第81毒 猛毒姫、洗濯する
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前回までのあらすじ
?「ククク……
洗濯機が鉱族の手に落ちたか……
だが奴は3種の中でも最弱」
?「鉱族如きに掘り出されるとは……神器の面汚しよ」
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今いるのは屋外の屋根のある広場の様な場所。
所謂鉱国の浅部と言われる、鉱族に認められた人間なども入って来られるところの様じゃ。
そんな広場の中央。
一段高い場所から私たちを睥睨する洗濯機。
しゅーる。
「は、初めまして、ボツリヌスと申します」
一応挨拶してみるが。
「……」
当然、返事は無い。
ただの洗濯機の様じゃ。
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洗濯機
8000年以上前に転生者によって作られた。
恐ろしい事に、まだちゃんと動く。
「流石日本製、見た目がクソな以外は最高だぜ! HAHAHA!!」(トッ○ギアのBGM)
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鑑定してみると、やっぱりただの洗濯機じゃった。
……いや、8000年後でもまだ使える洗濯機じゃ、まじで神器と言っても良いかもしれぬが。
あと、とっぷ○あってなんじゃ。
ちらりと後ろを振り向くと、ぞろぞろと鉱族が集まってきておる。
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スチール
動く機械。
鉱族の代表。
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お、スチールもなんかついでに鑑定してしまったが、説明があっさりしすぎじゃあないか?
『体力』『魔力』『スキル』なども出ておらず、解説以外が無いところを見ると。
やはり彼ら鉱族は生き物ではなく、労補人なんじゃろう。
しかし、まるで人間の様にとても感情豊かに見えるのじゃがなあ。
「……どうしましたか、ボツリヌス様」
「……いや、なんでもないぞ。
じゃあ、ちょっと“まざー”と会話させてもらうぞ」
私はそんな事を言いながら洗濯機へ近づく。
「お、おい大丈夫かスチール。
テンセイシャを“マザー”に近づけさせて」
辺りがざわざわしておる。
「大丈夫です、皆さん。
ボツリヌス様は信頼に値する人です」
スチールの声が響いて、鉱人達は静かになった。
「よっと」
私は背伸びをして洗濯機の上蓋をぱかりと開けた。
「「「「うわあああああああああ!?」」」」
……。
続いてその中に水玉で水を満たしていく。
「「「「うわあああああああああ!?」」」」
鉱人達の絶叫が五月蝿い。
というかそれ以上に彼らの感情表現であるさいれんやら警報音やらが五月蝿い。
まあ、叫ぶのも分からんでは無い。
蓋を開けて中に水を突っ込むなど、ほとんどの機械はそれだけで機能停止してしまうからのう。
着ていた熊の毛皮を中に突っ込む。
……仮にも毛皮じゃし、痛んだり縮んだりするかもしれんが、まあ良いか。
洗剤……は無いから帝王宅浴場から拝借した石鹸を刻んで散らす。
……さて、最後じゃが。
私は両手の人差し指を近づけて、集中する。
いめーじは、体中を走り回る神経の電気信号。
空に走る雷。
黒髪ぽにーてーるの雷撃。
前世での電気を使った拷も……通過儀礼。
人差し指の間に熱が集まる。
―――……パリパリ……―――
……よし。
「おおおお!あれは……雷魔法!?」
鉱族が驚きの声を上げる。
今ここに。
まじで魔力量10の勇者が爆誕したわけじゃが。
「……まあ、テンセイシャだし、“科学技術の壁”を魔法で乗り越えてきたわけだし。
あれくらいはするだろう」
の一声で、ざわめきは収まった。
引き続きぱりぱりと雷を出しながら、洗濯機のこんせんとに当ててみる。
電撃量を少しずつ上げていくと。
「p-! p-! p-!」
「「「「お、おおおおおおおおおお」」」」
洗濯機の電源が入ったようじゃ。
よおし、この電力を維持するぞ。
私はぴょんぴょんじゃんぷをして各種ぼたん配置を確認すると。
電撃を出しながら背伸びをして器用に開始ぼたんを押す。
ごうんごうん音が鳴り、熊の毛皮の洗濯が始まった。
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「p-! p-! p-!」
洗濯機が、終了の音を知らせる。
やっと終わったか。
途中、洗濯機の排水のせいで危うく感電しかけたが、何とかなった。
私は集中して放ち続けていた電撃を停止する。
洗濯機の蓋を開けてみると、すっかり汚れの取れた熊の毛皮が現れた。
む、若干濡れておるな。
『風玉』と『熱玉』の合成魔法『吹風機』で乾燥させてから服を羽織る。
「……とまあ、こんな感じで良いのかのう?」
私は満足げに振り返る……が。
あれ、なんか鉱族の皆様は不満そうな顔をしておる。
「むむむ?
