第34毒 猛毒姫、泣く
私の20日間断食拷問生活のお陰で、テーラー一族根絶やしの憂き目を絶つことに成功した!
後は全員が笑顔で幕を降ろす終劇へ向かうだけ……のはずだったのじゃが。
おいおい、何故ここでテーラーが出てくる。
まさか、国王から下賜された壺を破壊した犯人じゃと自白するつもりじゃないじゃろうな。
じゃとしたら、私の頑張りが全部無に帰すぞ。
やめて下さいお願いします。
「恐れながら国王陛下、どうか私の話をお聞き遊ばされます様、平にお願い申し上げます」
此奴、やはり自白するつもりじゃ!
「貴様、国王陛下の御前じゃぞ!
誰か、この阿呆を抓み出せ!」
私はテーラーをどこかへやる様に他のめいど達に命令を出すが、皆、微動だにせぬ。
「許そう、申してみるが良い」
んぐっ。
何かを感じ取ったのか国王が許可を出しおった。
国王陛下、こんなところで柔軟にならなくとも良いのに!
……いや、まだ分からぬぞ。
『ボツリヌス・トキシンはクズです!』などの更なる追い討ちの可能性もある!
「それでは、告白させていただきます。
王家より賜りし宝壺を割ってしまったのは、私に御座います!」
あああ。
言いよった。
此奴。
私の頑張りが。
全部全部ぜーんぶ。
台無しじゃ。
国王の怒り具合から、テーラーの一族を皆殺しにする可能性すら存在するというのに……。
私は思わずへたり込んで俯いていた。
「う……うぐぐぐぐうううぅぅ」
自分が頑張ったことを、最後の最後で引っくり返された。
悔しくて涙が止まらぬ。
ぼろぼろ泣きながら、私にしては珍しく感情を露わにしておることに、頭の中の冷静な部分で驚いておった。
「……何故今頃になって告白した」
「はっ……我が一族郎党より、許可を頂くために奔走させて頂きました」
「こ、これは……」
王が言葉を失っておる。
私が顔を上げると、テーラーが翳す紙を見て驚いておる様じゃ。
その紙には、此奴の家族、親戚の名前と捺印があり。
……その全員が、王命による死に同意していた。
おいおい、本当かよテーラー一族、全員狂戦士か。
……おっ、これには国王も心を揺るがされておるぞ。
家臣一族が貴族の為にその身を投げうつ。
成程、こう言うのが好きなのじゃな、ストリー国王よ。
私も彼に向けて叫ぶ。
「恐れながら国王陛下、此奴は何の関係もありませぬ!
罪はどうか私、一人に!」
逆に家臣一族の為に貴族がその身を投げうつ。
どうじゃ、こう言うのも、好物じゃろ?
思った通り、国王は困惑した顔で私とテーラー、そしてお付の爺やの間で視線を行き来しておる。
やがて、国王は観念したように大きく息を吐くと、離れの屋敷全体に響くような大声で声を上げた。
「くそ、分かった、良かろう!
特別に、貴様らを赦そうではないか!!」
「やったーーー!!」
思わず万歳して快哉を挙げる。
が、喜んでいるのは私一人で、牢屋内の他の従業員の面々は神妙な顔で王の更なるお言葉を待っていた。
「……ごほん、失礼」
私は座りなおした。
「国王陛下はこういっておられます。
『貴方方二人は過ちを犯した。
そちらのメイドは王家から下賜された壺を割ったこと。
ボツリヌス・トキシン様は彼を庇うため、王家へ偽証を働いたこと。
どちらも最悪死罪に値するものであるが。
どちらもお互いを思いあうという主従の堅い絆が生み出したこと。
故に私は、これを赦そう』
……と」
爺やが国王の言葉を代弁する。
凄い翻訳機能じゃな、この爺や。
「「「「「やったーーー!!」」」」」
爺やの言葉に、屋敷のめいど達が快哉を挙げる。
ここが喜ぶ所じゃったのか。
ほっとすると、また涙が零れてきおった。
子供に戻ったせいか、涙腺が緩いのう……。
まあ、とりあえずこの生活も終わったということで良かろう。
牢屋から出たらどうするかの。
まずは風呂に入って体を綺麗にしたいが。
いやいや、何はともあれまずは食事からかの。
「聖女様、ばんざーい!」
「「「「「聖女様、ばんざーい!!!!!」」」」」
牢屋にいるめいど達全員が何の違和感もなく聖女を連呼しておる。
……ふむ、決めた。
一番最初にすることは、この二つ名をどうにかすることじゃな。
短編書いたけど、難しいですねえ……消化不良気味。
またどこかでリベンジ予定。




