第74毒 猛毒姫、あっちでお別れしてこっちで再会をする
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前回までのあらすじ
解体して治癒して光学迷彩。
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なんだかんだで城の一室……私が先ほどまで寝かせられていた部屋に戻ってきた。
4人の王達はまだまだ話し合うようで、私にも参加しろと言ってきおったが、『全部なかったこと』にした以上、私はもはや『皇国の恩人』でも『犯罪者』でもない、ただの娘っ子に過ぎんからのう。
何より面倒くさいし。
さてと。
体の方は光魔法ですっかり元通りじゃが、流石の私でも精神的に疲れた。
と言う訳で、ちょっと一眠りさせてもらう事にしようかのう。
うむ、ふかふかじゃ。
おやすみなさーい。
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……目が覚めると、鼻から栄養ちゅーぶが入れられておった。
べっどの横ではユウシャ一行が思い思いの格好でぐーすか寝ておる。
なんだか、既視感。
「おい、マホウツカイ、起きておくれ」
「……!!
……!!!!」
私が声を上げると、マホウツカイは速攻でがばっと起き上がって声にならない声を上げながら私に抱き着いてきおった。
「ボツリヌスちゃんボツリヌスちゃん!!
生きてる!
今度こそ、生きてる!
生きてるよね!?」
マホウツカイは私の頬っぺたやら腕やらをむにむに掴みながら泣きそうな顔で笑っておる。
嬉しいのは分かったから、むにむには止めい。
「うむ。
生きておる」
マホウツカイの声に他の3人も目を覚まして、私の近くに集まってきた。
「ああ、ボツリヌス。
良かった……!」
「私、何か食べ物を持ってきますね」
「ああ、それが良いな」
ソウリョが気を利かせて食事を取ってきてくれるようじゃ。
「ところで私、何日間くらい寝ておったのじゃ」
「1週間だよ。
王様達は、皆帰っちゃった」
ああ、またもや。
……まあ、しゃんでりあで圧死しかけて、それから時間も空けずにあの大立ち回りじゃし。
仕方無いかも知れん。
ソウリョが持ってきた梅干しおかゆをぱくぱく食べておると。
ユウシャが、ぽつりぽつりと私に話しかけた。
「ボツリヌス、僕たち、相談したんだ。
ボツリヌスの持つ覚悟や意志と比べて、僕たちの気持ちって、なんて軽いんだろうって」
ふむ。
以前から思っていた事ではあるが、そこに自分達だけで辿り着くと言うのは中々に難しい事である。
頑張ったのう。
「きっと大丈夫じゃ、ユウシャよ。
勇者と言う字は、『勇気ある者』と書く。
心の力だって、すぐに手に入れる事が出来るさ」
ここで、何故かセンシが頭を下げた。
「数々の無礼な振る舞い、申し訳なかった。
お前の様な力も無い小娘に龍から助けてもらえるなど、恥だと思っていた。
今ならわかる。
何故、龍達がお前に一目置いていたのかを」
ふむ、センシよ。
多分、龍達が心を許したのは、お前が思っているような理由ではないと思うぞ。
「あざといなんて言って、ごめんなさい。
ボツリヌスちゃんは、モノホンだったんですね」
なんじゃ、『ものほん』って。
此奴は何について謝っていて、何を考えているのかさっぱり分からん。
「ボツリヌスちゃん、これ、フヨウ皇女猊下から。
お見舞いだって」
何だか嫌そうにマホウツカイが差し出したのは……真っ黒な腕輪じゃった。
「なんじゃこれ、お、重いぞ」
「加工した魔石なんだって。
流石は皇国、良く分からない技術が発達している」
「ほう、魔石の加工とな!
そんな事が可能だとは。
此れは素晴らしい。
おお、良かった、腕にぴったりじゃ」
これもガクシャの研究に因る物なのじゃろうか。
魔石は私の生命線じゃからのう。
持って来ていた魔石は既に使い切ってあったし、非常に助かる。
それにしても、大した研究じゃ。
魔石は普通に持っていてもかなり嵩張るのじゃが、この形ならまだ楽じゃし、複数個所持も可能じゃのう。
ふむ。
魔石の加工が可能なのであれば、それこそ魔石の鎧なんて物も出来るかも知れぬ。
魔石は基本、破壊不能であるから、最強の鎧が出来そうじゃ。
……ただし、重さで絶対に動けんが。
私がにこにこ腕輪を眺めておると、何故かマホウツカイがぶち切れた。
「キー!
