第51毒 猛毒姫、ゲザリストになる。
シリアス回ですよ。
「皆に、話したいことがあるんじゃ」
本日は親しいめいど達を集めて秘密会議をしておる。
「例の演劇のせいで、トキシン家は周囲から相当批判を食らっていると思われる」
例の演劇とは、『王様と貴族令嬢』。
出演する悪役の侯爵はトキシン家と全く関わりの無い名前になってはいるものの、当然裏情報はどこからか漏れる物である。
今ではトキシン侯爵は5歳の娘を餓死させようとした血も涙も無い貴族として一躍有名人となっておる。
娘の私も鼻が高い限りじゃ。
皮肉。
「ざまあないですね」
オーダーが満面の笑みを浮かべる。
「いくら罰とは言え5歳児に長期間の絶飲食を強要したんですからね。
批判されるのは自業自得じゃないですか」
ハンドが鼻で笑う。
「まあ、9割以上は私のせいだが……」
テーラーが自虐的に笑う。
「あわわわ……」
マーはそんなテーラーを慰めている。
「……、それで、要件はなんだ」
コックがにひるに結論を要求する。
「トキシン家としては私が邪魔で今すぐいなくなって欲しいところじゃろう。
……が、王からの命令で、公に売り飛ばしたりとかこの年齢で政略結婚とかはさせられなくなった。
さて、どうするじゃろうか」
「……物理的に、消す、か」
「その通りじゃコックよ。
この前、どうやら三男と次女に魔法の練習に乗じて私を消すように話が行ったと思われる」
「成程、そう言う事だったんですね」
オーダーがこの前の事を思い出しながら納得する。
「自分の子供に自分の子供を……信じられない」
ハンドが驚いたように呟く。
「返り討ちにあってちゃあ世話無いな」
テーラーが呆れて声を上げる。
「あわわわ!」
マーは怒っている。
「それが失敗したっつーことは、次はどうなるんだろうな」
コックの理解が早すぎてやばい。
「不慮の事故が無理なら、多分次は誘拐かと私は踏んでおる」
「……!!」
「……!!」
「……!!」
「……!!」
「……!!」
「わ……っ!!」
「きゃ……っ!!」
全員が息を飲ん……。
「……ちょっと待て、お前ら何で此処に居る」
大事な会議に異物が2人程紛れ込んできおった。
2人はぺこりと頭を下げて謝罪する。
「あ、えーっと、こ、この前の事が謝りたくて……ごめんなさい!」
「聖女様、私からも、ごめんなさい!」
「いや、もうそれは良い……」
わーきゃー兄妹が謝るが、親からの命令なのじゃから断れまい、仕様が無かろう。
「それより、何でわざわざこんなところに来たのじゃ……」
そんな事で来た訳ではないじゃろう……多分。
三男はなんか顔を赤くして、体調が悪そうじゃしのう。
「そ、そうだ! 今日お父様と大兄様がお部屋でコソコソ話をしていたんだよ!」
「『ボツリヌスを例の公爵に誘拐させる、私達はその手助けする』って言ってた!」
2人は興奮したように告げ口してくれた。
……子供が誘拐されるのを助ける親か。
斬新過ぎて眩暈がするぞ。
「……それで、されるがままで終わるつもりは無いんだろ、ボツリヌス様」
だからこそ俺らを集めたんだろう、と細まっちょのコックが力こぶを作る。
いけめんじゃ。
オーダーは筋肉を見て少しぽーっとなっておる。
「いや、されるがままで終わるつもりじゃよ」
「は?」
私はコックの言葉を否定した。
「此処に居ても命の危険と隣り合わせじゃしのう。
何処かに住処を移したいと思っておった。
便乗する形ではあるが、拉致られてそこで暮らしても良いかと思っておる」
「な……! そ、そんな!!」
ハンドは声を上げる。
しかしまともな反論は返せないじゃろう。
私にとってこの侯爵家は、それ程危険な場所になってしまったのじゃ。
「という訳で私が皆を呼んだのは他でもない。
例え私が誘拐されたとしても、探しに行ったり、めいどの仕事を辞めたりしないで欲しくての」
ここにいる面子は有難い事に私にそれなりの好意を持ってくれているらしい。
私が攫われたとなると、辞表を叩きつけて探しに出そうな者も何人かおる。
私としては誘拐されてもなんら問題ないので、間違ってもそんな選択をしないで欲しいと言うお願いをしたかったのじゃ。
「え、う……う……ん」
「わかったー!」
双子は驚いた様な顔をしながらではあるが、頷く。
その真面目な顔付きからは、以前の様な軽い約束をしている印象は微塵も受けない。
前回の『指切りげんまん騒動』で2人ともいろいろ学んだんじゃろう。
良い事じゃ。
ただ、お主達に言った訳じゃ無いんじゃがの。
「そ、そんな、拉致なんて……」
ハンドはおろおろしているが、結論を出せずにいる。
他の皆も同じな様じゃ。
どうにも皆を上手に説得出来ない自分に少し驚く。
今まではこんな事は無かったのにのう……。
皆には笑顔でいて欲しい。
私のために人生を狂わせて欲しくない。
私が、皆の不幸を望まない。
……そうか、これは、私の我儘、じゃったのか。
私は自然に床に正座をする。
「こんな、格好で失礼する。
お主達を私の為に路頭に迷わせたくないのじゃ。
どうか、私の我儘を、聞いてほしい」
私は頭を床にこすり付けた。
「ちょ……! 大聖女様、お顔をお上げ下さい!!」
ハンドの静止も無視してしばらくそのポーズで固まっていると。
「……ああ、畜生……。
ボツリヌス様、俺達のためにそう言う事は止めてくれ!
分かった、分かったから!!」
コックが渋々了解し。
……次いでテーラー、ハンド、……最後にマーが了承してくれた。
皆、自分の力が足りない事を悔しがるかのような声を上げて、誰からともなく部屋から出て行った。
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「……ふぅ、これで大方は、片付いたかの」
私はこすり付けていた頭を上げると、ほっと一安心する。
「ボツリヌス様にあそこまで言われたら、流石に納得するしかないでしょう」
オーダーが苦笑しながら受け答える。
「まあ、そうなんじゃがな。
……納得してくれなさそうなのが、若干1名残っておるようじゃの」
「あら、そんな不敬なメイドがいるなんて」
私はため息を吐く。
部屋に残った若干1名の不敬なメイド……オーダーは、たった一人、私のお願いを了承してくれなかった。
そろそろジャンルがコメディじゃ無くなってくるんだけど……