第7毒 猛毒姫、捨てる
目が覚めるとオーダーはまだ回復魔法をかけ続けていた。
部屋の外は暗闇から次第に明るさを帯び始めている。
オーダーの部屋を訪れたのが昼前じゃから……まさか一晩中魔法をかけ続けていたのじゃろうか。
「オーダーよ。
良い朝じゃの」
逆光になってオーダーの顔は見えない。
「……おはようございます、バカ姫様」
「な……!
お主、不敬じゃぞ!」
「魔力枯渇で死にかける奴なんてバカ姫で十分ですよ、ばーかばーか!」
かーてんが揺れて光を遮り、部屋が薄暗い闇に包まれる。
オーダーは、その暗がりの中でもわかるくらいに泣いていた。
というより、一晩中泣き腫らしていたのだろう、顔中の穴と言う穴から流れては乾いた汁の後でべたべたになっていた。
「……すまぬ。オーダーよ。
そして、ありがとう」
「……別にいいですよ、仕事ですから」
オーダーは鼻を啜ると、私の頭を優しく撫でながら、寝る子に本を読む親の様に話を始めた。
魔力量は魂の力とも言われていること。
魔力量が0になると激痛とともに絶命すること。
魔法の使い方のわからない初心者が命を落とすことが多いこと。
魔力量0から生還を果たしたのはおとぎ話の中ですら一人しかいないこと。
「古代三大魔導師の一人、『大災害のペンツ』は魔力量が0になった時のことをこう話しております。
拷問も一通り受け、スキルにレベル10の精神汚染耐性を持つ私でも、耐えられる痛みではなかった。
例えると、頭蓋骨を切り開き脳味噌を取り出されて、余す所なく大量の針を刺された後、濃硫酸のたっぷりこってり入った水槽に沈められた様な気分であった
……と」
オーダーはちらりと私を見て感想を欲しがっているが、私はそれよりも気になることがあった。
精神汚染耐性 れべる10って凄い技術じゃのう。
私の場合、その後に100万体の印度象と糞味噌技術が付いてきたぞ。
まあ、それはともかく。
「ところで、技術ってなんじゃ?」
魔力量0から生還した2人目の人間である私にどんな状態であったのか聞きたがっていたオーダーは、少しむくれた後、それでも答えてくれた。
「神様から与えられる……と言われている、特別な技術のことです。
生まれつき持っている人もいますし、強烈な精神への負荷や肉体への負荷、もしくはその両方を経験し、乗り越えた事を契機にして覚醒する人もいます」
「オーダーも持っておるのか?」
「……ええ、秘密ですよ?
私は『鑑定』のスキルを持っています」
ほう。鑑定、か。
……成程、私が魔力量0であることを何故わかったのかと思っていたが、そういうことか。
恐らく私のすてーたすを調べたのだろう。
「それはそれとして、私には無いのか?
技術」
「ありませんよ、持っていないのが普通です」
一刀両断であった。
「ん……あれ、ちょっと待ってください」
オーダーは怪訝そうにまじまじと私を鑑定ている。
しばらくしてその顔が、笑顔で弾けた。
「嘘、そんな、信じられない!
でも、それもそうよね、納得だわ!」
オーダーが深夜番組のてれびしょっぴんぐの外国人の様に驚いておる。
「ボツリヌス様、スキル習得、おめでとうございます!!」
「……え、え?」
「おそらく魔力量0からの生還がスキルを得るだけの器と判断されたのでしょう。
ボツリヌス様のステータスにスキルが新しく追加されています!
これは本当に凄いことですよ!」
興奮気味のオーダーに押される形の私。
「な、成程。それは嬉しいのう。
して、その私の得られた技術はなんじゃ?」
オーダーは胸を張って答える。
「精神汚染耐性スキルLV1です!!」
お……おおっ。
てっきり『糞味噌技術LV1です!!』とか、使えない技術を落ちに持ってくると踏んでいたら、思った以上に有用な物が得られた。
目が覚めてしばらくしてから急に気分の悪さが無くなったのは、この技術のせいかも知れぬのう。
オーダーも自分の事のように小躍りして喜んでいる。
うーん。
……しかしのう……。
「この技術、いらんわ、私。」
「……へ?」
私は頭の中で自分のすてーたすを想像する
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ボツリヌス・トキシン
MP:10
HP:10
魔法:水玉
スキル:精神汚染耐性LV1
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かなりはっきりと思い浮かべられる様になったので、次の段階に移る。
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ボツリヌス・トキシン
MP:10
HP:10
魔法:水玉
スキル:精神汚染耐性LV1 <削除しますか ⇒はい いいえ
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これでいいはずじゃ。
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ボツリヌス・トキシン
MP:10
HP:10
魔法:水玉
スキル:精神汚染耐性LV1 <本当に? ⇒はい いいえ
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む、しつこいのう。
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ボツリヌス・トキシン
MP:10
HP:10
魔法:水玉
スキル:なし <精神汚染耐性LV1を削除しました ⇒はい
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途端にずしんと頭が重たくなった。
「うん。よし。」
おそらく技術削除成功である。
オーダーは葉っ〇隊の様な動きで喜びを表現していたが、今はその恰好のまま固まっている。
面白い恰好をしながらオーダーは何とか言葉を絞り出して呟く。
それは恐らく、魂の叫びじゃろう。
「……は? なにこのバカ姫」