第47毒 閑話 豚公爵、猛毒姫を知る
2人めの主人公、やっと登場
「聖女よ、従者よ。
5日間の絶食の刑を持ち、貴様達のその罪を赦そうぞ!!」
舞台の上で王の衣装を身に纏った二枚目の劇団員が声を上げる。
「「「「「おおお! ストリー王! ストリー王!!」」」」」
周囲のメイドの恰好をした劇団員達が王を称え、そのまま幕が落ちた。
ぱん、ぱん、ぱん。
幕が落ちた静寂の後、一人分の拍手が鳴り響く。
舞台から客席に目をやると、手を叩いているのは観客の中で唯一椅子に座っている、豚の様な体に豚の様な顔を持つ、何故か下半身裸の醜悪な男であった。
彼の足元では、首輪を付けた全裸の女性2人が悲嘆にくれながら、そこにある物を必死で舐め続けていた。
……劇場であることから、多分ポップコーンか何かを舐めているのだと思われる。
なんという醜悪。
なんという絵に描いた悪党。
男の名は、セルライト・ピッグテヰル。
そう、彼こそがこの物語のもう一人の主人公である、豚公爵その人であった。
「ぶひょ、ぶひょ、ぶひょ。
す、素晴らしい話ではないか!
お、お前は、ど、どう思う?」
豚公爵は両脇に立つ従者の一人に話し掛ける。
「どうもこうも、全然面白くないにゃ!
『令嬢獄死エンド』か『従者一族郎党皆殺しエンド』以外は認めないにゃ!!」
豚公爵の左手に立つ猫の獣人が不服そうに目を『><』にして物語の感想を言う。
「シャーデンフロイデ、侯爵様は、貴女には聞いていません」
公爵の右手に立つ従者が猫の獣人を窘め、そして続ける。
「私見で宜しければ、公爵様」
「良い、も、申してみよ」
「では。
このお話はトキシン領で起こった事をモチーフにしていると聞いておりますが。
いくら『紅い稲妻』と名高いストリー王でも、辺境に近いトキシン領へ5日で到着出来るはずがありません。
更に従者に至っては、一族郎党から死罪同意の血判状を集めることが5日で出来るとはとても考えられません」
従者は一度話を切り公爵に視線を向けると、更に話を続けた。
「そして、演劇では14歳の設定になっておりますが。
5歳である貴族の少女が5日も絶飲食に耐えたと言うのも信じ難い話です。
なので私の考えから申し上げますと……これは、ガセ、でしょうな」
従者の至極真っ当な結論に、豚公爵が笑って。
……そして、否定した。
「そ、そうではない。そうではないぞ、バトラーよ!
こんなトキシン侯爵をコケにした話がトキシン侯爵家から出るということは、こ、これはもはや事実を基にした物語以外ありえないのだ!
であるならば、か、考えられるのは2つ。
1つ、従者が特殊能力で5日で一族郎党の家を回り、血判状を作り上げ。
しかもたまたまストリー王がトキシン侯爵家の近くにいたか。
2つ、トキシン家の令嬢が特殊な能力で数日間の絶飲食を耐えきったか。
そして、可能性として高いのは、も、勿論、2つ目である」
「恐れながら公爵様、私もそれは考えましたが……それでは5日という時間では余りに短すぎます。
妥当な期間は、どの位でしょうか」
「そ、そうだな。
む、難しいところではあるが、2週間程度が妥当か。
その間も絶飲食ではなく、メイド達からこっそり食事を貰っていたのかもしれん」
「しかし、侯爵様。
もともとトキシン家令嬢は屋敷のメイド達に無視されて生活していたと話を伺っております。
自分の命を顧みず、彼女に食事を与える程の忠誠心を持った者はいなかったかと。
しかも、彼女の魔力量は10しかありません。
魔法でどうこうすることも出来なかったでしょう」
「そうだ、そうだ、そうなのだよ!
令嬢は、外からの力も内からの力も使わず、しかし間違いなく何かをしたのだ!
それがなんなのか、さ、さっぱり理解が出来ない!
一体、何が起こったんだ?
どうやって令嬢は生き残ることが出来たのだ!!
完全に理解の、ら、埒外の存在なんだよ!!
……うっ……!」
公爵がまるで達したかの様に呻くと、何故か足元にいる全裸の女性達が咽こんだ。
一体、何故だろう。
「成程……それでは、もう少しトキシン家へ探りを入れてみましょう」
「い、いや。
その必要はない。
もっと簡単な方法があるだろう」
豚公爵は、残飯を見つけた豚の様に顔いっぱいに大きな笑みを浮かべて、ぼそりと呟いた。
「……攫え」
「「御意」」
第二部 監禁編 終了。
次回、キャラクターまとめとか作った後に、第三部 拉致編 予定。