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豚公爵と猛毒姫  作者: NiO
監禁編
36/205

第36毒 猛毒姫、聖女になる

 ふと。


 目が覚めると自分のべっどの上で眠っておった。

 うむ。

 ここは私の部屋じゃ。

 枕元ではオーダーが疲れて眠っておる。

 風邪を引いた私の、いつもの風景じゃ。

 む、今までの事は夢落ちか?


 むくりと起き上がると、違和感を感じる。


 「なんふぁこれ」


 鼻から管が入っておった。

 先を見ると、なにやら液体が繋がれておる。

 ふむ。

 食事がとれない私のために付けたようじゃの。

 私が管を引き抜いて伸びをすると、オーダーが目を覚ました。


「……お帰りなさい、ボツリヌス様」


「ただいま。

 心配かけたの、オーダーよ」


 二人でひし、と抱き合う。


「あれから、ボツリヌス様は1週間眠り続けたんですよ」


「いっしゅうかん!?」


 私が倒れてからの話をオーダーから聞いた。

 ストリー王と爺やは約束通りトキシン侯爵(ちちおや)と話し合いをし、私やテーラーを決して罰しない……むしろ丁重に扱うことを約束した。

 さらに、私が倒れたと聞いて2日間程館に泊まって様子を見てくれてたが、流石に3日目の朝に帰ったそうじゃ。

 しかし、1週間も目覚めていないとなると……。


「と……ところでオーダーよ……

 例の、『聖女』の呼び名の事であるが」


 まさか、定着しておらんじゃろうな?と続けようとすると、オーダーは笑顔で首を振る。


「ボツリヌス様はそんな事を気にされていたんですか。

 大丈夫ですよ」


 ほ。

 よかった。

 大丈夫か。

 私は胸をなでおろす。


「1週間程度で聖女の二つ名が消えるわけがないじゃないですか」


 全然だいじょばなかった。



「失礼します」


 突然、部屋の外から声掛けがあった。

 のっくの音の後、扉ががちゃりと開く。

 ……めいど長のハンドじゃ。


「……!! 

 大聖女様(・・・・)、お目覚めになられたのですね!」


「悪化してる!?」


「皆さん、何をしているんですか、起きなさい!

 大聖女様がお目覚めですよ!!」


 ハンドが部屋の明かりを灯した。


 ……ぬおおおおぉぉ!?

 全然気づかなかったが、部屋の中で無数のめいど達が雑魚寝しておる!!


「……むにゃ……おおお!大聖女様がお目覚めだ!」


「阿呆、大声を出すな!

 今、真夜中じゃろ?

 みんな、寝たいと思うぞ」


「……我々の為に……大聖女様、有難う御座います!」


「大聖女様!

 大聖女様!!」


「な……なにが、起こっておる」


 周囲でまたもやめいど達による聖女呼掛(こーる)が始まる。

 混乱していると、目を覚ましたマー坊がやってきた。

 ……此奴には、いろいろ世話になったの。

 しっかりお礼を言っておかねば。


「おお、マー坊よ、牢屋の中では世話になったな。

 精神的にとても救われたぞ」


「あわわわ、そんなことはないです、大聖女様!」


 お、普段のマー坊に戻っておる。

 やはり、この前私の願いを完全に拒否したのは、私を助け出すために気分(てんしょん)が一時的に上がっていただけの様じゃ。


「あと、その大聖女というのを止めて貰えんかのう」


絶対に(・・・)いやです(・・・・)!」


「なぜええぇ!?」


 ふと、自分の体を見る。

 ……そういえば、気を失う前までは、屎尿(しにょう)まみれだったはずじゃよな。


「すまぬな……糞まみれの私の体を、洗ってくれたのはマー坊か?」


「あわわ、は、はい!

 いえ、そうですけど、全然嫌じゃないですよ!

 むしろ嬉しかったです」


 嬉しかった?


「いやいや、だって、尿まみれの糞まみれの垢まみれじゃぞ?

 恐ろしく汚かったはずじゃ」


「あわ、い、いえ!

 大聖女様の体に汚い所などありません!

 むしろ、うんこだって綺麗です!!

 食べても大丈夫!!」


「食べても大丈夫!?」


 まさかの食糞愛好家(すかとろじすと)宣言をするマー坊と、周りで頷きあうめいど達。

 オーダーが笑いながら声を掛ける。

 

聖なる糞野郎(ホーリーシット)ですね、ボツリヌス様!」


「ここでまさかの伏線回収!?」


 どう考えてもおかしいぞ、この状況!


 ……はっ、さ、さては!!

 私は大急ぎで自分の技術(すきる)を確認する。



 ##################


 ボツリヌス・トキシン 5歳

 二つ名:聖女・大聖女

 体力:30/30

 魔力:10/10

 スキル:鑑定LV3

     魔法並列LV5

     魔力流量感知LV4

     拷問耐性LV1

     幸運LV1

     カリスマLV1


 ##################


 ……変な能力が増えておった。

 『カリスマLV1』……現在の訳のわからぬ状況は、10中8、9はこいつの仕業じゃろう。


 私が迷いなくかりすま技術(すきる)を消去しようとする。


 ……すると、オーダーが笑顔で私の首にするりと腕を絡めてきて、私にだけ聞こえる声で呟いた。



「……そのスキルを消すなんて、とんでもない……」

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