第29毒 猛毒姫、抽出する
※※※引き続き、ジビエ回です※※※
ゲテモノが苦手な方はご遠慮ください
絶飲食拷問生活第2日目。
前回の様に剥き出しの土の中から動物を一匹探しだし、溺死させることに成功した私の前に、投獄生活史上最大の難関が立ちはだかった。
土を掘ってみると。
……中からは死んだ熊が出てきた。
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メトトゥシ・カムィ (コグマ)
毒性なし。感染症なし。早めに冬眠をしていた。
脂身は融点が低く、甘みと旨味が強いため、スープなどにもオススメ。
ボツリヌス・トキシンによって無残にもその命を奪われた。
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めとと……なんか良く解らんが、熊じゃ。
まだ9月なのにもう冬眠しておるとは……。
そして、解説の最後の1行はいらんと言うておろうに。
て言うか、熊、でか過ぎる。
食糧問題が一気に解決……どころか、毎日腹一杯に食べても、一月分くらいあるんじゃないか?
流石に持て余すぞ、どうしよ。
……仕方あるまい。
刃物が無いから解体もできんしの。
まるまる、干肉にするか。
『水操』で熊の全身から水気を抜き。
さらに内臓、毛などの食べない部分の水気を限界まで抜き、枯死させる。
『熱玉』でしっかり乾燥させて終了。
これで可食部位だけを残した保存食が出来た。
本日食べる分を除いた残りの肉の隠し場所であるが。
『開護摩』で対面の牢屋を開けて、そこに隠す事にした。
小熊とは言え十分に大きく、持ち運びは私にとってはかなりの重労働であった。
積み上がった熊肉を見て、ため息を吐く。
絶対に食べきらんぞ、これ……。
「うーむ。
それにしても、地下室に誰も来んのう……」
恐らくトキシン侯爵が鍵でもかけて誰も入れん様にしておるのじゃろう。
お陰で超自由に過ごしているから全く問題ないんじゃが。
調味料無しでも意外と美味しい熊肉を貪りながら私は独り言ちた。
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絶飲食拷問生活第3日目。
今日も目の前には大量の熊肉がある。
「……せめて、塩があればのう」
もきゅもきゅしながら何となく呟いたらそれが正解な気がしたため、土魔法で塩分の作成を試みる。
人体に微量金属があるように、土にも微量に塩分が含まれておる。
ならば『土玉』を駆使して何とか作り出す事は可能なはずじゃ!
という訳で頑張って作ってみたら、良く解らん金属の塊が出来た。
なんじゃこれ……塩分を作りたいのに……。
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絶飲食拷問生活第4日目。
ぐったりする量の熊肉を今日も今日とて、もきゅもきゅしておる。
もう、熊肉、飽きた。
「今日こそ、絶対に、塩を作り出す」
螺子の外れた科学者の様に、血走った目で魔法を唱え続ける。
虎の子の魔石を使い切ってまで何度も試みたが、良く解らん金属の塊がごろごろ作り出されるだけじゃった。
何故じゃ!何故『土玉』が上手く行かんのじゃ!!
「……待てよ。
『土玉』を使用するのじゃなくて。
土から『土操』で塩分を抽出する事は出来るんじゃあないか?」
試行錯誤の末。
やっと。
一抓みの塩の抽出に成功した。
「わーい!」
思わず諸手を挙げて快哉を叫ぶ。
それにしてもこれは難易度等からも『土操』とは独立した魔法と言えるじゃろう。
よし、『金鉱採掘人』と名付けよう。
こうして私は熊肉と塩の新たな可能性に舌鼓を打つ事となった。
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絶飲食拷問生活第5―10日目。
朝起きると、まずは腹筋、背筋、腕立て伏せを行う。
一頻終えると、朝飯として熊肉と雑草を食べる。
次に牢屋の外に出ると、地下室を2時間程走行する。
走行しながらの水分補給は、自分の胃の中に直接『水玉』を作り出して行っておる。
運動後は『金鉱採掘人』を用いて塩分や微量元素を抽出、水分とともに摂取する。
熊肉を食べて、昼寝。
夕方は、以前ブコツから習った騎剣槍弓の動きを練習しながら体を動かす。
蛆虫でビタミン補給をして、就寝。
「……ん?
なんだか、投獄されている方が、普段よりも心身ともに健康な気がするのう」
まるで、転生ちーと主人公の王道的1日を送っている様じゃが。
まあ、気のせいじゃろ。
私は心地よい疲労にその身を預け、就寝した。