第199毒 猛毒姫、アンゴルモアと唱える
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前回までのあらすじ
あれれ~?(某少年探偵風に)
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私は、首を捻って、考える。
ふむう。
……5感解放と、超長距離攻撃を使える人間のう……。
「あっ、私か」
「何を寝ぼけている」
私の間の抜けた言葉に、綺麗なセルライトが言葉を続けた。
「おい良いか、ボツリヌスよ。
吾輩にしては珍しく、多少は貴様に配慮して話を聞いてやったが。
……もう、時間がない。
帰るか、残るか、今、決めろ」
うむ。
確かに、普段のセルライトであれば、問答無用で連れていく、若しくは置いて行く所であるのに。
しっかりと、一から説明して、私を納得させてくれておる。
なんというか、大事にされている、感じがする。
……ふむう。
「すまぬ、セルライトよ。
私にしては珍しく、詳しく説明せぬが。
……もう、時間がない。
帰るか、残るか、今、決めておくれ」
私の返答に、一瞬鼻白んだような顔をしたセルライトは。
少しだけ私の台詞を咀嚼した後。
「……倒せる算段が、あると?
お前がか?」
理解も早く、そんな言葉を返した。
私はセルライトに背を向けると、すっかり不貞腐れておるいちころさんに向き直る。
「ん~?
どしたのボッさん、逃げるんでしょ。
ゾンビの準備が出来るの、も~ちょいかかりそうだから、残念だけど、また今度ねぃ~。
この土地潰してから、改めてそっちに向かいますわ~」
ひらひらと手を振って、もう戦いは終わったと考えておる生臭の坊主。
私はそんな彼に向かって、力強く人差し指を向けると。
高らかに、宣言した!
「何勘違いしておるんじゃ、このぞんび野郎!」
「ひょっ?」
「まだ私の『ばとるふぇいず』は終了してないぜ!」
私の言葉に、いちころさんはみるみる笑顔になり、声をあげた。
「え、見せてくれるの!?
魔貴族・北真倉猿夢を、どーやって倒したのか!
いーよいーよ、おいでおいで!」
喜び勇んでおるいちころさんに、私はいつものかっくいー姿勢をして、びしっと、言ってやった。
「永眠た子を起こす腕白坊主め。
……言っておくがのう。
私にかかれば。
いちころさんなんぞ。
……いちころ、じゃぜ?」
く~!
決め台詞!
そうして私はその返答を待たずに、スキル『5感解放』を行うのじゃった。
やれやれ、どっこいしょっと。
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ふおおお。
久しぶりの5感解放、ハンバーグ以来かしらん。
まるで千の風になった様で、とても心地好い。
以前オーダーが『使うと脳がついていかずに、七孔噴血して果てる』とか言っておったが、痛みとかも全然大したことはないの。
ちょっと金槌で殴られた程度じゃ。
そんなに脳に負担と言うことはあるまい、ようし、どんどん見える範囲を増やしていこう!
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現在私の見えている範囲は、ほぼ大陸全てを網羅しておる。
凄い、凄いぞ!
この大陸に息づく生命の息遣い、その全てを感じることができおる!
具体的に言うと、うんこ好きの領土内におるつんでれっぽい姉ちゃんを見つめながら。
トキシン家の中でマー坊がすっ転んでぱんつ丸出しにしているところを観察しつつ。
空に翔ぶワカリュウとロウリュウを眺めながら。
地の底に埋まっている、大昔の文明が残したおーぱーつ、冷蔵庫やらてれびやら……そして、自由の女神やら奈良の大仏やら、も、見つけることができた。
……何となく予想しておったが、この星は。
……多分、地球、なんじゃな……。
昔この星を支配した人類は。
もしかしたら、間違えてはいけないところで、道を間違えてしまったのかもしれぬ。
ちょっと、しんみり。
……ふむ。
私、すっかり満足したわ。
さてと、帰ろうかのう。
流石に頭も痛くなってきたし。
具体的に言うと、聖剣の『精神汚染』の10倍以上のきつさじゃ。
精神の鍛練者であるイタコの私ですらぎりぎりの苦痛ではあるが、その苦しさを補って余りある収穫じゃったな。
……はて、そういえば、何をするために『5感解放』したんだっけかしらん。
……。
……。
……あっ。
わ、忘れておった、いちころさんを見付けるためじゃった!
え、でも、この大陸全土の息遣いから、いちころさんを、見付ける?
普通に、無理臭くね?
し、しかし。
あんなに格好良く見得を切った手前、『どうにもなりませんでした』で帰るわけにはいかぬ!
うう、一体どうすれば……。
ふと。
パンゲア大陸の遥か北の上空1万メートルに、何やら人影がおるのを発見した。
空中で静止しているところを見ると、空魔法を使える龍か、あるいは……。
ふむ。
見た目は15歳くらいか。
真っ黒い髪に真っ黒い目、そしてたった今火斗アイロンを当てたような、きっちりとした洋服と半ズボン。
やはりの。
時魔法使いのトキ様、じゃった。
ん?
なんじゃ、トキめ。
此方を見ながら大爆笑しておるんじゃけど。
何故私を見て笑う。
失礼じゃあないか。
ひとしきりお腹を抱えて笑った後。
トキの奴は、自分の真下を、指差した。
ん?
私に、下を、見ろと、言うことか?
トキの指示する先には、東京ドームくらいの大きさの島があった。
おいおい、パンゲア大陸から遠く離れた、こんな小さい島に住める人間なんて……と思って意識をやると。
島には小さな家があり。
その中には、皺だらけの老人と。
……彼を守るかのように、ゾンビが数体、立っておった。
いえーい、見っけ!
サンキュートキよ!
私はどんな超長距離魔法を使おうか、一瞬だけ思い悩む。
ふむ。
まあ、仏罰繋り、じゃしの。
私は島から更に上空10万キロメートルに土塊と金属の混ぜ物を作り出し。
それをいちころさんにぶつける事にした。
遠距離であればあるほど、消費魔力が少なくなり、威力が天文学的に上がっていく私の魔法じゃからの。
これだけの離れた距離で使えば、流石に倒せるはずじゃ。
食らえ、『巨大隕石衝突』!
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「ぐばっ!」
激しい衝撃と共に、私は目を開ける。
どうやら私の意識は、無事元の場所へ帰ってこれた様じゃ。
何故だか視界が赤くぼやけておるが、なんとか周囲を見渡してみる。
驚愕の表情を浮かべるセルライトを初めとした人間界の面々と。
唖然としているニンニクを初めとした我が魔貴族領の魔族たち。
そして。
倒れ付し、骨に還っているゾンビたちを見て。
勝利を確信した私は、声も高らかに、決め台詞を叫んだ。
「ざまあ見よ、いちころさん!
仏罰が、当たったのう?」
次回の第200毒は神回予定!(当社比)




