第24毒 猛毒姫、暴く
第二部 監禁編。スタートです。
今日も朝から小屋の中で魔法を練習しておると。
久しぶりに実家に戻らないかとオーダーから提案があった。
うーむ、家か……。
あと一月くらい小屋へ篭れば魔法も一通り習得出来そうだったため、私は渋っておった。
しかし、オーダーが珍しく強く押す物だから、久しぶりに自分の部屋で寛ぐ事にした。
此奴と屋敷内をだらだら練り歩くのも良いしのう。
そんなことを思って自宅へ戻ったのじゃが、オーダーの奴は
「ボツリヌス様はお暇でしょうが、私は忙しいのでこれで失礼します」
とか言って、さっそく仕事に戻ってしまった。
なんじゃお前は!
じゃあ何故私を呼び戻した!!
そんなこんなで久しぶりに自分の部屋で本を読んでおる。
……が、なんだか落ち着かぬ。
普段魔法ばかり使っておったのに、急に魔法の無い生活になったせいかのう。
いや、そうではないな。
何か、大事なことを忘れておる気がするぞ……
前も、同じ事があったような……
なんじゃろう、なんじゃろう、もう呆けたのじゃろうか……
などと考えながら離れの屋敷を移動しておると、何やら食堂が騒がしい。
こそこそ隠れながら食堂を覗き見をするが誰もおらぬ。
どうやら騒がしいのは更に奥の厨房のようじゃ。
遠くからコックの怒鳴り声と…オーダーとマー坊の悲鳴が聞こえた。
……。
全然関係ないのじゃが、女と男と女で嫐ると書く。
全然関係ないのじゃが。
「おらおら、オーダー、マー!
気ィ入れて作らねェと塵ン箱行きにすンぞ!」
「ひぃー!
し……じゃなかった、総料理長、お手柔らかにー!」
「あわわわわわわ……!」
ふむ。
危うく変な想像をするところじゃったが、どうやら二人はコックから料理を習っておるだけの様じゃな。
……むぅ、なんじゃ、私だけ除け者にしおってからに……。
「おいマー!
例の物は何処に置いた?
ちゃんと見つからない場所に隠したんだろォなァ!?」
「あわあわわわあわわ!」
「なに!?
『ちゃんと総料理長室の風水庫の中に冷やしてあります』だと?
なら大丈夫だな。
どんどん作っていくぞ、お前ら!!」
「「あわわわあわわわ」」
ふむう。
コックの『あわわ会話』聞き言葉は準1級くらいかの。
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あわわ会話 準一級 問一:以下を訳せ。
あわあわわわあわわ!
(模範解答:ちゃんと総料理長室の風水庫の中に冷やしてあります)
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凄すぎるじゃろ。
私も精進せんとのう。
後半はオーダーもあわあわ言うておるし。
さてと。
奴らも楽しくやっておるようだし、後は若い者に任せて年寄りは引っ込んで魔法の練習でもするかのう。
おお、そうじゃ、せっかくじゃから、新しく考えた魔法を使ってみるとするか。
私は呵々大笑すると、総料理長室へ向かった。
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総料理長室は頑丈な扉で出来ており、少なくとも私は中に入ったことがなかった。
コックの奴は意外と秘密主義者じゃしのう。
しかし部屋に風水庫まであるとは。
ちなみに風水庫は風と水の魔法陣を練りこんだ保冷庫であり、簡単に言えば魔法の冷蔵庫である。
お値段は少々お高い。
部屋をのっくするが当然誰もいない。
では魔法の練習をしようかのう。
私は『土玉』を作り出すと、『技術・魔法並列』で『土操』を使用し、土を鍵穴に送り込む。
鍵穴を土で満たし、一部を指先で抓める程度に鍵穴の外に出すと、再度『技術・魔法並列』で『水操』を使用し、土の中の水分を排除する。
指先で土を抓み、軽く捻ると『かちり』と音がした。
要は、土を使って鍵を作り出したのじゃ。
新魔法『開護摩』。
消費魔法は1+3+3で7と思いきや、実は最近『操』系の魔法をさらに魔法力1にまで分解することに成功したため。
今回の様にちょっと動かすだけに止める場合であれば、1+1+1で消費魔法3という超・お手軽魔法なのである。
なんと『開護摩』は、私でも3回も使える!!
魔法の練習を成功させると、私は周囲を確認し部屋の中に入る。
部屋の中には料理関連の道具や本などの他に、狩りや武器などに関する書類や道具も散在していた。
コックよ、お前は何を料理するつもりじゃ、何を……。
おや、こんなところに風水庫が。
興味はないが、開けてみようかの。
全然、興味はないが。
私は笑顔で風水庫を開けると。
中には、不格好な洋菓子がほーるで置かれていた。
明らかに作りなれない誰かの手作りのけーきのようじゃ。
お世辞にも、美味そうではないのう。
けーきの上には、精巧に作られた4個の飴細工が踊っておる。
恐らくコックが作ったのであろう、良く出来たその飴細工は、見ただけでそれが誰かが判る。
こちらにある人形はコックじゃろう、そっちのはオーダー、あっちのはマー坊、そして最後のは真っ赤な毒茸じゃ。
二頭身の皆が楽しそうに茸を囲んで笑っておる。
……ちょっと危ない光景じゃな。
さらに人形の手前には、ほわいとちょこれーとの板にちょこくりーむで文字が書かれている。
『ボツリヌス様、5歳の誕生日、おめでとうございます!!』
私は固まった笑顔のまま風水庫を閉じた。
居た堪れない気持ちでコックの部屋を後にする。
知らんぞ。
私はさぷらいず・ばーすでーぱーてぃーの事など何も知らん。
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廊下を歩いていると、見知った顔が我が家の宝である例の壺を磨いておった。
「おお、テーラー!
それにハンドも!
ご機嫌変わりはないか?」
「ち……毒女め」
「……」
暴言を吐いたのが男めいどのテーラー。
完全に私を無視したのがめいど長のハンドである。
「ふむ、出来ればテーラーと話をしたいんじゃがのう。
今日は久しぶりに自分の阿呆っぷりに凹んでおる。
また今度で勘弁してくれよ」
私はテーラーにそう言うと自分の部屋に向かう。
「……!
貴様と話すことは何もない。
話しかけるな!!」
テーラーが切れ気味に突っ込む。
やっぱり此奴、面白いわ。
「これ、テーラーさん。
ゴミに対しても、そんなに乱暴に話しかけてはいけませんよ」
「……すみません、ハンド様。
今後、このようなことが無いように気を付けます」
背中越しで、私を塵扱いする二人の会話をぼんやりと聞こえた。
「そうですよ、それにあなたは今何をしていると思っているのですか。
先代国王より賜りし、トキシン家の家宝を磨いているのですよ。
ゴミの事など考えず、トキシン侯爵の事を一心に考え…… あ 」
がしゃん
不穏な音に、私が振り返ると。
驚愕の瞳でテーラーへ視線を向けるハンドがいて。
驚愕の瞳でトキシン家の家宝だったものに目を向けるテーラーがいて。
そして、トキシン家の家宝だったものが、無残にも床に散らばっていた。
テーラーよ……やっちまいおったな……。
「おいおい、まじかよ」
珍しいハンドの素の呟きが、廊下に静かに響いた。
ケーキの飴細工ですが、ボツリヌス様は勘違いしています。
4つ目の飴細工は、真っ赤な毒キノコではなく、二頭身のボツリヌス様です。
念のため。