第58毒 猛毒姫、殺す
その他ランキング日間で20位くらいにいるみたい。
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前回のあらすじ
エルフの里に向かったつもりが、龍の巣じゃった。
分かり易く言うと。
綺麗なお姉さんのお尻を追っかけてるつもりが、ヤク○さんのお宅じゃった。
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空を舞う龍はその巨体に似合わずふわりと地面へ着地する。
これから私に害をなすはずの龍であるが、そうした所作すらも美しく見える。
―――遥か太古より存在し、進化の波にも普遍を貫きし、即ち生命の完成系……―――
「あ、これ蜚蠊の褒め言葉じゃった」
『はああぁぁぁあああ!? 貴様は何をいっておるのだ!』
私が自分の思考過程に声に出して突っ込みを入れると。
それをしっかり聞いていた龍が怒った。
や、やばい、補論せねば。
「いや、そ、そうじゃなくての。
つ、つまり、龍は良い意味で蜚蠊の様な存在であると」
『こっ、こっっ! 殺されたいか人間族ううッッ!!』
あ、これ、もう駄目な奴じゃ。 詰んだわ。
『貴様ぁああ……遥か太古より存在し!
進化の波にも普遍を貫くその姿!
即ち生命の完成系であるこの我々に向かって!
あろうことかゴキブリの様な存在だとおぉぉ!?』
……え、うん。……あれ?え、え、うん?
……合っておるじゃろ?
「えっと、違う、これは、えっと、えーっと。
あ、そうじゃ、『御機嫌はいかがですか、久しぶりですね』を略した、なうでやんぐな人間族の最新若者用語じゃよ! うんそうじゃよ!」
ちょっと無理矢理誤魔化して見る。
『ふ、ふむ……そうなのか?
……確かに、人間族はやたら文章を短くしたがるからな……』
おお……、馬鹿で助かった。
「勘違いさせてしまって申し訳ない。
以後使わぬように気を付けよう」
私がぺこりと頭を下げると、龍が続ける。
『いや、それが貴様ら人間族の通例であるならば構わぬ。
好きに使え』
まさかのお許しが出た。
これは、馬鹿とか思って悪かったのう。
話の分からぬ奴かと思ったが、かなり柔軟性のある理知的な龍じゃあないか。
正確には龍では無く、ドラゴン、になるのかのう。
体は蛇と言うよりペンギンのそれであるが。
恐らくペンギンの飛ぶが如く海を泳ぐ様に、龍も泳ぐが如く空を飛ぶのじゃろう。
美しき流線型の相似。
流れ学に基づき空を飛ぶ雄姿を想像し、しばし思いに耽る私。
浪漫じゃ。
『……それで、我々を殺しに来たのか、矮小なる人間族よ』
あれ、話しが最初に戻った。
「違うのじゃ。
実は……道に迷ってのう。
生き物のいる感覚を頼りに適当にうろうろしていたら、たまたま此処に着いたのじゃ」
いくらか誤魔化しながら説明すると、龍は一笑に付して否定した。
『適当に?たまたまだと?
それは嘘だな。
我々龍族は他の生命を圧倒する覇気が存在し、通常であれば近づく事すら不可能だ。
此処まで来れると言うことは特殊なスキルを持っていると言う事。
そして、つまりそれは、我々を殺しに来ていることに他ならない!!』
覇気……成程、この気持ちの悪い感じはそれによる物なのか。
確かに一般人では辿り着けぬとは思うが。
『ぬ、貴様? ……耐性系のスキルを一つも持っておらぬではないか!
どうやってここまで来れたのだ!?
いや、それ以前に、ステータスが低すぎるぞ……!?
え、なにこれ、ゴミ?』
お、流石は龍、どうやら鑑定も使えるようじゃ。
ちょっと酷い事言われておるが、これで疑いも晴れるじゃろう。
『……益々怪しいな。
一体どう言うスキルを使って我が覇気を打ち消している!!』
「え?
……こ、根性?」
『ふざけるな! 生身の生命体がこの距離で私の覇気を浴びたなら!
泡を吹きながら訳の分からぬ呻き声を上げ、末期の言葉を吐いた後は意識を失って絶命に至るはずだ。
根性論や精神力ではどうにもならぬ!』
な、なんだかやたら具体的じゃな。
「た、確かに不快感で今にも吐きそうではあるが……」
『フン……あくまで白を切るか……面白い。
ならば。
貴様の精神にアクセスして正体を暴いてやるぞ!』
精神にあくせす、じゃと?
いくらなんでも、それは駄目じゃろう!
「そこまでやったら、お主、それはもはや戦争じゃあないか!!」
『そうだ、これは戦争だ!
貴様が嘘を吐いていなければ、半殺しで勘弁してやろう。
ただし、嘘を吐いていたなら……』
龍は口を開けると、轟々と燃え盛る火球を作り出し―――
―――それを力いっぱい噛み砕いて見せた。
『……こうしてくれるぞ……』
「お、おおお……」
火球で焼かれるのか、噛み砕かれるのか、どっちを指しておるんじゃろう。
次の瞬間、私の脳内に違和感が生じる。
ぐぬぬ、これが精神へのあくせすという奴か。
むむ……なんだか、ちょっと、気持ち良い。
私が一人で天国状態になっていると。
何やら龍の様子がおかしい。
いや、ちょっとは予想しておったが。
『がぼば……! ちょ、これは反則べべべb』
泡を吹きながら訳の分からぬ呻き声を上げ。
『ば……馬鹿なあぁぁぁああ!! お、おのれえええぇぇ……に、人間にィぃ!
ニんゲンぞク ゴト キ ……二ィ位ィィ胃イイイッッッ!!』
末期の言葉を吐いて。
龍はそのまま白目を剥いて意識を失い、ずずん、と後ろ向きに倒れた。
「……ん?
此奴、私の今感じている不快感を味わっただけじゃよな?」
つまり、私が生身で感じている覇気の不快感を、この龍は体験したのじゃ。
こうなる事を多少は予想したから、その後憤慨した龍が戦いを仕掛けると踏んでさっきの様な事を言ったのじゃが……。
「いくらなんでもこんな不快感程度で意識を失うなんて精神力が弱過ぎるじゃろ……………し、死んでる!」
死んでおった。
あんましウケないのは分かってても、こういうテンドンが個人的にとても好き