第43毒 猛毒姫、提示される
思わず頭を抱えた私に対して、ハンドが心配そうに話しかけた。
「どうかしましたか、大聖女様」
「どうかしておるのはお前じゃ、ハンドよ。
『大聖女』の読み方が確実におかしいじゃろ。」
「ああ、そういえば、大聖女様には説明がまだでしたね。
先日、屋敷のメイド達に、大聖女様のお考えをお伝えしました。
『聖女と言う名は皇国の皇女であるフヨウ様の物である。
大聖女と呼んでくれるのは有難いが、皇女を馬鹿にするとも取られない二つ名であり。
そう呼んだ従者達が罰を受ける可能性を考えると、その名前を許容する事は出来ない。
どうかその名前で呼ぶのは止めて頂きたい』……と」
どうやら私は凄く凄いお考えを持っている事になっておった。
何故じゃ。
「そこで私は提案しました。
ボツリヌス様、とお呼びしながらも、心の中で『大聖女様』と唱えながら三跪九叩頭の礼を行えば良いのではないか……と」
ハンドよ……貴様、今までの会話中に脳内で既に何回か三跪九叩頭の礼を行っておったのか。
「しかし、マ……一部の過激なメイド達が、『皇国に罰せられても構わない』などと言い出しまして」
間違いなくマー坊じゃな。
「そこで、3つの妥協案を提示し、無事納得頂く事が出来ました」
「成程。
もうどう考えてもまともな妥協案では無かろうが……聞こうか」
「まず1つ目ですが、大聖女様の閉じ込められた日に因みまして、離れの屋敷では毎月9日を『大聖女様の日』とし、有志は絶食でその日を過ごす事になりました。
大聖女様の偉業を改めて実感する日として良いのではないか、と考えております」
「いきなりぐったりさせられる妥協案が来たのう。
……まあ、ぷち断食みたいなもんじゃし、良いんじゃないかの」
「ちなみに、コックもノリノリでした」
「奴の場合、仕事の手間が省けるからのう」
私はため息を吐く。
……こんな内容が後2つもあるのか……。
「2つ目に、希望者に大聖女様のトレードマークである水玉や縞々のメイド服の配布を行う事になりました」
「勝手にしてくれ……。
……まあ、水玉も縞々も可愛いから良いんじゃないかの」
「ちなみに、コックもノリノリでした」
「彼奴の趣味嗜好など聞いておらん」
「3つ目に、一連の騒動の演劇である『王様と貴族令嬢』を離れでもやって貰うという……」
「え、ちょっと待って、今何て言った?」
え、演劇?
「あー……そういえばボツリヌス様ずっと寝てましたからね……
今回の監禁騒動、演劇になっていろんな国で上演されているんですよ」
オーダーが横から補足する。
「は?」
「ストリー王が積極的に推し進めたみたいですね。
多分、自分の懐の深さを内外に分かり易く伝えるためでしょう。
令嬢を庇う従者、従者を庇う令嬢、そして二人に心を打たれて罪を赦す国王。
各国でかなり評判が良いみたいです」
……裸王め!
大々的な世論操作をぶちかましおってからに!!
「大聖女様の素晴らしさを再度理解するため、劇団を呼んで離れで演じてもらう事が決定しました」
「……ああ……良いんじゃないか……もう、どうでも……」
「ちなみに、コックもノリノリでした」
「……彼奴は娯楽に関して尻軽すぎるぞ」
それにしてもあのコック、のりのりである……。
……まあ良いか。
正直、私が主人公の演劇と言うのも、見てみたいしのう。
どの程度まで現実的に再現されているのかしらん。
……私の排便状態、とかの。
リアルは忙しいんです。本当です。