表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
豚公爵と猛毒姫  作者: NiO
拉致編
81/205

第80毒 猛毒姫、断る

******************


 前回までのあらすじ


「ロボットの存在を知っているだと!?

 ばっかもーん、そいつがテンセイシャだ!!」ダバダバ


******************


「どうぞ、お茶を」


「いらぬ」


 私があからさまに拒否すると、スチールは、ぴぽ、と首を傾げた。


「もしかして、いろいろばれてますか?」


「うむ、いろいろばれておる……“転生者”って、なんじゃ?」


「……聞こえていたのですか」


 スチールは観念したかのように話を始めた。


「“テンセイシャ”はこの世界には無い特殊な知識や能力を持った人間の総称です。

 古代文明の創始者や初代ストリー王、初代武国王、3大魔導師の1人である大魔撃のチートなども“テンセイシャ”であったと言われております。


 彼らの共通点は……我らのことを、ロボット(・・・・)、と呼ぶ点でした」


 ふむ。

 絡繰り人形は江戸時代からあったが、労補人(ろぼっと)と言う言葉自体は、前世でもつい最近に広まった呼び方じゃ。

 つまり、この世界では何百年も昔の人物でも、実際は近代日本からの転生者なんじゃろう。



「他の共通点として、非常に御人好しである点や、精神的に脆い点なども挙げられるでしょう。


 ……精神的に、脆い?」


 自分で言って、スチールが、ぴぽっ、と首を傾げた。


 うむ。

 私は精神的に脆くないからの。


 これは旧大和民族と新大和民族の違いじゃろう。

 旧大和民族は世界3大超国家、清・蘇・米と戦って2勝1敗の戦闘民族(さいやじん)じゃ。

 戦後生まれの新大和民族(ゆとり)とは精神力が違う。


「それで、“転生者”である私をどうするつもりじゃ?」


「保護、させて頂きます。

 “テンセイシャ”は、その存在、その言動だけで我々に新たな可能性を見出させてくれるのです。

 今までも10人程度の“テンセイシャ”を保護しました」


 保護、か。

 口ではそう言って、実際どうかは分かった物ではない。

 外でも捕まえろ捕まえろ言っておったし。

 多分場の“乗り”的な物なんじゃろうけど。


「彼らには、好き放題に過ごして頂きました。

 好きな本、好きな食事、好きな運動。

 そして彼らの口から洩れる言葉からインスピレーションを受けて、我々は更に文明を発展させているのです」


 好きな本、好きな食事、好きな運動。

 何しても良いのか。

 なにその素敵生活。


「そ、そうは言っても鉱国から外には出られないのじゃろ?」


「いえ。

 勿論、出来る事ならご遠慮願いたいのですが、“テンセイシャ”の意志を尊重します。

 実際、保護した“テンセイシャ”にはギルドに入って冒険者になった方もいます。

 死なないように我々の精鋭が影に日向に“テンセイシャ”をお守りさせて頂きました」


 至れり尽せり、と。


 夢の様な生活じゃあないか。

 うーん。

 思い切って、此処に決めちゃおっかな?


 私が下宿先を決めるかのようにそんな事を考えておったのじゃが。


「ところで、他に人間を1人、一緒に住まわせるとかは出来ないのかの?」


「できません」


 即答、じゃった。


「“テンセイシャ”の中には帝国に仮の住まいを置き、そこで家族と暮らしたりする方もおりましたが。

 鉱国への入国は基本的には“テンセイシャ”以外は認めておりません」


 そうか。

 とってもいい条件なんじゃが、氷魔法少女(オーダー)育成計画に差し障るのう。


「ならば、お断りしよう」


 スチールは私が断るなどとは思っていなかったのか、唐突な台詞に排気塔をぷしゅーっとさせて驚いておった。


「……駄目ですか」


「うむ。

 ……ちなみに、“転生者”で今もご存命の方は居られるのかのう」


「いえ。

 最後にわが国で確認された方は普通の人族の方で、500年以上前に寿命で亡くなっております。

 93歳でした」


 この中世の様な生活環境で90台まで生存出来たという事は、本当に大事にされておったんじゃなあ。


「……分かりました、勿論、拒否されるのであれば無理に拘束は致しません。

 ただ、1つだけお願いが御座います」


「お願い?」


 スチールは目の光をはいびーむにして此方を見つめた。


「“マザー”に会って、会話して頂きたい」


「……“まざー”?」


****************************************


 私は改めて部屋の外の自動車に乗り込んだ。

 スチールはどうしても“まざー”とやらと会話をして欲しいらしい。

 此方としても拒否する理由もないので、受ける事にした。

 “まざー”か。

 普通に考えたら“まざーこんぴゅーたー”、略して“まざこん”の事じゃろう。

 きっと巨大なこんぴゅーたー群じゃ。

 独立した3つの人工知能による承認・否認多数決決定により鉱国の稼働を行っているのじゃろう。

 間違いない。


 私がSF(すこしふしぎ)妄想をしておると、スチールが声を掛けてきた。


「実は、“マザー”が発見されたのは、ここ数年の話なのです」


「……うむ?

 最近?」


「そうです。

 ……ところでボツリヌス様は、“3種の神器”はご存じですか?」


「話が唐突に変わるのう。

 勿論知っておる」


 3種の神器とは、八咫鏡、八尺瓊勾玉、天叢雲剣の3つである。

 天孫降臨の時に天照大神から授けられた宝の事じゃ。

 日本人なら当然の知識と言えるが。

 それが、一体どうしたんじゃろ。


「言い伝えによると、“マザー”は、その内の1柱なのだそうです」


「は?」


 なんじゃそれ。

 3種の神器って、鏡と玉と剣じゃ無かったのか?

 機械なの?


「鉱人の始祖である彼女ですが……我々では意思疎通が図れないのです。

 そこで、“テンセイシャ”であるボツリヌス様と会話して頂こうかと……」


 ふーん。

 ……え、無理じゃよ?


 私が再度青い顔をして笑顔で汗をかいていると、車が停まった。


「それでは、ボツリヌス様。

 “マザー”がお待ちです。

 どうかくれぐれも、失礼の無い様に……」



 スチールがすたすたと歩いて手を翳した先には。

 どこかで見たことのある四角い箱があった。



 1950年代後半。

 経済白書が『もはや戦後ではない』と戦後復興の終了を宣言した頃。



 神武景気以降、日本経済は急成長する。


 成長の活力としては、物欲が分かり易い。



「彼女こそ“3種の神器”が1柱……」



 日本人は。

 努力すれば手が届く夢の商品。

 新しい生活の象徴として。

 3つの白物家電を、“新・3種の神器”として、掲げた。


 即ちそれは。



 “白黒テレビ”であり。


 “冷蔵庫”であり。



 そして……。



「“始祖様(マザー)”で御座います」



 目の前にある四角い箱。






 ……“洗濯機”、であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