第77毒 猛毒姫、歴史の分かれ道に立つ
******************
前回までのあらすじ
彡(゜)(゜)「おっ、酒やんけ!」
彡(^)(^)「5歳児やけど呑んだろ!!」
┏━━━━━┓
┃ / \ ┃
┃ / \┃
┃ (゜) (゜)ミ ┃
┃ 丿 ミ ┃
┃ つ ( ┃
┃ ) ( ┃
┗━━━━━┛
******************
気が付いたら、仰向けでごーごー寝ておった。
空はまだ暗いが、東の空が、少し明るくなり始めておる。
「あ……起きた?
ボツリヌス・トキシン」
「む、お早う。
私、寝ておったのか?」
「うん……ワインの1口目でね……」
ぐ……流石5歳児、免疫が無いにも程がある。
一緒に飲もうなどと意気込んで、まさか即落ちとは。
時魔法使いには申し訳ない事をした。
わいんには勝てなかったよ……。
「ところで、時魔法使いよ、その姿はなんじゃ?」
今、時魔法使いは40歳位の年齢になっておる。
「ああ……結構良いお酒だったからね……。
折角だし、酒の味が一番分かる年齢になってるだけだよ……」
時魔法、やっぱり如何様じゃな。
「っていうかこのワイン、もしかしたら『帝国の至宝』かな……。
……セッカイから貰ったの?」
……ていこくのしほう?
「……調理場の奥に密かに保管されているヤツだよ……。
……もしかして、勝手に持ち出した? 殺されるよ……?」
「まじでか!?
いや、貴様が1番飲んでいるんじゃあないか!!」
「よっ」
時魔法使いが手を翳すと、新品の『帝国の至高』が現れる。
すげえ。
「まあ、時魔法を使えば、いくらでも増やせるけどね……」
ずい、と時魔法使いは私にわいんを渡す。
私はそれを受け取ると。
わいん瓶で思いっきり。
時魔法使いの頭を叩いた。
「!?」
粉々に割れるわいん瓶。
訳が分からないままびしょびしょになっている時魔法使いに説教をする。
「大事な物を、ぽんぽん増やすな!
何が大事か、分からなくなるじゃろう!!」
時魔法使いは驚いておる。
そして、何度か私の言葉を反芻した後、体を濡らすわいんを時魔法ですっかり消し去りながら呟いた。
「……やっぱり、ボツリヌス・トキシンは面白いなあ……。
これだけ生きても、目から鱗が落ちる事があるなんてね……」
それから、ぐい、と杯を空けると。
私の目を見つめて、時魔法使いは喋り出す。
「ちょっと機嫌が良いから、僕がここに来た理由を教えてあげるよ。
僕は……歴史の分かれ道を見に来た。
……暇潰しにね」
「歴史の分かれ道?
なんとも、大げさな奴じゃなあ」
「そんなことはないよ、ボツリヌス・トキシン。
此処が。 此処こそが。 歴史の分かれ道だ」
「……?」
「此処で君が、帝国側に降りるか、鉱国側に降りるか。
その選択は、後々人間界を揺るがす程の大きなものになる」
……ふむ、成程。
これは多分、あれじゃな。
蝶々効果と言う奴じゃな。
私のちょっとした決断が、びりやーどの玉の様にぶつかり合って、最終的に全然違う所に大きな波紋を起こす、と言うことなんじゃろう。
「どっちに行けばどうなるか、答えは教えてくれんのかのう?」
かまを掛けてみるが、時魔法使いは答えてはくれない。
「今回の歴史では、僕は傍観者だ。
今後、ボツリヌス・トキシンの味方にもならないし。
逆に、絶対敵にもならない。
例え、何があっても、ね」
味方でも敵でもない傍観者。
だから何も教えない、と言う訳か。
私は少し、考える。
帝国側に降りた時の最悪は、シャーデンフロイデやバトラーが待ち伏せしている場合である。
ただ、例えそうだとしても、死ぬ事はない。
連れ去られるだけじゃ。
対して鉱国に降りた時の最悪は、処刑じゃろう。
鉱国の事は良く知らんが、無断での越境は何処の国でも犯罪行為じゃ。
そんな事を考えておると、太陽があたりを照らし出した。
夜明けじゃ。
……熊の袋の中は、すっかり空っぽになってしまった。
時魔法使いもわいん瓶の中にある、最後の一滴を杯に入れて飲み干しておる。
この場は、これにてお開き。
今こそ、決断の時じゃ。
……よし、心は決まったぞ。
私はゆっくりと遥か下へ視線を移した。
「1つ、聞いていいかい……?」
「なんじゃ?」
飛び降りようと思っている所で、時魔法使いが邪魔をする。
「今まで僕が繰り返してきた歴史の中で、ボツリヌス・トキシンが帝国側に降りた回数と鉱国側に降りた回数はほとんど5分と5分。
今回、そっちを選んだ理由は、何?」
なんと、5分5分じゃったのか。
ふむう。
「じゃって、こっちの方が、面白そうじゃろ? 例え命を落とそうと」
私は、鉱国側を指さして、笑う。
此方を選んだ理由は、『がんがん行こうぜ』の気分だったからに過ぎぬ。
『いのちをだいじに』の気分だったら、帝国側を選んでおったのかもしれん。
時魔法使いは、此処で初めて大笑いした。
「あははは!
うん。
予想通り、予想も出来ない理屈だね
……そっか。
じゃあ、君のこれからのますますのご活躍をお祈りさせて頂くよ」
「なんじゃその微妙な文言は、縁起でもない」
私は一声だけ反論すると、時魔法使いに手を振って。
鉱国側の空へ落下した。
「……それじゃあ、行ってらっしゃい。
……猛毒姫」
最後に発した時魔法使いの言葉は、風に掻き消されて私の所までは、届かなかった。
壁の上だけで3話とか馬鹿じゃないの?




