛毒姫、抜く
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前回までのあらすじ
「ところでコレを見てくれ。コイツをどう思う?」
「凄く……聖剣です……」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないの。
良い事思いついた、お前、コイツを抜いてみろよ
女は度胸!何でも試してみるのさ」
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……そう言えばしばらく自分のすてーたすを見て無かったのう。
久しぶりに見てみるか。
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ボツリヌス・トキシン 女 5歳
二つ名:龍殺し・大聖女・聖女・毒女・毒舌娘
体力:86/100
魔力:9/10
スキル:鑑定LV3
魔力並列LV8
魔力流量感知LV8
覇気相殺LV1
神との対話LV1
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何これ塵?
あ、違った、私のすてーたすじゃった。
最近見てきた能力表が“いんふれーしょん”してるもんじゃから、私も何だか強くなった気がしておったが、勘違いじゃったか。
……それにしても体力は大分増えたのう。
それなりに過酷な生活をしていたので、もっと増えて良い気もするのじゃが。
『ままままままま魔力10の勇者だとおおおおお!?
ありえんありえんありえ――――ん!
ダメダメダメ、貴様は勇者じゃありません。
あーりーまーせーんー!!』
むかっ。
そんな言い方無いじゃろう。
……お、なんじゃ、この聖剣、雷魔法を使った時点で土台から取れかけておる。
私の力でも抜けそうになっているではないか。
どれどれ。
『こらこらこらこら、抜くな抜くな抜くなー!
ええい、仕方ない、トラウマにしてやるぞ! 対象限定スキル “精神汚染”!!』
聖剣が聖剣らしからぬ能力を唱える。
……むむむ、なんだか、気分が悪くなってきた。
龍族と対面した時くらいの気分の悪さじゃ。
……さて。
抜くか。
『待て待て待て待て、抜くな抜くな抜くなー!
ええい、殺したくはないが、止むを得ん! “精神汚染MAX”!!』
……ぬおおおお!
こ、こ、これはあああああ!
魔力を使い果たした時くらいの気分の悪さじゃ。
聖剣め、本気で私を殺しに来ておるな。
……ふむ、まあ良い。
抜くか。
『う、ウソだろウソだろウソだろ―――!? 抜くな抜くな抜くなー!
畜生ォ、絶対抜かれんぞおおおお、“精神汚染”全力全開300%だあああああああ!!』
……こ、今度は魔力枯渇の気分の悪さを更に超えて来おった!
ぐおおおおお、なんという苦しさじゃあああああ。
『そ、そうだろう、そうだろう!
諦めて、その手を放すが良い!!
って言うか、何故死なない⁉︎』
精神的にこれほどの苦しみを得る日が来るとは、思わなんだぞ!
ぐぬおおおおおおおおおおおお!
さ あ、 盛 り 上 が っ て 参 り ま し た ! !
『 え 』
それから30分間程、私は聖剣から精神攻撃を食らっておったのじゃが。
『ハァ、ハァ、ハァ……。
ま、参った、我の負けだ……』
聖剣が、降参した。
『し、信じられん……貴様、本当に生き物か?』
うむ、生き物どころか、人間じゃ。
……本当じゃよ?
『こんな人間は、見たことが無い。
……成程、確かに。
貴様の精神力があれば……或いは……』
私が引っ張ると、土台からゆっくりと諸刃が持ち上がる。
『今まで、勇者に相応しい人間を、この我が選んできた。
……我の意志を超えて、自分から勇者になることが出来た人間は、貴様が初めてだ』
すぽーん。
小気味よい音がして、台座から聖剣が抜ける。
私はそのまま仰向けにひっくり返った。
後ろを見ると、アコギとブコツがぽかんとしておる。
職員のお姉さんも同じ顔じゃ。
『我が認めよう!
誇るが良い、貴様は、今日から勇者だ!! 』
「あ、すまぬ。
そんな気は無いのじゃ」
私は腰を擦りながら起き上がると、聖剣を台座に指し直した。
『え、え、ええええええええええええええ!? 』
「さて、アコギよ、ブコツよ。
帰るか」
「「「え、え、えええええええええええええええええええ!?」」」
3人が、声が枯れる程に大声を上げておる。
お姉さんなんかは、そのまま泡を吹いて気を失った。
なんじゃ、世話が焼けるのう。
お姉さんを涼しいところに移動させて横向きに寝かせると、アコギとブコツは復活しておった。
「ぼ、ボツリヌス様、早く帰りましょう。
聖剣を抜いたとなれば、一大事です。
これは博物館の職員が見た白昼夢、という事にしておきましょう」
アコギが私の肩を強くつかんでがくがく揺さぶる。
「そ、そうじゃな。
そうしよう、さっさと立つのが吉じゃ」
私達はすたすたと出口へと向かう。
『ほげええええええええ !? 』
完全にきゃら崩壊した聖剣の声が聞こえたが、無視した。
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私たちは慌ただしく馬車に乗る。
あのブコツですらわたわたしていて面白い。
鞭の音がして、馬車が走りだした。
「あ、そうじゃ、アコギよ。
ちゅーぶはあるかえ?」
「ちゅ、ちゅーぶ、ですか?」
「なんか、病人が鼻から通すやつじゃ」
「ああ、アレですか。
荷馬車にありますよ……これですか?」
「すまんのう」
私はするするとそれを鼻から胃へと通した。
「ぼ、ボツリヌス様、何を?
いや、えーっと、と、というか、あれは、一体どういう事で……」
アコギはいろいろ聞きたいことがあるようじゃが、残念ながら、時間切れじゃ。
「すまぬ、アコギよ、私は眠るぞ」
「……は?」
私はアコギの言葉を遮った。
「そして、多分、1週間は目を覚まさぬ。
大変申し訳ない」
ぺこりと頭を下げた後。
思った通り、私の意識はぶらっくあうとした。




