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豚公爵と猛毒姫  作者: NiO
拉致編
79/205

第78毒 猛毒姫、汗をかく

ブックマーク70です。

読者様が70人。

いや、多分最初につけた人達はもう見てないと思いますが、気分です、気分。

とりあえず祝っておきましょう。



「ああ。ブックマーク70を祝うのはいいが――

 別に、ブックマーク1000になってしまっても構わんのだろ?」


え、あ、はい。

構いません。

******************


 前回までのあらすじ


 結局私は1週間もの間、働きもせずに暴飲暴食を繰り返した。

 気が付けば持ち物は全て空っぽ。

 崖っぷちに立たされた私は仕方なく。

 次の世界があることを信じて。


 ……10000mの高所から、身を投げたのじゃった。


******************


 と言う訳で幼女落下中。


 おおお、これは新しい恐怖じゃ!

 流石に前世でも紐無しばんじーはやった事が無いからのう、癖になるぞ。



 感動してきゃーきゃー叫んでおったのじゃが、しばらくすると空気抵抗と落下速度が拮抗したためそれ以上の速度が出なくなった。

 つまらぬ。



 高度がぐんぐん下がって行き……次第に町の全景が見えてくる。


 これが鉱国の街並みか。

 ほう、これは凄い!

 建物も全て金属で出来ておる。

 ほとんどの建物は直方体の形を取っており、天にも届きそうな建物が並び立つ様は、まるでびるでぃんぐ街じゃ。


 ふと、下に目を向けると地面はまるで、もざいく柄をした金属の床の様に見える。


 さて、そろそろ空魔法で速度を落とそうかのう。

 そんな事を思っていたら、次第に速度が落ちて行った。

 ……?


 魔法も使っていないのに、私はゆるゆると着地する。


 ……なんじゃ、これは。



 そして、目の前を見てみると。



 ワ―――――――!!



「え? え? え?」


 もざいく柄をした金属の床だと思っていたそれは。



 ―――実は、見渡す限りの鉱人達であった―――


 全身が金属で出来た彼らは、太陽の光を眩しく反射しており、私は思わず目を細める。

 辺りを見渡すと、垂れ幕なんかもあった。


『鉱国の象牙壁・突破、おめでとう!!』


 ……ああ、有難う。

 ……え? 歓迎されてる?


 衆人の波を掻き分けて、1人の鉱人が私の目の前に現れた。


「ようこそ、鉱国へ。

 我々は、貴女様がいらっしゃることを、鉱国有史以来待望しておりました。

 私はこの国の代表をしております、スチールと言う者です。


 さあ、どうぞ、こちらへ!」


 スチール、と名乗ったそいつは、うぃーんと音を立ててお辞儀をした後、がっしょんがっしょんと歩きながら、私に付いて来るように促した。


 まあ、断る理由も無いので、ぽてぽてと付いて行く事にする。


 歩きながら周りを観察すると、鉱族達は大声を上げたり手を叩いたり抱き合ったりして御祭り状態じゃった。

 がきんがきんとあちこちで金属のぶつかる音がして、火花が飛び散っておる。

 ……お、何人か、機能停止しておる奴もいる様じゃ。

 後ろから別の鉱人に黒い液体を入れて貰っておる。

 ……あれ、がそりんか?

 こんなところで入れていると、火花で引火して吹き飛ばんか?

 怖い奴らじゃ。


「さあ、この金属の馬の中にお乗りください」


 案内されながら、金属の馬に乗り込む。

 金属の馬。


 うむ、どう見ても車じゃ、これ。

 私が乗ったのを確認すると、自動車が誰も運転していないのに動き出す。

 おお、凄い。

 この自動車、自動なのか!

 あれ、いや、自動車は自動なんじゃから自動車で……あれ?

 なんだか自動という言葉がげしゅたると崩壊して来た。


「そ……それにしても、偉い歓迎されておるのう。

 鉱国有史以来?

 言い過ぎではないのか?」 


 未だに状況把握が出来ていない私は、混乱半分にスチールに語りかける。


「いえ、鉱国建国の理由は、貴女の様な方が外の人間から生まれ、この国にやって来る事を想定しての物なのですから。

 むしろ、建国有史以前、と言った方が正しいくらいです」


 スチールは口元をがしゃがしゃ動かして流暢に喋る。


「そうなのか」


 意味が分からぬが、相槌を打っておく。


「それにしても、大分長い間壁の上で過ごされていた様ですね。

 監視をしていた者からの報告があってから1週間、先程の野次馬連中はずっと壁の下で貴女が来るのを待っていたんですよ!」


 スチールの目がぴこぴこと楽しそうに明滅して、背中の排気塔がしゅんしゅん唸った。

 笑っている様じゃ。


 ……って、え?

 もしかして鉱族の皆さん、私が降りてくるのを1週間も待っておったのか?

 何人か機能停止していたの、私のせいじゃあ無かろうな?


