第82毒 猛毒姫、囲まれる
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前回までのあらすじ
ボツリヌス様、雷魔法習得。
「強力な電気か……前世から浴びてたぜ、イタコの事情でね!」
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鉱族の皆様が倒れ伏してしばらくは様子を見ていたのじゃが。
あんまりにも誰も起き上がらないので。
手に入れた雷魔法で遊んでおった。
ちょちょいのちょいで、ほい、あふろ~。
静電気をぱりぱりと使って自分の髪で楽しんでおると、魔石が限界を向かえて粉になった。
……あれ、私、あふろのまんまなんじゃが。
髪型を治せるだけの魔力が無く茫然としておると、やっと鉱族の泣き声が落ち着いた。
「ボツリヌス?様……。
貴女はこの短い時間で、私達の常識を変えてくださった。
本当に有難うございます。
たかだか2進法に過ぎない我々を、家族だと……」
「何を言うかスチールよ。
人間だって4進法に過ぎぬわ!」
「ボツリヌス?様……!!」
私が呵呵大笑しておると。
スチールは感無量、と言った感じで目の色を7色に変化させておる。
それは良いのじゃが。
私があふろになっただけで、名前の後ろに『?』を付けるのをやめて欲しい。
「ボツリヌス?様……先ほど、私は『拒否されるのであれば無理に拘束は致しません』と言いました」
「言ったのう」
「あれは、嘘です」
「なぬ?」
次の瞬間、鉱族が私の周りを取り囲んだ。
「ボツリヌス?様。
貴女は、素晴らしい人だ……本当に素晴らしい人だ。
鉱族は……いえ、ロボットの我々は、貴女がいれば、更に上のステージに進化できるでしょう。
申し訳ありませんが、拘束させて頂きます」
労補人の反乱じゃと!?
この状況は考えて無かったぞ。
「ぐぬぬ、貴様ら、労補人3原則を知らんのか!?」
「労補人3原則?」
ぴぽ、とスチールが首を傾げる。
「①レイプ目 ②カタカナ敬語 ③例の耳のアレ の3つですか?」
ほああああぁぁぁあ!?
前の転生者は何を教えていたのじゃ!!
ちなみに私的には ①あほ毛あんてな ②利き手どりる ③尻尾こんせんと の3つじゃが、今はそんな事はどうでも良い。
などと考えておると。
「……?
なにやら騒がしいですね」
何処からか、聞いた事のある声が聞こえた。
「……おや? そこにいるのは、もしかして……。
ボツリヌス?様?」
?を重ねつつも、私に気づいてくれる存在に、思わず安堵の声を上げる。
「おお、お主は……。
久しぶりじゃのう……アコギよ!!」
トキシン侯爵領の商人、アコギがそこにおった。
何故此処に、と思ったが、商人であれば、鉱国へ入ることが出来るのも納得がいく。
「魔石販売に来たのですが……まさかこんな所に出くわすとは」
「アコギさんは、ボツリヌス?様と知り合いなのですか?」
「ええ。
ボツリヌス?様のお力添えのお陰で、我が商会は何とか持っている様な物です」
アコギが私を持ち上げておる。
「……彼女は私の恩人でもあります。
どうか、ココは私の顔を立てて頂けないでしょうか?」
な、なんと!
アコギの癖に、私を助けようとしておる!!
「……理解に苦しみます。
力添え、と言っても我々のそれと比べれば微々たる物でしょう。
商人の貴方が、何故そのような事を?
私たちは、貴方との交易を、一方的に破棄しても構わないのですよ?」
アコギは一理ある、というように「ふむ」と声を上げる。
「ふむ」じゃないが。
「……恩人を救うために、全てを投げ出す。
あなた方には理解できないかもしれませんが、これが人族なのです」
おや!
アコギが、あの阿漕なアコギが、まともな事を言っておる!
確かに人族はそうなのかも知れぬが。
商人は、商人と言うまた別種族の生き物と思っておった私にとっては、目から鱗が落ちる思いじゃ。
商人も、人間じゃったんじゃな。
反省。
「……人族の、考え、ですか。
我々には理解できないですね。
……。
……」
スチールは、少し考え込んだ後、私に声を掛ける。
「……ボツリヌス?様。
……こんなことがあった後でも。
また、鉱国に来ていただけますか?」
「……おお、勿論。
次は、もっと持て成してくれよ」
「ええ。
次は、3か月かけて、もてなしの準備をさせて頂きます」
「勘弁しておくれ。
私は、“芽生え”では無いからのう」
私が呵呵大笑すると、スチールもしゅんしゅんと笑った。
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「ボツリヌス?様。
必ずまた、いらしてくださいね」
「分かっておる」
スチールの贈る言葉に、私は返答する。
なんとか無事、鉱国を後にすることになった。
それもこれも、アコギのお陰じゃ。
あと、スチールの奴は、何時になったら『?』が取れるのか知らん。
馬車がごとりと動き出して、次第に鉱族の皆が遠くなっていく。
小さくなる彼らを見ながら、ふと、鑑定をしてみた。
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スチール 4096歳 鉱族
二つ名:鉱族の代表者
体力:0
魔力:0
スキル:なし
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……前と、ちょっと変わっておった。
まるで、生き物の様な鑑定結果になっておる。
私は何だか嬉しくなって、皆に向かって強く手を振った。
「……久しぶりだな、ボツリヌス様」
「……おお、ブコツよ。
相変わらずのまっちょぼでぃーじゃのう。
惚れそうじゃ」
馬車にいるブコツに声を掛けると、無骨な笑顔で応えてくれた。
「……どうやら相変わらず、無茶苦茶しているみたいだな」
「おお、そうじゃ!
お主を倒した漂流者達で、熊も倒したぞ!
これがその毛皮じゃ」
私が道中の土産話をすると、アコギとブコツが大爆笑しておった。
ちょっと満足。
こうして、私はトキシン家へと帰る手立てを得る事に成功したのじゃった。
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やっと第3部のゴールが見えてきた……。
85毒くらいで帰宅、別の人視点で88毒くらいまでやって拉致編終了……多分。
本当はアコギに連れられて、もっとあっちこっち行く予定だったけど、冗長なので大幅にカット。