第42毒 猛毒姫、「猛毒姫には勝てなかったよ…」をされる
「テーラーよ、お互いお咎めが無くて良かったのう」
「……」
聞こえているはずじゃが、無視を続けるテーラー。
「テーラー、お前は恰好良いのう。
私がお前の立場じゃったら。
せいぜい布団で震えて、私が早く死ぬ事を祈るくらいしかできんかったじゃろう」
「……!!」
テーラーは驚いたように此方を向いた。
うむ。
分かっておる。
お主だって、少しはそんな事を考えたはずじゃ。
当たり前のことじゃし、攻めはせんよ。
「だが、そうはしなかった。
……貴様がここで働いているのは家族の為であると知っておる。
尊敬する父親がおられるそうじゃないか。
可愛い妹もおるそうじゃないか。
以前、オーダーから聞いたぞ。
……辛かったじゃろ」
「……」
くくく、目の端に涙が貯まってきておるぞ。
「家族だけではない。
方々の親族へも土下座をして回ったんじゃろう。
『死んでくれ』と頼むために。
その親族、皆が理解のある者であったはずが無い。
……結婚したばかりの家庭もあったじゃろう。
……子供が生まれたばかりの家庭もあったじゃろう」
「…………」
お、上を向いて耐えておるな。
そうじゃ、乾かせ、乾かせ。
無駄じゃがな、ぬふふ。
「うっ、ぐずっ……」
っちょ。
あと一押しと言うところで、オーダーが先に泣き出した……。
まあ良い。
「あの血判状は、文字通り貴様ら一族郎党の……
そして貴様の血を絞って書かれた物だったんじゃな。
テーラーよ、私を救ってくれて、本当に有難う」
私が、ぺこり、と頭を下げると、奴の涙腺が決壊した。
「ちっ……毒舌娘……お前、無理矢理泣かせにかかったな……」
泣きながら、笑っておる。
ばれたか。
私も思わず呵々大笑をした。
どうじゃ、やっぱりボツリヌス様には勝てなかったじゃろう。
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あの後、テーラーからは「お前の事は相変わらず大嫌いだが、命を助けられたから感謝はしている」と礼になっていない様な礼をされた。
「やはりテーラーはあのくらい生意気な方が楽しくて良いのう。
照れるのもそろそろか」
「いえ、あいつ、ボツリヌス様にはあんな風に言っていますが。
他の人達には『一族の命を助けてもらったから自分も命を懸けてお守りする』とか何とか言ってましたよ。
単純に照れ臭いんでしょう」
なんと、既に照れておったか。
そんな事を話していると、廊下の向こうからめいど長のハンドがやってきおった。
「そういえば聖女呼びをどうにかする件は、どうなったんじゃろう」
「一応、話は通しておきましたよ。
『大聖女様立ってのお願いですね、お任せ下さい!』とか意気込んでいましたけど」
なんか、その台詞だけで、もう結果が見えておるのじゃが……。
一縷の望みを掛けながら、ハンドに声をかける。
「今日も良い天気じゃの、ハンドよ」
「そうですね、大聖女様」
あ、やっぱり駄目そうじゃ。
『大聖女』に変な読み方が振られておる。
リアルが忙しすぎるのに…!
こんなの書いてる場合じゃないのに……!!
次は本当に1週間後です!