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豚公爵と猛毒姫  作者: NiO
拉致編
55/205

第54毒 猛毒姫、後ずさりする

シリアスが続くなあ

#########################

ブックマークが30になりました。

読んで頂き嬉しいです。


「読者が増えるよ!」

「やったね!NiOちゃん!」


(進んで死亡フラグを建築していくスタイル)

***********************************


 前回のあらすじ。


 馬車の中で猫耳娘(敵)と抱き合って震える私。

 というのも、馬車の外には世にも恐ろしい怪物・ぶぎーまん(味方)が迫っていたからじゃ。


***********************************


 さて、怪物ぶぎーまん……と言うかオーダーであるが、攫った犯人たちには勿論、声も上げずに拉致された私にも相当ぶちぎれておるようじゃ。


 ギャリィ! ギャリィ!


 おそらく地面を凍らせ、そこをすけーとの様に滑りながら馬車に近づいているオーダーのぎゃりぎゃり音はもはやかなり近い場所まで来ていた。


 すなわち、彼女の縄張り(テリトリー)である、52mより内側にまで。


「……大瀑布(キャタラクト)


 風に乗って聞いた事のない呪文が聞こえた。

 恐らく超高れべるの水魔法だとは思うのじゃが。

 


「うおおおおおおおおお!!」


 馬を操る長身ぽにーてーるが驚きの声を上げる。

 私が馬車から前方を見ると。

 圧倒的質量の水が前方に展開されていた。


「……氷河期(アイスエイジ)


 またも初めて聞く魔法が聞こえる。

 オーダーによる超高れべる魔法のばーげんせーるである。


 先ほどの魔法、『大瀑布(キャタラクト)』で出現した水分が、全て氷結し、馬車を止める巨大な壁となって立ちはだかった。


駄猫(だびょう)! 出番です、頼みましたよ!!」


 馬車の中で震えている猫耳娘に長身ぽにーてーるが厳しく声を掛ける。

 いやいや、此奴はすっかり脅えてきっておるぞ。

 ……などと思いながら振り返ると、さっきまで抱き合っていたはずの猫耳娘がおらぬ。


「ニャー!!」


 馬車の上から声が聞こえる。

 いつの間に……と思う間も無く、屋根から激しい轟音が聞こえた。

 馬車の前の窓硝子を見ると、屋根からじゃんぷした猫耳娘が、排球(ばれーぼーる)攻撃(あたっく)をするような姿勢で氷の壁に向かって飛びかかっていた。


 つまり、所謂、猫ぱんち。


「にゃ!!」




 どごおおおおおおおおおおおおおおおおお!




 「え、嘘じゃろ」


 そして、まさかそんな猫ぱんちで。

 圧倒的質量を誇る氷の壁が爆発四散するとは。


 しかし、オーダーにはそれも想定内だったのじゃろう。

 例のぎゃりぎゃり音は更に近づいてきている。


 猫耳娘は再度馬車の中に戻ると、馬車の中で茫然とする私を長身ぽにーてーるに預け、自分は馬車の後方に向かって戦闘の構えを取った。

 どうやら覚悟を決めた様じゃ。


「馬車後方、熱魔法魔法陣、最大展開!!」


 長身ぽにーてーるが馬を操りながら後方の馬車の壁に手を向けると。


「うっ、熱いにゃ」


 馬車の後ろの壁が、高熱を持ち始めた。

 いや、正確には馬車の後方の、外側の壁が熱を持っておるのじゃろう。


 熱魔法魔法陣とは、要は焜炉(こんろ)に使われる魔法陣である。

 それを最大出力可能な状態で馬車に積んでおるのか。

 おそらく野生動物避けのための魔法陣ではあるが。

 さて、オーダーがこれをどうやって突破するのか見物であるな……などと達観している自分が間違いであったと気づくのは数秒後。



 ばき、めきめきめき……!



「にゃっ!?」


 何の捻りも無く。

 オーダーは直接後方の壁を拳で打ち抜き、破壊したのであった。

 さらにその壁穴に両手を差し入れると。

 めりめりとその穴を拡張し人が入れるくらいの隙間を作り上げた。

 その間も熱魔法魔法陣は作動しており、じゅうじゅうと(オーダー)の焼ける良い匂いがあたりを立ち込める。

 ぬっと現れたオーダーの両手には大量の水ぶくれがあり、手の皮は剥げて、手指のいくつかは完全に真っ黒に焦げておる……ちょっと待て、あれ、治るのか?

