第70毒 猛毒姫、白状する
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前回までのあらすじ
『主人公がスキルに頼らずに精神力と年の功で何でもねじ伏せる作品だよ(遠い目)』
~某巨大掲示板より抜粋~
おお。
なんで遠くを見ておるのじゃ。
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「貴様は魔力量が10らしいな……『操』系の魔力消費量は確か13。
なぜ『金操』を何回も使えたのだ?」
「ぐ、そ、それは」
魔法の分解は、私の魔法学者としての知識の中核を成す物でも或るが。
……残念ながら、現状で話さない訳にはおられなさそうじゃ。
「魔法を、分解して使いました。
私の『金操』は魔力1で魔力1なりの動きが出来る魔法に調整してあります」
“しゃんでりあ”の落下速度を緩める事が出来る程とは、正直思ってなかったがのう。
そして案の定、自称“魔法学者”のガクシャは、『新しい学門研究の発表』に目を見開いて驚いておる。
「そういえば、先ほど、熊を殺したと言っていたな。
方法は秘密とのことであったが、答えられないのか?」
これも隠しておきたい私の大事な技術の1つであるが。
「……私の技術、魔力流量感知を使いました。
冬眠中の熊を『土操』でおびき出し、『水操』で溺死させました」
武王の後ろで3本の矢の2本が聞いた事も無い技術について驚きながらぼそぼそ話をしておる。
「牢屋の鍵を開けて脱獄したとの事だが、一体どうやった?」
「ちょ……ちょっと待って頂きたい!!」
私は思わずショーバイ武王の詰問を遮る。
私が死ぬ気で開発した魔法たちは、ほぼ初見殺しである。
逆に、種が割れると、誰も引っかからない。
『開護摩』は南京錠を4つ付けられたら終わりじゃし。
『漂流者達』も情報が洩れていれば簡単に回避されてしまうじゃろう。
他にも、無詠唱が可能である事や、基礎四源を使えることなど。
私の生命線となる其れらをばらすという事は、或る意味、命より大事な情報を明け渡す事に成り兼ねん。
「……どうした、ボツリヌス・トキシンよ。
答えられぬという事は、即ちこの一連の事件の犯人、という事と同義と考えられるが」
なんじゃその滅茶苦茶な理論は!
……いかん、考える時間が無さ過ぎる。
「いえ、勿論、お答えしますとも。
ただ、先ほどやっと目覚めての、今で御座います。
申し訳ありませんが、お水などを頂ける時間が欲しいのですが」
ショーバイ武王は、少し考えた後、ハヤサに水を取らせに行った。
……ぶっちゃけると、水分なんて魔法で作り出せるじゃが、それは言わない。
別に喉が渇いてそんな要求をした訳じゃ無いしのう。
じゃあ、何故かと言うと……勿論考える時間が欲しかったからじゃ。
私は、周りの顔を見渡す。
彼らは、私と目を合わせなかったり、憐憫の目で見てきたりしておる。
私を叱責するショーバイ武王からですら、明確な悪感情は見て取れない。
……彼らの表情から察すると、つまり。
私が犯人じゃ無くて、しかも無実の罪を着せられそうである事を、皆が知っている様に思える。
そこまで考えて、やっと気が付いた。
(そうか、生贄か……!!)
国の威信を掛けたぱーてぃーで起こった不祥事。
全ての罪を、末端である私にひっ被せて、事を収拾するつもりなのじゃ。
……いや、事の成り行きを知っているはずのハヤサは、こう言っておった。
『これから、もしかしたらショックな事が起こるかもしれん。
でも、素直ォーに喋ったら、悪いようにはならん』
多分、4人の王の落としどころは。
『自分達、国の代表に『皇女殺し』の疑惑が掛けられない程度に、私を叩いて、ついでに私の情報も全て白日の下に晒す。
最終的には、私を今回の事件で1番の容疑者にする。
ただし、私の本当の姿は、たまたま出席したパーティーで皇女を救った『英雄』である。
さすがに罪を与えるのは酷過ぎるので。
決着は『限りなくクロに近いシロ』という形で、御咎め無しで終わらせる』
……くらいじゃろう。
……舐め腐っておるが、まあ確かに、私を犯人にすると言うのは、妥当な所じゃろうな。
それにしても、じゃ。
私の情報の全てを吐き出すという事は、即ち今まで苦労して得てきた、学んできた、作り上げてきた努力と根性の集大成を明け渡すという事。
それは、或る意味、死刑よりも酷い行為にも思えるが。
……それでも、実際に死ぬ訳ではない。
今までの努力は、まあ、全部捨てよう。
これから、また、新しく作り上げていけば良いだけじゃあないか。
そこで、ふと。
頬を伝わる一筋の滴に、気が付いた。
鏡も無いので頬を触って確認すると、やはり濡れておる。
舐めてみるが、しょっぱい。
これ、涙じゃ。
……ぬ?
