第27毒 猛毒姫、閉じ込められる
本日2回目の投稿です。
さて、無実の罪を着せられて------というか自分から積極的に着たのじゃが------牢に閉じ込められた私であるが、実は少し楽しみなところもあった。
果たして異世界の拷問とは如何程の物であるか。
前世の苦行のぷろである私は何処まで耐えきれるのか。
まあ、出来れば欠損系はやめて欲しいのじゃが……
そんなことを考えてにやにやしていると、鉄格子越しのオーダーに気づかれた。
「あの、ボツリヌス様……もしかして、楽しんでません?」
「お、オーダー!?
ボツリヌス様に向かって、な、なんてことを!!」
あまりの不敬さにハンドがオーダーを窘めておる。
う……うむ、全く不敬にも程がある!!
私は顔面ぼこぼこにされて、牢屋に閉じ込められて、これから拷問を受けて、耐えきれなくなったところで処刑されるのじゃぞ!
どこに楽しむ道理があるというのか!!
いや、ない!!
反語!!
……なんでばれたんじゃろ。
顔面はぼこぼこじゃから表情では判らないと踏んだんじゃが。
オーダーは全てを見透かした様に溜息をついた。
「何を考えているか判りませんが。
以前の様に、下らない意地とか何とかで死に急ぎませんよう。
ボツリヌス様が死んでも意地が張りたいとおっしゃるのであれば……」
オーダーは何時かの黒い笑顔で私を見つめる。
こ、これは!
首を捻じ切られる!?
「……私も一緒に、死にますよ……?」
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オーダーとハンドが地下から出ていくと、私は牢屋の地面に寝っ転がった。
オーダーの奴め、私の暖心拷問生活に釘を刺しおって……。
仕方あるまい、今回は楽しむ事より生き抜く事に焦点を当てようかの。
彼奴、私が死んだら本気で死ぬ気の様じゃし。
なんとなく自分の顔を触ってみると、平常時の3倍くらいに膨れておった。
……オーダーめ、良くこれで私の表情を見抜きおったな。
怖い奴じゃ。
さて、地下室の状況を確認するか。
地下室は全体的に西瓜くらいの大きさの石を組み合わせて作られた空間であった。薄暗い中に光があるのは、光苔じゃろうか。
牢屋の外の地面は一部、土が剥き出しになっておるが、もしかしたら牢番が用を足す様なのかもしれん。
そして、肝心の牢屋であるが。
牢屋の正面には鉄格子の扉に南京錠がついており、出られない様になっておる。
牢屋の中は、地下でもあるため窓は無い。
……空気穴は大丈夫なんじゃろうな?
牢屋の床はごつごつした石畳の様になっており、石の隙間からは雑草が生えておる……横になって寝ると、石の凹凸に当たって痛い。
牢屋の右端にはおまるの様な簡易便所が申し訳程度に置いてあり、左端には筵が簀巻きになって置いてあった。
なんか、便所よりも簀巻きの方から異臭がするのじゃが……
簀巻きを開くと、中に死体が!……などということはなかったが。
……大量の蛆虫がうねうね蠢いておったので、慌てて元に戻す。
やれやれ、この上で寝ろというのか……。
牢屋はこんなもんかのう。
視線をオーダーから貰ったお守りに移す。
食事の様ではなかったが、中に何が入っておるのじゃろう。
袋を開けると中には……
魔石が、入っておった。
ぬう、魔石?
触った感じでは屑魔石ではないようじゃし、オーダーめ、何処から手に入れたのじゃ?
『鑑定』で魔石を確認すると。
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魔石 総魔力量 513/4000
強大な魔力を持っていた魔石。
屑魔石に混じっていた物をボツリヌス・トキシンが発見したもの。
部屋に隠しておいたものを、オーダーが持ってきた。
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おお、これは以前、屑魔石に混じっていた使い切っていない魔石ではないか。
自室に隠しておいたんじゃが、オーダーにはばれていたようじゃ。
……なんか、『鑑定』の説明文章が増えておるのう。
そういえば、さっきの私の状態では『鑑定』のれべるが2になって様じゃしの、それが関係しておるのやもしれぬ。
しかし、流石はオーダー、気が利くのう。
これで牢屋の中でも魔法を使って暇つぶしが出来る。
早速まだ無詠唱を覚えていない魔法を中心に適当に練習を始めた。
魔石の総魔力が100を切った頃に、地下室の階段を下りる音が聞こえてきたため、すぐさま魔石を隠してぐったりした振りをする。
「三女よ、気分はどうだ。
貴様への拷問と処刑方法が決まったぞ」
「と……トキシン侯爵……」
来たか、侯爵。
「先程の通り、貴様には水も、食事も与えぬ。
そのまま自分の行いを悔いて、死んでいくがいい」
……え?
……それだけ?
拷問に絶飲食なんて、当たり前じゃろう。
それに加えて、何をするか、それが拷問の魅力……じゃなかった、恐ろしいところであるのに……。
まあ、5歳児に対する拷問であるからのう。
そのくらいでないと、1日で死んでしまう可能性もあるからとの配慮なのかもしれぬの。
それにしても、侯爵の、この誇り顔。
「お……お願いじまず、お父様……赦じでぐだざい……
ごごがら出じで……」
侯爵の誇り顔がつぼに入ってしまったため、笑いで声が震えるのを何とか適当な喋りで誤魔化そうとすると、まるで恐怖で慄く令嬢の様な声が出た。
幸運じゃ。
「ぬははは、そうだ、その顔、その声だ!
せいぜい震えて死ね!」
いやはや何とも。
娘と父親、お互いが心から笑いながら会話をしているという微笑ましい光景じゃの。
「……それにしても、先ほどバタバタ音がしてなかったか?
まるで、魔法の練習をするような」
私はここで初めて、ぎくりとする。
「貴様、まさか魔石を持って魔法の練習でもしてたのではあるまいな」
やばい、これはばれるか。
何を言っても墓穴を掘ると感じたため、私は無言を貫いた。
公爵はそんな私を睨みつけておったが、暫らくして肩を竦める。
「そんなはず、無いか。
そもそも魔石を持っておれば、魔法の練習など行わず、後々回復魔法などの為に取っておくはずだからな……」
侯爵はそんなことをぶつぶつ呟いている。
……回復魔法!!こ、此奴……天才か!!
いや、私が阿呆なだけじゃな。
オーダーもそのつもりで渡したはずであるし。
……私が阿呆なせいで、魔石の総魔力は100を切っておった。
済まぬ、オーダー……もはやこの魔石、回復は1回も使えぬ。
「まあいいさ。
貴様が壺を壊したことも王宮へ伝えておいた。
追って沙汰があるだろうが……まあ、貴様の命で間違いあるまい。
それでは、ゆっくり死んでいくがいい」
「お父様……三女が悪う御座いまじだ……後悔じでおりまず……
どうがごごを……開げでぐだざい……」
私は鉄格子の扉に縋り付き、慈悲を乞う。
「くくく、ははは、はーっはっはっはっは!!」
「お願い……開げで……ごごがら出じで……」
楽しそうに笑う侯爵の声が階段を上り遠くへ向かい、消えていった。
……さて、そろそろ良いかのう。
「……『開護摩』」
そんなわけで。
投獄初日、私は速攻で、牢の南京錠を開けた。