 オーダーは、辺りを少しだけ見渡すと、運転席にいる私に気付かなかったらしく、猫耳娘に対して話しかける。


「そこの猫耳。……ボツリヌス様は、何処だ?」


 覚悟を決めたはずの猫耳娘も、こちらを向いて泣きそうな顔で『いやいや』をしている。

 オーダーの目を見ると。

 そこにあるのは、いつもの優しいオーダーの目ではない。

 というか彼奴、今まで見たことのない表情をしておる。


 ……恐らくそれは、以前コックが話していた、私と出会う前の、昔のオーダーなのかもしれぬ。

 世界の全てに絶望したような無表情な顔。

 此奴は私と会う前は、こんな酷い顔だったのか。


「にゃ、にゃーああああああ!」


 破れかぶれにとびかかった猫耳娘は、その圧倒的な馬鹿力で、オーダーの右腕を引き千切ることに成功した。


「や、やったにゃ!?」


 そして、それもオーダーは見越していたらしい。


絶対零度(アブソリュート・ゼロ)


「に゛ゃ」


 オーダーは残った左手で、かうんたー気味に猫耳娘に魔法を唱えると。


 次の瞬間、猫耳娘と馬車が、全部凍った。


 辛うじて御者の席はその脅威から免れた物の、氷によって馬車ごと地面に縫い付けられたため馬はそれより先に進めずにたたらを踏んだ。


「……まさか、使用人一人にここまで邪魔されるとは思いませんでした。

 捨て身の人間の恐ろしさってものですかね」


 長身ぽにーてーるは苦笑して馬車を降り、オーダーへ向き直った。

 成程、確かにオーダーと猫耳娘が真正面から戦ったら、恐らく猫耳娘の方に軍配が上がったじゃろう。

 オーダーが捨て身だったから猫耳娘に勝てたと、そう言いたいのじゃ。


 オーダーは長身ぽにーてーるの横にいる私に気づいたようである。

 世界の全てを呪うような表情はいつもの彼女のそれに戻り。

 私に向かって笑顔を向けると、千切られなかった左手を此方へ差し出した。


 けれども私はオーダーの普段とのあまりの違いに、思わず一歩引いてしまった。


「あっ」


 しまったと思うも時は既に遅く、オーダーはそんな私を見て。


 信じられない程傷ついた顔をした後、苦笑いをして私から視線を外した。



「さて。ボツリヌス様を返してもらいましょうか。

 この凍った猫を破壊されたくないでしょう?」


「そうですね。

 私はどうでも良いのですが、我が主人の戦力としての彼女は捨て難いですし。

 ……ところで、猫はすっかり氷漬けですけど、まだ手遅れじゃないですよね」


「自然に溶けるのを待っていれば大丈夫でしょう。

 人間だと3人に1人はそれでOKでした。

 生命力の強い獣人だし行けると思いますよ」


 え、人間だと3人に2人は駄目なのか、それって相当駄目なんじゃないか。

 しゅれでぃんがーの猫耳娘じゃないか。

 私はそんなことを思っていたが、長身ぽにーてーるは『成程、じゃあ大丈夫でしょう』と頷き、私を開放した。


 長身ぽにーてーるは辛辣ではあるが、なんだかんだで猫耳娘を信頼しておるのかもしれぬ。

************************************


「さあ、帰りましょう、ボツリヌス様」


 オーダーはそう言って背中を向ける。 



「う、うむ」


 オーダーの後を追ってぺたぺたと歩く。

 そして歩きながら現状を整理した。


 私は、オーダーは何でも出来る凄い奴だと思っておった。

 いつも余裕じゃし、笑顔じゃし、私の失敗にやれやれするやれやれ系女子じゃし。


 しかし違った。


 本当の彼女は、私がいなくなっただけで世界に絶望するような、か弱い少女だったのじゃ。


 勿論、私に依存するだけで良いはずは無く、今後どうにかしていかなくてはならぬじゃろう。

 しかし、私以外との人間関係など、もう少し軟着陸(そふとらんでぃんぐ)しないと、心がばらばらに壊れてしまう程に危うい。


 これは私がなんとかしないとのう……。


 当初は拉致された先で幸せを掴むつもりであった私であったが、此奴の事を考えるとどうやらそれは無理そうじゃ。

 まあ、仕方あるまい、他ならぬオーダーのためじゃしのう。


 ……む?


「オーダーよ、なんでこっちを向いてくれぬのじゃ。

 なんでそんなに離れておる」



「え? いやあ、あはは。



 ……私、怖いでしょ?」



 オーダーはぽりぽりと頭を掻いて答える。

 今にも泣きそうな声じゃった。


 ……さっきの後ずさりが相当効いたようじゃ、これは反省じゃな……。


「すまん、いつものオーダーと違ってびっくりしただけじゃ。

 オーダーは怖いが、いつも通りの怖さじゃよ?


……来てくれて有難うの」


 私は火傷でぼろぼろになったオーダーの左腕を躊躇なく握りながら答えると。


 彼女は私の手の感触に驚いた後、鼻をずびっとすする。


「いつも通りの怖さってなんですか。

 全く……捻じ切りますよ」


 そして、おっかなびっくりではあるが。


 私の手を握り返したのであった。

ヤンデレ……

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