私が、泣いておる!?
自分の涙に、先ほどより混乱する。
精神の鍛練者たる私が、こんな事で涙を流すなんて……。
……恐らく、5歳児になったことで、感情の振れ幅が強くなったことが影響しておるのじゃろうが。
そこまで考えて。
なんだかだんだん苛々してきた。
皇国の恩人とかなんとか言っていた私に対して、保身しか考えないこの仕打ち。
そりゃあ、5歳児じゃなくても、泣いて当たり前じゃ。
……うむ、決めたぞ。
此奴等はもはや、……私の敵じゃ。
「ボツリヌス・トキシン様。
水でございます」
「有難うの、ハヤサよ」
外行きの言葉で話しかけるハヤサに、私は一言お礼を言う。
そして、貰った杯の水を1口だけ飲んだ後。
半円状の机の前まで行き、そこに杯を置いた。
「……ん、なんだ、もう良いのか?」
武王が杯に残った水を一瞥して、私に問いかける。
「私への取り調べの前に、1つだけ教えて頂きたいのですが」
「……」
「私にとって、此れから喋らなくてはならない情報とは、命より大事な物も含まれています。
それは、努力と根性の集大成であり、死ぬ気で積み上げてきた貴重な財産と同義のものです。
情報を全て喋りなさいという事は。
それらを全て吐き出して、素寒貧の無一文に成れという事。
猊下、殿下、陛下、閣下に置かれましては。
そんな……私の命より大事な情報を、全て教えろとおっしゃるのですね。
つまり、私に、『死ね』、と。
……そう、おっしゃるのですね」
皇国王、武国王、王国王、帝国王は、全員無言になった。
「沈黙は、肯定と受け取らせて頂きますが」
誰も彼もが、後ろめたそうな顔をして、私と目を合わせない。
しばらく時間があって、やっと、ショーバイ武王が口を開いた。
「……そうだ。
貴様には、問答無用で情報の全てを吐き出してもらう。
それを貴様が『死刑』と捉えるのならば。
確かに私たちは、貴様を『死刑』にしようとしているのだろう。
もちろん、犯人と言う決定的な証拠がない限り、罪に問うつもりも、罰するつもりも無い。
犯人と断定できなければ、『疑わしきは罰せず』とし、無罪で解放しよう。
これは、私たち全員の意見だ」
「……そうなのですか?」
他の3人は、俯きながらも、小さく首を縦に振った。
「……そうなのですね?」
4人とも、先程より深く、頷く。
「……そうですか」
私は机の上に置いた杯を持ち上げると。
机の上に、盛大にぶちまけた。
突然のことに、部屋の中が一瞬ざわついたが。
「……さて、御集りの皆様。
世間には、此う言った諺が御座います。
『覆水、盆に返らず』」
私の声に、全員が口を噤んで、しん、となった。
私は、構わず話を続ける。
成るべく、怒りが伝わるように、強い口調で。
「……おい、為政者どもよ。
吐いた唾を、飲み込めると思うなよ……?」
「無礼者!!」
ショーバイ武王の用心棒の1人、ツヨサが声を上げ私を非難した。
またもや、部屋の中が騒がしくなる。
と、そこを武王が手を叩いて収めた。
「静粛に。
……さて、ボツリヌス・トキシンよ。
言いたい事は、それだけか?
ならば、再度質問を始めさせてもらうぞ」
「私がやりました」
「……? は? 一体何を……?」
突然の告白に、武王が少しぽかんとしておる。
全く、先程から何の話をしているのか、もう忘れたのじゃろうか。
私は、分かり易い様に、改めて言い直す。
「だから。
私が、皇女猊下の暗殺未遂事件を起こしました」
笑顔で再度言い直すと。
「「「「……え? は? いやいやいや」」」」
あまりにも予想外の返答だったのか。
頂点4人を始め。
……部屋の中にいる全員の口から、驚きの声を頂くことが出来た。




