第60毒 猛毒姫、対話する
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前回までのあらすじ
ぎゃるのぱんてぃーおーくれー
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老龍から空魔法を学ぶことになった。
ちなみに……実際に空魔法が使える様になるとは思っておらん。
じゃあ、何故そんな願いを? と思われるだろうが、実はこれは私の仮説の証明のためなのじゃ。
水魔法を極めなくても発展魔法、氷魔法が使える。
土魔法を極めなくても発展魔法、金魔法が使える。
なぜなのか考えた末、1つ思い浮かんだことがあった。
私が金魔法を初めて使えるようになった時に考えたこと。
『人体に微量金属がある』
これがひんとになった。
つまり。
『魔法とは、自分の体の中にあると認識できるものを、外に顕現する事の出来る力』
なのではないかという仮説じゃ。
誰にでも使える基礎四源、土、水、熱、風。
自分たちの肉を見れば、これが死ねば土になる事を想像するのは容易い。
体を切れば血液という名の水が流れている。
体はいつでも熱を帯びており。
そして息を吹けば風が生まれる。
即ち、誰でも自分の体の中にあると認識できるから使えるのじゃ。
誰にでもは使えない発展四源、金、氷、火、嵐。
金魔法に関しては前世の知識で血液中に金属元素が含まれている事を私は漠然と知っていた。
この世界の人間はどうであろう。
自分の体の中に金属が流れているなどと言われても、信じられることではない。
だから、顕現できないのじゃ。
氷魔法は、熱を奪うことを軸に外に顕現できる魔法。
火魔法は、体内の酸化を軸に外に顕現できる魔法。
嵐魔法は、陰圧を軸に外に顕現できる魔法。
……であると、私は踏んでおる。
どれも恐らくこの世界の人間では理解できない事象ではなかろうか。
熱を奪う事で氷が出来る事や、体内で酸化反応が起こっていることや、陰圧を掛ける事でむしろ陽圧より 激しい風が吹くと言う事を、知る機会などないはずじゃ。
さて、ここからが本題である。
じゃあ、種族四源はどうなんじゃろ?
これは恐らく、その種族しか持っていない体内器官を用いて魔法を使っているのであろうと想像がつく。
と言う訳で、その理論の証明のためだけにこの無茶なお願いを通したと言う訳じゃ。
「それでは教えておくれ、老龍よ」
「分かりました。
良く見ていてくださいね」
老龍は人型のままふわりと浮き上がる。
「おお……」
浮いておる。
ただ浮いておるようにも見えるが、やろうと思えば自由自在に空を飛び回れるのじゃろう。
「……分かりますか?」
「当然分からぬ」
お前はルイ○ェルドか。
言葉が足りな過ぎるぞ、老龍よ。
「うーん、説明は苦手なんですよねぇ……
えーっと、キューッとやってバーンという感じです」
老龍は謎の擬音語を喋りながら身振り手振りで一生懸命解説する。
全然説明になってはいないが、可愛いお爺ちゃんが見れたので許すことにする。
「……成程、私に空魔法を教えたくないから、煙に巻こうと言う算段じゃな」
「む! 里の若者を助けた者を、無下にすることなどありましょうや!」
お爺ちゃんがぷんすこ怒り始めた。
「……仕様がありませんね。
私は言葉が苦手ですので、アクセス権をお渡ししましょう」
「アクセス権?以前の若龍がやったあれか」
「いえ、あれは上位の者が下位の者に使用出来る別のスキルです。
……実は我々龍は、全員が常に一つの意志を共有しております。
この世界の神ともいえる、“大いなる意志”……我々はその僕なのです」
お爺ちゃんが、変な宗教に騙されたようなことを言っておる。
この後、壺とか絵とか買わされないじゃろうな。
「良く分からぬが、その“大いなる意志”とやらにあくせす出来る権利をくれるということかの」
「はい。
大いなる意志とアクセス出来ると言うことは、我ら龍族全員と精神を共有できると言う事、即ち我らと同胞となるも同じ。
そのお覚悟がありますか?」
龍族と同胞。
覚悟も糞も、全然問題ない……私側には。
「えーっと、今のまま精神共有すると、そちら的に不味くないかの」
私は今現在も龍の覇気を食らい続けておる。
その不快感を龍が感じたら、どうやら瀕死になるらしい。
私が今、大いなる意志にあくせすしたら、全ての龍が泡を吐いて倒れるぞ。
「覇気の事ですか。
大丈夫ですよ、もう感じてないでしょう?
ご自身のスキルを、確認してみてください」
……?
そういえば、随分前から不快感が消えていた様な気がする。
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ボツリヌス・トキシン 5歳
二つ名:龍殺し NEW!!・大聖女・聖女・毒女・毒舌娘
体力:27/50
魔力:10/10
スキル:鑑定LV3
魔力並列LV6
魔力流量感知LV6
覇気相殺LV1 NEW !!
神との対話LV1 NEW !!
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……突っ込みどころが、有り過ぎる。
1つずつ行こうか。
「覇気相殺、か」
通常であれば、耐性系の技術は削除するところじゃが、先程の“大いなる意志”の話もあるし、今は自重する。
「二つ名に、龍殺し……」
「武を志す者にとって、夢の称号ですよ、良かったですね!」
「え、私は、武を志さない者なのじゃよ。
全然いらないし、むしろ迷惑なのじゃが」
何度か削除を試みたが、無理じゃった。
二つ名は他からの評価である故か、捨てられぬらしい。
……最後に。
「か……神との対話……」
凄い名前じゃのう。
「まあ、試しに使ってみてください」
試しに使っていい技術なのか。
「よし、では……『神との対話』!!」
……何も起こらぬ。
“聞こえますか”
“……おお、老龍か? これはどう言う事じゃ?”
“大いなる意志を通して貴女に話しかけています”
“凄いのう……お主だけでなく、他の龍達とも意識を共有しておることが分かる”
“ええ……ただし、意識の共有は今現在のみで、過去の記憶へのアクセスなどは出来ませんけどね。”
“そうか……まあ、そうでないと私の過去に味わった苦痛を感じて龍が絶滅するからのう”
“……さて、それでは空魔法の説明ですが。
キューッとやってバーンという感じです”
“お、おお!
お主の言葉が思考ごと伝わったぞ!!”
“分かりますか”
“分かるわ”
こうして私は空魔法を理解した。
そして、どうやら私にでも使えそうなことも分かった。
龍族の空魔法は、特殊な器官による物ではなく、共有した意識のもとで紡がれる物じゃった。
どうやら自身が受ける、惑星の重力と自転・公転の遠心力を軸にした魔法らしい。
これは龍族と精神共有しない者には絶対辿り着けない魔法じゃろう。
……私に教えて良いんじゃろうか。
そんな訳で空魔法も使ってみたのじゃが。
私の魔力では残念ながら体を浮かせることは出来ず、体を軽くする程度にしか役に立たない物じゃった。
「しかし、この“大いなる意志”への“あくせす”と言うのは楽しいのう」
「そうでしょう。
宜しければ、他の龍ともコミュニケーションを取ってみてくださいね」
「心の声と言えば、やって見たいことがあったんじゃよ!」
「?なんですか?」
“ふぁみちき ください”
「……?」
お爺ちゃんが可愛らしく首を傾げた。