第195毒 猛毒姫、「……は?」ってなる。
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前回までのあらすじ
主人公視点、まさかの一年ぶり
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はぁい、えぶりわん。
久しぶりじゃ。
おっと、思わず英語も出てしまった。
仕方あるまい。
何しろ私達の軍が、いちころさん軍を圧倒しておるのじゃ。
てんしょんも上がると言うもの。
「いやぁ、すごいねぃ、ボツリヌスちゃんチームは。
普通にウチらが全勝すると思っていたけど……まさかほぼ全敗ペースとは、考えてもなかったですわ~」
目の前のいちころさんは、相変わらずのほほんと笑っておる。
……此奴、なんでこんなに余裕なんじゃ?
「おい、いちころさん。
勝負は決したぞ。
お主の軍で残っておるのは、勇者と薬師のみ。
流石に此れでは人間界に侵攻すること叶うまい。
頭を丸めて出直してこい」
「あはは~既にツンツルテンですってば~」
いちころさんは、嬉しそうに頭をぺしぺししておる。
……此奴、まだ何か隠しておるのか?
「そんなことよりボツリヌスちゃん、旦那さんの心配はしなくてい~の?」
「おっと、そうじゃった」
人類の希望・元勇者が負けるとは考えられないが、セルライトが負けるのはもっと考えられぬ。
しかもセルライトの魔法は、どうやら打倒勇者を標語に開発されてるっぽいし。
どうせ何か意地汚い、人道に外れた様な魔法を使うに決まっておる。
「それにしても、あんな風に魔法陣を使うなんて……流石は世界最高峰の魔術師だねぃ~」
私の予想とは裏腹に、セルライトは奇抜ではあるものの、かなり全うな方法で勇者と対峙しておった。
現在は、風魔法で魔法陣の書かれた紙切れを周囲に展開しておる。
飛ばされている魔法陣に適宜魔力を注ぎ込むことで、無数の攻撃パターンが得られると言う訳じゃ。
魔法陣を飛ばす風魔法の調整、角度、使用する魔法陣の選択、注ぎ込む魔力量。
これらを全部片手間に行いながら、勇者と戦闘しておるのじゃ。
セルライトの奴、魔法もじゃが、頭脳も化け物じゃな、知ってはおったが。
勇者も勇者で、自身を光の様にし、雷速でセルライトに突っ込んでいく。
風神対、雷神、か。
見た目では魔王対勇者にしか見えぬが。
何か、汚い手を使うとか言って悪かったのう。
勇者の前では、なんとも真っ直ぐな男の子じゃあないか。
ちょっと嫉妬してしまうぞ。
「ぶひょ!?」
そんなことを考えておると、どうやら勇者が有効打をいれたらしく、セルライトが吹っ飛ばされた。
やはり純粋な実力では勇者に軍配が上がるか。
吹き飛ばされた先で瓦礫を掻き分けて、セルライトが立ち上がる。
「……ぶひょ、ぶひょ。
て、天衣無縫の戦闘術、む、無心の領域。
お、お前、他の死人と違って、い、今の方が、つ、強いなぁ!」
お、おお、これ、勇者的にはどうなんじゃろ。
あんまり嬉しくない誉め言葉な気もするが。
そんな私の心の内など気にしないかのように、セルライトはちらりといちころさんを横目で見つめた後、呟いた。
「し、仕方あるまい。
わ、我輩も、1枚くらい、切り札を、き、切ってやろう」
あ、うわ、やっぱり!
何か外法を使うに違いない!
や、やめるんじゃセルライト!
せっかく此処まで美しく戦ってるんじゃから、そんな汚い方法は使わずに……。
唐突に、セルライトが黄色い光の柱に包まれる。
な、な、な、なんじゃなんじゃ?
私だけでなく、周囲の連中も、皆驚愕しておる。
「え、え、え!?
か、カルマ・クラッシュ……かいねぇ?
いやでも青い光じゃ無いし……」
いちころさんが、小さな声で、そう呟いた。
か、カルマ・クラッシュって確か、世界と自分を繋ぐ運命の糸を燃やして戦闘力を上げるとか言う、あの自爆技の事か!?
じゃ、じゃから皆驚いておったのか。
え、でも、確か、本で読んだ限りでは、カルマ・クラッシュを行った際の光柱の色は、青、じゃよな。
ここでセルライトがカルマ・クラッシュを使う意味もないし、なにやら別の方法で、似たような魔法を作り出したのだと思われる。
……駄目じゃ、仮説だらけで良くわからぬ。
セルライトよ、説明しておくれ。
「案ずるな、これはカルマ・クラッシュではない。
我輩の考えた魔法……言うなれば、『セルライト・クラッシュ』よ!」
おお、心の中で思った瞬間に解説してくれるとは。
以心伝心じゃのう。
取り敢えず、自爆技ではなかったか。
良かった、良かった。
それにしても、『セルライト・クラッシュ』か。
なんだか、痩せそうな名前じゃの。
「これは、練り込んだ魔力と質量を代償にして一時的に戦闘力を跳ね上げるのだ!
まぁ、モチロン、カルマ・クラッシュレベルには程遠いが、な」
立ち上る光柱の強さが少し弱まり、加えて目も慣れてきた私は、薄目でセルライトを確認する。
同時に、セルライトの解説に関しても、改めて咀嚼し直してみる。
この馬鹿げた魔力量は、練り込んだ魔力と質量を犠牲にして、一時的に得られているらしい。
全く恐ろしい魔法じゃ。
……ん?
練り込んだ魔力と……。
質量?
「ぶひょひょひょひょひょひょひょひょひょ!」
光の中からは……。
……眉目秀麗の、魔導師が、現れた。
……。
……。
……。
……。
……。
……。
……なんか。
……セルライトが。
……痩せおった。
……。
……。
…………は?
書きたかったセルライト激ヤセ回。
つよい(確信)