第26毒 猛毒姫、蹴られる
※※※※※注意!※※※※※
この話には殴る蹴るの暴行シーンがあります。
苦手な方は見ない様にお願いします。
「壺を割ったのは☆わったしっじゃよー♪」
私が改めて声を上げると、トキシン侯爵と、壺を壊した真犯人であるテーラーは目をまん丸くして私を見た。
次の瞬間、トキシン侯爵は、私の顔面に向かって八九三蹴りを放った。
「ぐええええええぇぇぇ!!」
体重の軽い私はそのまま20m位ごろごろ転がりながら吹き飛ばされる。
廊下にいる従業員達は誰も私を受け止めてくれず。
さながら旧約聖書で海が割れる様に、私を避けて人の波が割れるのじゃった。
じ……人徳がないのう……私。
血塗れで視界は真っ赤、頭がちかちか、平衡感覚もどろどろ、とりあえずそこにいるじゃろうトキシン侯爵に向き直るが、景色が立体平面の様に見えて、芸術的じゃ。
それにしても……5歳児相手に何をするんじゃ。
ぬお、歯が折れたぞ。くそ、乳歯が。
「犯人はお前か三女!
そうかそうか。
…なるべく辛く、苦しく、惨たらしい方法で殺してやるからな!!」
ふむ。
ということは、やはり処刑には拷問も込み込みということじゃな。
それにしても、さっきの八九三蹴りで良く耐えきれたのう、体力10の私が。
景色が多少元に戻ってきたので、久しぶりに『鑑定』を使おうと自分の手を見てみる。
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ボツリヌス・トキシン 5歳
二つ名:毒女・毒舌娘
体力:2/20
魔力:7/10
スキル:鑑定LV2
魔法並列LV3
魔石流量感知LV2
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……おおっ。
久しぶりに見たせいか、いくつか突っ込みどころがあるのう!
まあ、今一番突っ込んで置きたいことは。
体力が上がっていなかったら死んでたわ、私。
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ボツリヌス・トキシン 5歳
二つ名:毒女・毒舌娘
体力:20↑up/20
魔力:7/10
スキル:鑑定LV2
魔法並列LV3
魔石流量感知LV2
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む?
なんじゃ、体力が回復した……と思ってふと廊下の向こうを見ると、オーダーが人ごみの向こうでこちらに向かって手を向けておる。
あの距離から回復魔法を掛けてくれておるのか。
余所見をしていると、トキシン侯爵が背後から私の髪を捕まえて、そのまま力任せに引きずり回し始めた。
そして私の頭を鷲掴みに掴み直すと、柱の角に向かって私の顔面を何度も何度も叩きつける。
「げっ!げげ!ぐげgっ!げげげっげ!」
鼻が折れて口からしか呼吸が出来ぬせいで変な声が出てしまっておる。
オーダーが回復魔法を掛け続けているせいでこっちは痛いだけで体力の心配はしなくて平気ではあるが。
それにしても男女平等蹴りからの顔面中心への攻撃は、流石は糞侯爵様、惚れ惚れする様な悪役っぷりであるな。
しばらく親子水入らずで除夜の鐘ごっこを楽しんでいた私とトキシン侯爵じゃが、トキシン侯爵の気が済んだのか、もしくは単に疲れたのか、掴んでいた私の頭をその辺に無造作に放ると、めいど長のハンドに指示を出した。
「おい、そこのお前。地下の独房を開けてこいつを叩き込め。
お前ら、この女には食事も水分も与えるなよ。
与えた者は同罪として、一族郎党皆殺しにしてやるから覚悟しろ。
それから、魔法でもなんでもいいから、可能な限り壺のかけらを集めろ。
なんとか修復しなくてはならん…わかったな!」
トキシン侯爵は一息でそう宣言すると、私の顔面を最後に力いっぱい蹴り上げ、舌打ちをした後に母屋の方へ歩き出した。
「痛いのう」
と間抜けな声を出して起き上がると、めいど達は全員、目を逸らした。
きょろきょろ見渡すと、さっきまで回復魔法をかけてくれたオーダーがおらぬ。
……いつもなら真っ先に駆け寄ってくるはずじゃがのう。
まあ良い。
「ボツリヌス様……。
参りましょうか」
苦虫を噛み潰した様にハンドが私に話しかけた。
此奴は騒動の真実を知っておるから、私を牢屋に打ち込むのに抵抗があるのじゃろう。
「入るのば良いんじゃが……ぞの前に、口だげ漱がぜてぐれぬがの?」
無理矢理笑顔を作ると、折れた歯の隙間からぼたぼた血が零れ落ちる。
ハンドは苦しげに言った。
「だめです。
我慢してください」
やはり、駄目か。
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「ごの屋敷に地下の牢屋なんであっだんじゃのうー。
今まで生活じでぎだが全然気づがんがっだぞぅ」
私は地下への階段を下りながらハンドに話しかける。
相変わらず、口からは血が滴り続けておる。
「……ボツリヌス様、何故この様な……」
おや。
ハンドに話しかけてはいたが、いつも無視されておったからのう。
まさかこちらに話し掛けてくるとは思わなんだ。
驚きながらも、返事を返す。
「……死ぬ人間は、少ないに越じだごどわ無いじゃろう?」
軟弱なテーラーや一般市民である彼の親族が3週間も拷問に耐えきれるとは思わぬ。
それに引き替え私は多少の拷問ならば無問題であるし、流石にトキシン侯爵も私の一族郎党に至るまで殺すようなことはせぬであろう。
じゃって、トキシン侯爵も死ぬし。
そう言うと、ハンドは驚きを目に浮かべた。
「ボツリヌス様に……そこまでのお考えであったなんて……」
どうせ、安っぽい正義感から飛び出したとでも思ったのじゃろうか。
いや、それで正解じゃよ。
私も、死ぬ気は更々無いしのう。
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牢屋の中に入り、あとは扉を閉めるだけという状態になって、オーダーが階段を走って降りてきおった。
ハンドが扉を閉める手を止める。
……此奴、私に対してちょっと優しくなっておる気がする……。
「ボツリヌス様、これ、お守りです!
どうか、どうか御無事で!!」
「お…お守りが。
やだら大ぎいが……。
有難う、オーダーよ……。
バンドや、お守りわ大丈夫が?」
それは、どう見てもお守りではない大きさの袋であったのじゃが。
「……ええ。
お守りならば、セーフ、でしょう」
ハンドは飲食物でないと判断し、許可した。
……やはり、ちょっと優しくなっておるのう。
「……おいおい、悲じぞうな顔をずるでない、オーダーよ。
大丈夫じゃ、いづもの通りじゃよ」
今にも泣きべそをかきそうな顔で見つめてくるオーダーに私は成る可く元気そうに話かける。
「いつも通り……ですか?」
「うむ、今度わ侯爵様も御公認じゃ!
ごれで気兼ねなぐ……」
「気兼ねなく?」
「気兼ねなぐ、引ぎ篭れる」
私が呵々大笑すると。
彼女も精一杯の笑みを返してくれた。
くぬ、此奴、可愛いのう。
そして、鉄格子の扉が がしゃん と閉まった。
50000文字突破ー
記念書き込。