なんじゃ、スチール、この雰囲気は」
「ああ……いえ、有難うございますボツリヌス様。
……“マザー”が、なんと言いますか……あまりにも……
あまりにも無能だったので、驚いていただけです」
……ははあ、成程。
3種の神器とすら言われ、どれほどの高性能なのかと期待してみたら。
こっちが水を入れて洗剤を入れて服を入れて電気を掛け続けないと動けない機械だったから、がっかりしたのか。
実際は水を入れるのと電気を掛け続けるのは機械がやってくれるのじゃが、それでも鉱人の皆様と比べたら性能が高いとはとても言えぬ。
昔の物だから仕方ないのじゃが、流石に無能呼ばわりは可哀想なので補論しておくか。
「それは違うぞ、スチールよ。
“まざー”を作ったのは人間。
そして人間は、このくらいの手間を掛けて機械を動かした方が、愛着が湧いて楽しめる物なのじゃ」
例えば自動車。
ぼたん1つで車の鍵が開く時代に、未だに普通の鍵を差し込むたいぷの車に乗りたがる人間がおる。
おーとま全盛の時代に、まにゅあるに乗り続ける人間がおる。
機械と自分との儀式、とでも思っておるんじゃろうが、そういう手間を大事にする気持ちは私にも分かる。
「手間を掛けて動かす方が……良い?
機械とは、手間を減らすために作られたのではないのですか?」
「……人間の世界には、こんな言葉がある」
私は成る可く大きな声で叫んだ。
「阿呆な子ほど、可愛い!!」
鉱族が全員驚愕の顔をしたのが分かる。
「あ……阿呆な子……ほど?」
「うむ。
じゃから、機能だけが機械の性能ではない。
それにほら、此処を見てみるが良い」
ぼろぼろの洗濯機の横に、一部日焼けの薄い部分があることを指摘する。
「何かが貼られていた跡。
多分、家族間での伝言板としても使われていたのじゃろうな。
更に、此処じゃ」
私は洗濯機の横に何本かまじっくの線が入っている事も指摘した。
私の視線より少し高い位置に刻まれた線。
「恐らく子供の成長の……背比べの後じゃろうな。
他にも、此処にも、此処にも……。
これらは全て彼女が家族に愛されていた証。
彼女はまさに。
“まざー”の名に相応しい機械であった事が分かるじゃろ?」
鉱族の何人かが、がしゃんと膝から崩れ落ちておる。
「……私たちにとっては、ただの汚れにしか見えなかった物に。
……そこまでの意味があったなんて……」
スチールが目をちかちかさせておる。
感動しておるのかのう。
「私たちが、浅はかでした。
彼女は確かに、“マザー”だったのですね。
……私たちもいつの日か、彼女の様に。
まるで家族の様に人間と話し合える日が来るでしょうか」
「ん?
『来るでしょうか』と言うか。
とっくの昔からそんな日は来ておるじゃろう?」
私が当たり前の様に語りかけると、スチールは、ぴぽっと首を傾げた。
「転生者はお主らを見た時、『労補人みたい』の他にも何か言わなかったか?
『ア○ムみたい』とか『ドラ○もんみたい』とか」
「あ、オレ、オレ!
そんな事言われたぞ!!」
「確かに、自分もそんな事を言われたな……」
「私は『ロック○ンみたい』と言われたことがある」
鉱族がざわめく。
「うむ、やはりのう。
それらは転生者にとって、『家族同然の労補人』と言う意味じゃ。
お主らほど喜怒哀楽がはっきりした『労補人』に感情移入しない日本……転生者などおらぬよ」
私がうんうんと頷きながらそんな事を話すと。
鉱族の皆さんが激しい警報音を鳴らしながら地面に伏せった。
なんじゃ、空襲か!?
割りと本気で驚いて空を見上げるが、違った。
……どうやら鉱族の皆さん、感動の余りの行動だった様じゃ。
彼らはそれから1時間近くぴーぴーふぁんふぁん激しく音を立てて崩れ落ちておった。
うむ、どうやら良い事をした様じゃ。
私、二重丸。
……それにしても、めちゃくちゃ五月蝿いんじゃが。