納得いかないー!!
結局痛い思いしたのはボツリヌスちゃんだけだし、物凄い損害被ってるじゃない!
文字通り命がけで人助けした恩は?
その恩人に濡れ衣をかけた報いは?
死ぬほどの痛みへの補償は?
奪われた命綱とも呼べる情報の権益は?
光魔法で傷を治してこんな腕輪を上げただけで、挽回できると思ってるの!?
全っ然! 腑に落ちない!!」
「なんじゃマホウツカイよ、突然大声を上げて。
まるで千代華さんの感想の様な事を言う」
「ボツリヌスちゃんもなんでそんなに平気な顔してるの!
っていうか、千代華さんって誰?」
「私としては、ぶち切れておったのは『濡れ衣を着せられた事』だけじゃったからのう。
そこさえ謝って貰えれば、後はどうでも良かったんじゃ。
そして、私が犯人じゃないとなると、他で誰かが責任を取らなくてはならぬので、結局ごたごたは続くからのう。
だから、私の『ぜーんぶなし』の提案で、『しゃんでりあが落下した事』から無かった事にした」
「ボツリヌスちゃんはそれで良いの?
あんなに滅茶苦茶にされて、平気なの?
そして、千代華さんって、誰なの!?」
「それで良い。
平気じゃ。
……それより、ストリー王は何か言ってなかったかのう」
マホウツカイはまだ何か言っておったが、無視した。
「ああ、ストリー王は帰国したけど、帰国用の馬車を手配してくれているみたいだよ」
「そうか。
やっと家に帰れるのう。
あ、その前にセッカイ帝王に挨拶せんとのう」
「あ、止めた方が良いですよ。
『目が覚めたら、勝手に帰れ。
二度と俺の前に姿を現すな。
次に出会ったらお前を殺す』
と言伝を頂いています」
これは、まあ、随分と嫌われてしまったのう。
「そうか。
さてと。
飯も食って腹も膨れたし。
後は風呂でも入ったら、出発するかのう」
「え、もう!?」
「こういうのは、だらだらしてしまうと長くなるからのう」
ユウシャ一行とは、ここでお別れかのう。
寂しい物であるが、何時かは来ることじゃ。
「……そうだな、俺たちも、行くか」
「センシまで……」
「縁があれば、また会えるだろう。
俺たちの温さは、こういう所から治していった方が良いと思うぞ」
「……そうか、そうだな」
ユウシャは納得したのか、立ち上がる。
「また会おう、ボツリヌス。
その時はきっと、心も体も、もっと強くなっているから、だから」
「そうか、楽しみにしておるぞ!」
「え、う、うん……」
私は言葉を続けようとするユウシャを遮って返事を返す。
妙な告白なんぞされても困るからのう。
「ボツリヌスちゃんって、意外と悪女だよね……」
「……モノホンですね」
周りから、なんか言われておった。
ソウリョの奴は、「あざとい」が「ものほん」に変わっただけじゃった。
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風呂に向かいながら、なんとなく窓から外を見てみると、馬車が止まっておった。
あれが私を王国に連れて帰ってくれるという馬車なのじゃろう。
フードを深く被った2人の従者が欠伸を噛み殺しながら待っておる。
ふむ、すまんのう、お風呂から出たらすぐ行くぞ。
そんな事を考えながら。
本当に何となく。
2人の従者に『鑑定』を使ってみた。
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バトラー 18歳 女 18歳
二つ名:妖精の忌み子
体力:33333333
魔力:33333333333
スキル:精神汚染耐性LV MAX
鑑定 LV4
魔法範囲制限LV MAX
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シャーデンフロイデ 16歳 獣人 女性
二つ名:なし
体力:444444444444
魔力:4
スキル:精神汚染耐性LV MAX
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……あれ。
バトラーと、シャーデンフロイデって。
おいおい、此奴ら、私を攫った奴らじゃあないか。
懲りずに、また来たか。
さてと。
とりあえず。
……お風呂に入ってから、考えるかのう。
千代華様の感想は、多分読者さんの多くも思っている事なのかな、と言うことでがっつり使わせて頂きました。
千代華様、ご承諾誠に有り難うございます!