第4毒 猛毒姫、祝われる
今日も引きこもって本を読んで過ごしておる。
読んでいる本は過去の超文明が残した『宝残骸』についてじゃった。
この世界にはその昔、超文明が存在したが、何が引き金になったかある日を境にその文明を支える人民が全員その姿を消したとのいうものじゃった。
彼らの作った文明の利器は、多くはなくなっていったものの、その中のいくつかは今現在でも使用されているものもあるらしく、それらをまとめて『宝残骸』と言うらしい。
たとえばどんな難しい計算でも一瞬で答えを出してしまう箱であるとか、2対1組で遠くの声も届けてしまう箱であるとか。
……まあ、電卓とかとらんしーばーとかのことかの。
そんなものをこうも有難がっているとは……。
いや、そうは言っても私だって電卓やとらんしーばーの原理を説明しろと言われても無理であるし、前世の文明は驚くべきものと言ってよかったのかもしれんのう。
本を読みながらふと気づくと既に昼過ぎじゃった。部屋の扉を開けるとそこにはいつもの昼ご飯が置いてあった。
……む?今日はろーすとちきんにかりかりに焼いたぱんに付け合せの野菜たち、しかもでざーとにけーきまであって、何だか豪華じゃのう。
今日は何か特別な日なのかしらん?
鶏肉をもりもり食べながら本日9月9日が何の日か調べてみたが、特に祝日などではない様子である。
たまたまかのう、と思いながらでざーとのけーきを一口食べて……
……今日が自分の誕生日であることを思い出した。
「ぼ……ボツリヌス様!?」
「おお、オーダーよ、久しぶりじゃのう。息災か」
オーダーの部屋を訪ねる。さすがに自分の誕生日を祝ってくれたものに顔を出さないというのは失礼にあたるというものじゃ。
「息災って使う人初めて見ましたよ。まあ息災です。
そんなことよりどうしたんですかボツリヌス様、霍乱ですか!?」
「霍乱って使う人も初めて見たぞ。というか、部屋の外に出るだけで病気扱いされるとは」
私は食膳をオーダーに渡す。
「美味かった。私の誕生日を覚えていてくれたんじゃな。
祝ってくれてありがとう」
「え?今日ってボツリヌス様の誕生日だったんですか?」
こいつじゃなかったようじゃ。
私は今日の食事が普段より豪華であったことをオーダーに話した。
「ははあ。それは多分し……総料理長ですね。あの人は意外とそういったところしっかりしていますから……」
オーダーはなんとコック総料理長の仕業ではないかと言う。
というかオーダーよ、『し……』ってなんじゃ。後々のふらぐか何かか。
というわけでコックにお礼を言うことにした。
「気を遣わせてすまんのう。馳走になった」
「子供が気を使うな。美味しく食べてくれればそれで良いんだ」
奴はにひるな笑顔を浮かべて手を振った。いけめんじゃ。
そうじゃ、一つ思いついたぞ。
「コックよ、昼飯はまだか?お礼に私も何か作りたいのだが」
「え?ボツリヌス様が直々にかい?……まあ良いが」
私は冷蔵庫を開け、明太子とぱすたの麺を取り出す。
「ボツリヌス様……それは……」
「まあ、良いじゃねえかオーダー。部屋から出て飯を作ってくれるなんて大した進歩だぜ」
二人は私が下手物料理を作るものだと思っている。
やはり、この世界に『あれ』は無いのじゃろう。
この世界は和・洋・中を含め、前世で言うところの世界各国の料理が揃っておるが、実は無い料理もある。
それが、文化魔改造系の料理じゃ。
文化魔改造系と言うのは日本人が得意な異文化のちゃんぽん料理である。
分かり易い物を挙げるならば、例えばかれーうどんであったり、例えば照り焼きちきんぴざであったり、そして。
「よし出来た、明太子ぱすたじゃ。食ってみ」
「うえ……明太子がもったいない」
「ありがとうなボツリヌス様、頂かせてもらうぜ」
コックはためらいも無く明太子ぱすたを啜りこむ。
おろおろしていたオーダーもそれを見て覚悟を決めた様にぱすたを飲み込んだ。
「あれ……?美味しい……」
「な……なががががあがが」
オーダーは明太子とぱすたの意外な結婚に驚きの声を上げた。
料理長の驚きはそれだけに止まらず、驚愕のあまり目を剥いて歯軋り、痙攣、失禁を繰り返した後、らいばるを見る目で私を睨んできた。
……私はお礼のつもりで作ったんじゃがのう……。
まあ、らいばる扱いされるのは良いが、お前、失禁しておるからな。後は片づけておけよ、コックよ。