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豚公爵と猛毒姫  作者: NiO
日常編
3/203

第3毒 猛毒姫、引き篭る

 結局オーダーは私が風邪をひいている間ずっと回復魔法をかけてくれた。

 睡眠も椅子に座りながらの仮眠のみ。

 数日前よりもだいぶ大分(やつ)れた様に見える。

 オーダーに辞めるように言っても彼女はずっと私についていてくれた。

 どうやら私は体力の数値も10と、かなり低いらしく、それが心配であるとのことじゃ。

 体力10がどのくらいなのか聞いてみると、魔力と同じく人類の最底辺れべるで、風邪が悪化したら死ぬくらいの体力だそうだ。

 彼女は必死で、私は瀕死。

 死の淵で何を言っておるのじゃ、私は。


 さて、オーダーの献身的な介護のお蔭で、私の体調も次第に改善していった。

 オーダーには感謝してもし足りんのう、まさに命の恩人じゃ。

 それでも彼女の人を馬鹿にしたような言動や行動は目に余るがの。


 熱も下がったある日、私は現状の自分の立ち位置を確認するため改めて離れの住居を歩き回ることにした。

 すれ違う使用人に気さくに声掛けをしてみる。



「今日もいい天気じゃのう」


「調子はいかがかのう」


「おや、髪を切ったかのう」


「ちくわ大明神(だいみょうじん)



 ……全て無視された。

 まあ、これは仕様が有るまい。

 魔力の無い貴族の娘。

 館の主に毛嫌いされた主の娘。

 親しくなるにも邪険にするにも、りすくがある。

 結果、完全に無視を決め込むというのが家臣達の方針となっておるようじゃ。

 ……何やら、背後で泣き声が聞こえるが、気のせいに違いない。



「ううう……お労しや、ボツリヌス様」


「オーダーよ、労わらんでよい。って言うか、全然労わっていないのは判っておる」


「この仕打ちはあまりに御座いますっ……!確かに、ボツリヌス様を労わる気は全く有りませんが」


「正直すぎるぞ、オーダー、やっぱり労われ。……まあ良い、現状はむしろ私に味方しておるしのう」


「味方……ですか?」


「うむ。誰も私を気にしないからのう。これで気兼ねなく……」


「気兼ねなく?」


「気兼ねなく、引き篭れる」


「・・・は?」



 というわけで、とりあえず自室に引き篭ることにした。


  まず最初に手を出したのはこの世界の書物である。

 私はあまりにもこの世界について知らなすぎるからのう。

 これから何をするにもまず知識がないと始まらないじゃろう。


 幸い離れには父の読まなくなった書物を置く書室や使用人の皆が持ち寄った簡易の本棚など、合わせて100冊程度の本があったため、とりあえずそこにある全ての書物を読み終えることにした。


 この世界の文字の読み方・書き方を本でオーダーに読んで教えて貰うことから始まり。

 次第にこの世界の国と歴史、宗教、草花や動物、食事、冒険譚等々に至るまで。

 私は前世で視力がかなり弱く、人からの口伝と体で直接覚えることが勉強といえるものであった。

 しかしこの世界では常人程度の視力があるため本で勉強ができる。

 読書による学習は非常に刺激的で面白かった。

 前世では頭は良い方ではなかったが、現在は子供であるせいか難しい知識もするすると入っていき心地よい。


 オーダーは子供の私が興味あるであろう分野を一生懸命ちょいすして書物を提供してくれているのだが、結局全部の本が面白かったこと、結局全部の本を読むつもりであることなどから、彼女の頑張りは無駄な徒労であると言えた。


 この前は「ボツリヌス様は魔力が少ないので興味はないと思われ申し訳ないのですが……」と気まずそうに渡してきた魔道書を私が3日で読み終わったのを見て、「私の気遣いは一体!」と七孔噴血(しちこうふんけつ)し果てておった。


 気を遣わせて悪かった、じゃが七孔噴血するほどではなかろう。

 死ぬなオーダー……。


 書物を読んでいるとやはりというか、この世界は剣と魔法の世界であることが判った。

 そして、色々な点で前世と共通する部分も見受けられた。


 例えばこの世界でも長さはめーとるが、重さはぐらむが用いられていた。

 時間も60秒が1分、60分が1時間。月日は30日で1月、360日で1年と、前世より更に簡略であった。

 唯一違うのはお金の単位がごーるどであること位であったが、これもそれ程問題ともならない。

 動植物なども前世と似たような物が多い様である。

 更に、前世では絶滅したさーべるたいがーやどーどー鳥などもこちらの世界では存在する。

 これに加えて幻獣であるぺがさすやどらごんなどもいるようだから生態系の凄まじさに恐れ入る。

 逆に前世であってこちらに無い物としては、『ぽてと』+『とまと』=『ぽまと』や、『らいおん』+『たいがー』=『らいがー』など、人間の手によって掛け合わせたものなどが挙げられる。

 そう言った、人類による魔改造系な動植物はいないのじゃ。

 ……まあ、当然といえば当然であるが。


 ずっと本を読んでいるため、食事も毎回、部屋の扉の前に置いて貰っていた。

 床どんせずとも上げ膳据え膳、悠悠自適な引き篭り生活である。万歳(まんせー)

 晩御飯を取ろうと部屋の扉を開けると、床には食事の乗ったとれーと、手紙が置いてあった。

 嫌な予感を押し殺して手紙を開く。


『今なら、まだ間に合います……。部屋から出てきてください (オーダーより)』


 あやつ、絶対『引き篭りを説得する母ごっこ』を楽しんでやっておる……。

 間に合いますも何も、私は3歳であり、すたーとすらしてないのじゃが……。

 そう思いつつ若干精神攻撃にだめーじを受けながら、今日も今日とて引き篭る私なのであった。

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