 こうしてみると、此れからどんな扱いになるにしても、此方側に降りてきて良かったと思える。

 1週間焦らされて帝国側に私が降りたとなったら、彼らはどれほど落胆したじゃろうか。

 いや、時魔法使いの話では、鉱国に私が降りる確率は5分と言っておったな。

 ぱられるな世界では50%の確率で鉱族の皆さんがっかり出来事(いべんと)が起こっておったのか、申し訳ない。

 『鉱国の象牙壁・突破、おめでとう!!』の垂れ幕の人なんか、どんな気持ちでお片づけをしたのか気が気でならぬ。


 そんな事をぼんやり考えておると、車は町の中央にある最も高いびるでぃんぐの中に吸い込まれていく。

 そして、車のままで四角い箱の中に入った。

 四角い箱の扉が閉まって、上昇し始める。


 ……うむ、どう考えても、えれべーたーじゃ。


 ちーん、と心地よい機械音がした後、車はとろとろと屋内を進んだ後、部屋の一室の前で停止する。



「ここが私のオフィスです。

 さあ、入ってください」


 スチールが車から降りると、扉へ私を案内した。

 もちろん、部屋の扉は自動(どあ)じゃ。


「いやしかし、我々の予想よりも800年以上早くその時が来てしまいました。

 来る時は、本当にあっという間に来るのですね。

 これが、技術革新と言う奴なんでしょうか」


 スチールは部屋の椅子へぴゅいんぴゅいん警告音を出しながら座ると、私にも椅子に掛ける様に促した。


 ……ん?

 なんか今、此奴変な事言ったぞ?

 

「はて、技術革新とは、何のことじゃろうか」


「そうですね。

 それでは、我らが鉱国建国についてお話しさせて頂きましょう」


 スチールは両手をがちゃんと組み合わせて、話を始める。


「遥か昔、この世界には、巨大な文明が存在しておりました。

 残念ながら大陸の形が変わるほどの大きな戦争が起こり、巨大文明は滅びてしまいますが。

 しかし、いつかその日が来ることを予見していたある科学者が、秘密裏に科学技術を蓄積していたのです。

 ココに来るまでに見て頂いた金属で出来た建物や金属の馬、上昇する箱なども、信じられないかもしれませんが全て科学技術によって作られた物なのです」


「いや、そんな事は知っておるよ」


「おお、流石は話が早い!!」


 スチールは先ほどの様に目をぴこぴこ明滅させた。

 喜んでおるのじゃな。


「科学者は考えました。

 科学技術は正しい技術を持った者が、正しい心を用いて使わないと、再度人類に牙をむくであろうと。


 そこで、人類がある程度の科学技術と倫理観を身に着けるまで此処に辿り着けないようにする方法を考えたのです」


「まさか、それが」


「そうです、『科学技術の壁』……貴女達が『鉱国の象牙壁』と呼んでいる巨大な壁を建築したのです。


 あの壁を超える方法は存在しません。


 ……多くの人間がいがみ合う事をやめ。

 国同士が共同研究を行い。

 そしてその末に結実した科学技術を用いる事以外は、ね」


 スチールは、本当に嬉しそうに目をぴこぴこしておる。




 ……あれ、もしかして。


 これ(・・)盛大に勘違いされて(・・・・・・・・・・)おらぬか(・・・・)()




「いや、でも、ほら。

 空魔法とかあるし。

 科学技術以外でも、ぎりぎり越えられるかなーなんて思ったりなんかしたりするのじゃが」



 私は引きつった笑顔で鎌を掛けてみるが。



「最高の科学技術を用いて作られた物ですので、例え核兵器でも……えーっと、例え核分裂の連鎖反応でも……えーっと、とにかくどんな魔法を使っても傷1つつけられないようになっています」


 核兵器の説明を諦めおったな。

 ……多分、時魔法を使ったら破壊可能と思うがのう。

 まあ、あれは如何様(ちーと)じゃから置いておくか。


「高さに関しても、通常の飛行が不可能な高さに設定してあります。

 辿り着くには『空魔法』が必要でしょう。

 しかしそもそも高度10000mと言うのは、酸素濃度が地上の1/4、氷点下50度の世界です。

 その高さの半分まで辿り着く事すら、生き物には不可能です。


 あの壁は、努力や根性(・・・・・)精神論なんかでは(・・・・・・・・)絶対辿り着けない様に(・・・・・・・・・・)出来ているのです(・・・・・・・・)



 つまり、こういう事じゃ。


 鉱国は、過去の超文明が発展させた科学技術を私たち人類に受け継ぐ目的で作られた。

 科学技術を受け渡すには、人類側の進歩を待たなくてはならない。

 即ち、倫理的に成熟し、ある程度の科学技術を持つまで。


 それを評価するのが、『鉱国の象牙壁』。


 あの壁を乗り越えるには、人類の団結と科学技術の発展が不可欠で。

 人間が壁を乗り越えて鉱国に辿り着いたという事は。

 とうとう人類が鉱国の技術を受け継ぐに相応しい器になったことを意味しておったのじゃ。

 先程の野次馬たちの喜びようは、そう言うことじゃったのか。

 成る程、成る程……。





 私は笑顔のまま顔を真っ青にして汗をだらだらかいていた。



 ど、どうしよう。


 ……なんか私、努力と根性と精神論で此処まで辿り着いてしまったんじゃが。

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