第36毒 猛毒姫、聖女になる
ふと。
目が覚めると自分のべっどの上で眠っておった。
うむ。
ここは私の部屋じゃ。
枕元ではオーダーが疲れて眠っておる。
風邪を引いた私の、いつもの風景じゃ。
む、今までの事は夢落ちか?
むくりと起き上がると、違和感を感じる。
「なんふぁこれ」
鼻から管が入っておった。
先を見ると、なにやら液体が繋がれておる。
ふむ。
食事がとれない私のために付けたようじゃの。
私が管を引き抜いて伸びをすると、オーダーが目を覚ました。
「……お帰りなさい、ボツリヌス様」
「ただいま。
心配かけたの、オーダーよ」
二人でひし、と抱き合う。
「あれから、ボツリヌス様は1週間眠り続けたんですよ」
「いっしゅうかん!?」
私が倒れてからの話をオーダーから聞いた。
ストリー王と爺やは約束通りトキシン侯爵と話し合いをし、私やテーラーを決して罰しない……むしろ丁重に扱うことを約束した。
さらに、私が倒れたと聞いて2日間程館に泊まって様子を見てくれてたが、流石に3日目の朝に帰ったそうじゃ。
しかし、1週間も目覚めていないとなると……。
「と……ところでオーダーよ……
例の、『聖女』の呼び名の事であるが」
まさか、定着しておらんじゃろうな?と続けようとすると、オーダーは笑顔で首を振る。
「ボツリヌス様はそんな事を気にされていたんですか。
大丈夫ですよ」
ほ。
よかった。
大丈夫か。
私は胸をなでおろす。
「1週間程度で聖女の二つ名が消えるわけがないじゃないですか」
全然だいじょばなかった。
「失礼します」
突然、部屋の外から声掛けがあった。
のっくの音の後、扉ががちゃりと開く。
……めいど長のハンドじゃ。
「……!!
大聖女様、お目覚めになられたのですね!」
「悪化してる!?」
「皆さん、何をしているんですか、起きなさい!
大聖女様がお目覚めですよ!!」
ハンドが部屋の明かりを灯した。
……ぬおおおおぉぉ!?
全然気づかなかったが、部屋の中で無数のめいど達が雑魚寝しておる!!
「……むにゃ……おおお!大聖女様がお目覚めだ!」
「阿呆、大声を出すな!
今、真夜中じゃろ?
みんな、寝たいと思うぞ」
「……我々の為に……大聖女様、有難う御座います!」
「大聖女様!
大聖女様!!」
「な……なにが、起こっておる」
周囲でまたもやめいど達による聖女呼掛が始まる。
混乱していると、目を覚ましたマー坊がやってきた。
……此奴には、いろいろ世話になったの。
しっかりお礼を言っておかねば。
「おお、マー坊よ、牢屋の中では世話になったな。
精神的にとても救われたぞ」
「あわわわ、そんなことはないです、大聖女様!」
お、普段のマー坊に戻っておる。
やはり、この前私の願いを完全に拒否したのは、私を助け出すために気分が一時的に上がっていただけの様じゃ。
「あと、その大聖女というのを止めて貰えんかのう」
「絶対に、いやです!」
「なぜええぇ!?」
ふと、自分の体を見る。
……そういえば、気を失う前までは、屎尿まみれだったはずじゃよな。
「すまぬな……糞まみれの私の体を、洗ってくれたのはマー坊か?」
「あわわ、は、はい!
いえ、そうですけど、全然嫌じゃないですよ!
むしろ嬉しかったです」
嬉しかった?
「いやいや、だって、尿まみれの糞まみれの垢まみれじゃぞ?
恐ろしく汚かったはずじゃ」
「あわ、い、いえ!
大聖女様の体に汚い所などありません!
むしろ、うんこだって綺麗です!!
食べても大丈夫!!」
「食べても大丈夫!?」
まさかの食糞愛好家宣言をするマー坊と、周りで頷きあうめいど達。
オーダーが笑いながら声を掛ける。
「聖なる糞野郎ですね、ボツリヌス様!」
「ここでまさかの伏線回収!?」
どう考えてもおかしいぞ、この状況!
……はっ、さ、さては!!
私は大急ぎで自分の技術を確認する。
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ボツリヌス・トキシン 5歳
二つ名:聖女・大聖女
体力:30/30
魔力:10/10
スキル:鑑定LV3
魔法並列LV5
魔力流量感知LV4
拷問耐性LV1
幸運LV1
カリスマLV1
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……変な能力が増えておった。
『カリスマLV1』……現在の訳のわからぬ状況は、10中8、9はこいつの仕業じゃろう。
私が迷いなくかりすま技術を消去しようとする。
……すると、オーダーが笑顔で私の首にするりと腕を絡めてきて、私にだけ聞こえる声で呟いた。
「……そのスキルを消すなんて、とんでもない……」