第50毒 猛毒姫、もちつかない
50話突破&10万字突破!
年が明けて数日が過ぎた。
ちなみにこの世界にも正月はある。
凧揚げや独楽回しもある。
恐らく以前の転生者が内政ちーとでもしたんじゃろう。
と言う訳で。
「よし、オーダーよ、庭で餅つきをするぞ!」
「もちついてください、ボツリヌス様」
「う、うむ、落ち着いたぞ……じゃなくて餅つくのか。
じゃから、一緒に餅つきをやろうと言うに!」
私は餅米の袋をオーダーの前に置き、杵と臼を引き摺りながらぴょんぴょん跳ねる。
「私は、聖地を死守しなくてはなりません。
おやすみなさい」
オーダーはすっかり炬燵被りになっておった。
お炬燵は聖地じゃないぞ、オーダーよ……。
「お主がそんなんじゃから、外に誘っているんじゃあないか!ほら、立つのじゃ!」
「えー……餅なんてつかなくても良いじゃないですか。
そんな事をせずとも、素材そのままの味が一番良いんです」
オーダーは「まさに至高」などと言いながら、生の餅米をぼりぼり食べ始めた。
この氷使いはどうしても外に出たくないらしい……。
「ボツリヌス様も前はあんなに引き籠っていたのに……」
「あれはやることがあったから引き籠っていただけじゃ」
「私はやることがないけど引き籠もってます‼︎」
「え? お、おう、そうじゃな。
…何で自信満々に言っておるのじゃ?」
2人でぎゃーぎゃーやっておると、控えめに扉を叩く音が聞こえた。
「せ……聖女様……」
「こ……こんにちは……」
おや、久しぶりの兄妹登場か。
ここ最近離れには来なくなったので風邪でも引いたと思ったが、壮健な様で何よりじゃ。
「おお、2人ともよく来たのう!
いつもみたいに魔法を見せてくれるのか?
それとも1月でもあるし、餅でもつくかの?」
……む?
2人の元気が無いのう。
「えーっと、聖女様、今日はね?」
「私たちと、魔法で勝負しない?」
2人が遠慮がちに提案をすると、それに一番反応を示したのはオーダーじゃった。
「シガテラ様、ダイオキシン様!
ボツ……聖女様は、魔力がほとんどありません。
魔法の勝負なんてしたら、死んでしまいますよ!!」
「え、えーっと……」
「う、うううー」
本気で怒る大人を前に、2人は涙目で萎縮している……が、前言を撤回する様子は無い。
「……魔法で、勝負か。
……そうか。
良いぞ、勝負、しようじゃあないか」
「!! ボツリヌス様!?」
私のその答えに、兄妹はほっとしたような、そして悲しむような表情を見せておる。
……そうか。
ついに、この日が来たか。
*******************************************
私たちはいつもの裏庭に移動する。
「おや、オーダーも来てくれたのかの」
あれだけ外に出るのを嫌がっていたオーダーであったが、兄妹を警戒しながら私の後ろを付いてきてくれている。
「ボツリヌス様、一体何が分かっているんですか?
私には分かりません……お二人は一体何を考えているんですか……?」
「……もう少し魔法学者をやっていたかったが、年貢の納め時も近いようじゃ」
「それはどういう……」
「大丈夫、私は死なんよ。
少なくとも、此奴等兄妹には負ける気はない」
私は2人に向き直ると声を上げる。
「勝負は1対1、使うのは魔法のみ、オーダーの合図で試合開始。
意識を失うか負けを認めたら試合終了じゃ。
問題は無いかの?」
「うん、良いよ」
「それで良いわ」
私の前にはシガテラが立ちはだかる。
青い髪を靡かせた彫りの深い美少年の瞳には、躊躇の念がありありと見て取れた。
……やはり、優しい子なのじゃな。
「……時に、シガテラよ。
私が何故『大聖女』などと呼ばれているか、分かるかの?」
「……え?」
「それはな……
強 ぇ か ら よ」
私は胸を張り、右手を前に掲げると、手を鉤爪の様にしていつもの恰好良い姿勢を取る。
「違いますよー」
後ろでオーダーがぼそりと突っ込むが気にしない。
私の一言にぽかんとしていたシガテラであったが、次第にその目には強い好奇心が滲み出てきた。
うむ。
わーきゃー兄妹にはその目が良く似合う。
私を殺すように命令されて消沈する様な目は似合わない。
「それでは……試合、始め!!」
「m……」
「遅いぞ小童、『漂流者達』!!」
そして……残念じゃったの。
例え魔力総量が10桁あろうとも。
詠唱短縮も出来ぬ者に負ける私ではないぞ。
「わわわ!?
えええ!?
ぎやあああ!!」
①足元に凹凸の土を作り出し激しくバランスを崩させる。(土操 魔力消費1)
②同時に顔面に水をぶち当てて思いっきり後方に転ばせる。(水玉 魔力消費1+水操 魔力消費1)
③更に風で巻き上げて体を半回転させる。(風操 魔力消費4)
以上を魔法並列で同時に行うのが私の考え出した魔法、漂流者達、消費魔力は7。
これを喰らった相手の一連の動きは、まるでばななの皮に滑る笑劇でも見ているかのようになる。
以前ブコツをぶっ倒した時には滑って転んだ先に固い土を作って失神昏倒させたのじゃが、流石にお子様相手にそれは可哀想じゃ。
私は走り寄るとシガテラを抱きしめて転倒するのを防いだ。
よし、何とか間に合ったのう。
右手を彼の後頭部に、左手を彼の腰に回して、私が前傾姿勢で密着するような状態になっておる。
ふむ、やたら顔が近いせいか、シガテラの顔が真っ赤じゃ。
「……さてと。
私の勝ち、と言うことで良いかの?」
「え、う、うん……」
私が笑顔を見せると、シガテラの目が思いっきり泳いでおる。
ちょっと面白い。
私はシガテラを抱き起して勝利の姿勢を取る……が、待てど暮らせどオーダーからの勝者宣告が来ない。
……後ろを見ると、オーダーとダイオキシンは、此方を見ながら手を取り合って何故かきゃーきゃー大喜びしてた。
なんじゃお前ら、姉妹か。
10万字ブーストって本当にあるのか確かめてやるぜ




