第30毒 猛毒姫、煽る
絶飲食拷問生活第11日目、熊肉をもきゅもきゅしていた私の生活に、変化が訪れた。
「三女……貴様ァ……」
「はい、お父様」
目の前には怒り狂うトキシン侯爵の姿があった。
「貴様……何故、太っておる!!」
うむ。
熊肉等の良質な蛋白質を積極的に摂取しながら適度な運動を行っていたお陰で、私は筋肉むきむきの健康的な肉体を手に入れた。
全身は溢れんばかりの体熱と生気で満ち満ちており、自分でも心なしか精悍な顔つきになっておることが判る。
私が両上腕二頭筋正面姿勢の姿勢を決めると、父親の頭の血管が切れる音が聞こえた。
つまり。
全然、絶飲食していなかったのがばれたのじゃ。
「何故だ、離れと地下室の鍵も閉めた!!
誰も食事を運べない!!
なのに、何故そんなに太っておる!!」
太っておる、じゃと?
否、肥満ではない!
よく絞り込まれた、筋肉じゃ!
私は腹筋脚強調姿勢を決めながら心の中で呟いた。
父親はそろそろ私が死んだじゃろうとの事で地下室を見に来たに違いない。
牢屋へ向かう鍵も閉めておるから侯爵以外の誰も入る事は出来ぬ。
食事の経路を完全に絶って10日が経過しているのじゃから、餓死は当然。
そんな事を考えて牢屋に向かうと、筋骨隆々の鉄骨娘が立っていたのだから叫び声の一つも上げたくなるのも頷ける。
ふむ……ちょっと鍛え過ぎた、か。
侯爵が何やら四角い箱を持ち出した。
「質問に答えろ、三女!貴様、メイドから食事を受け取っていたのか!?」
「……?いいえ。」
『ピンポーン』
「……嘘は言っていない……か」
……ほほう、嘘発見器の一種であるな。
「お前は、あの日以降、何も食べていないか?」
……あの日が何時かとは言っておらんの。
「はい!」
『ピンポーン』
「ちっ。
お前は閉じ込められてから以降、何も食べていないか?」
閉じ込められたと言っても、『開護摩』で出入り自由じゃからの。
最近閉じ込められたのはつい3分前じゃし。
「はい!」
『ピンポーン』
「くそっ!
貴様は本当に10日前から何も食べていないか?」
む、やばいの。
これは『いいえ』としか言えぬのう。
仕様があるまい、自分で自分を洗脳するか。
私は何も食べてない、わたしはなにもたべてない、ワタシハナニモ……
「……、どうした、貴様は本当に10日前から何も食べていないか?」
「ハイ」
『ピンポーン』
良し、通した!
何じゃこの嘘発見器、意外とがばがばじゃぞ。
「ぬおおおお!
貴様が!
不正をしたことは!
明白なのだ!!」
トキシン侯爵が地団太を踏んで悔しがる。
「そんな、お父様!
私は決して何も食べておりませんわ!
偉大なるトキシン家の名誉に賭けて!」
「貴様ァーー!!」
どう考えても嘘をついている私が、曇りなき眼で父親に反論する。
賭けているのは、偉大なるトキシン家の名誉。
……うむ、完全に煽っておる。
「……よォし、良かろう、国王陛下がいらっしゃるのはまだまだ10日以上は掛かるからな!
残りの日数、朝から晩まで見張りに監視させてやる。
正真正銘の断食を楽しむが良い!」
侯爵は頭を掻き毟って宣言する。
「そして、私を謀った事、後悔して死ね!」
おお、恰好良いのう。
「お父様……三女が悪う御座いまじだ……後悔じまじだ……
どうがごごを……開げでぐだざい……」
突然鼻水を垂らして涙目で訴えてみる。
勿論、横上腕三頭筋姿勢の姿勢も忘れない。
「煩い黙れ! 馬鹿にしおってからに!!」
侯爵は煽られた事にちゃんと気付いてくれた様で、怒り心頭で地下室から出て行った。
両上腕二頭筋正面姿勢
腹筋脚強調姿勢
横上腕三頭筋姿勢
はボディビルのポージングの事ですね。念のため。




