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豚公爵と猛毒姫  作者: NiO
恐怖大王編
192/205

第192毒 ベルゼバブ、愛のもとへ突貫する

『GYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!』


 竜王が啼き、彼の尾が、我々に炸裂します。


 剛力殺もろとも、私……ベルゼバブは地面を転がるように吹き飛ばされました。


「……くそが、やはり、一筋縄には、いかぬ、かぁ!」


 血まみれになりながら、それでも平然と立ち上がる剛力殺。


「……どうした、(わっぱ)

 これしきで、もはや立ち上がれぬか」


 地面へ向けて血反吐とともに、彼はそんな言葉を吐き出しました。


「な、なんのこれしき……」


 私は対抗するように両足に力を籠めるも。


 ……立ち上がることができませんでした。




 当然といえば当然ですが、竜王は自身の逆鱗に他者が触れることを、全く許してはくれませんでした。


 剛力殺という重し(・・)を持っているとはいえ、それでも瞬きより早い私の突貫を、悉く反撃してくるのです。


 ……既に何度目の突貫になるでしょうか。


 10を超えてから数えていませんが、これ以上やっても、恐らく逆鱗にたどり着くことすら難しいでしょう。


 しかも、その逆鱗自体も堅いというのです。


 破壊するためには数回……いや、下手したら数十回の突貫が必要かもしれません。


 ……さて、どうしますか。


 今から改めて、策を練り直します、か?


 しかし他の部位への攻撃であれば、確かに多少は食らってくれるものの、それ以上の反撃でこちらの体力の方が先にジリ貧になってしまいます。


 ……詰み……です、ね……。




「ぐ、ぐぬおおおおお!」



 だからと言って、立ち上がらなくて良い理由には、なりませんが。


 無理やり立ち上がった私をみて、剛力殺は。


「その意気や、良し。


 時に、童よ!」


 心なしか口元に笑みを浮かべながら、呟きました。


「……どうやら、逆鱗への突貫は、無理である(・・・・・)


 お前は(・・・)ボツリヌスを連れて(・・・・・・・・・)逃げろ(・・・)


「な……何を言い出すんですか……」


「気づいておろう、逆鱗の防御は完璧、かといって今更他の部位を攻撃したとても、その前に我らの体力がなくなる。


 彼奴(あやつ)を倒すのは……我らには、不可能だ」


 精神論が好きそうな剛力殺が、全く客観的に、現状を把握しながら、喋っています。


「しかし、勘違いするなよ?


 勝てない訳ではない。


 この戦いの勝敗は、『ボツリヌスが(・・・・・・)生きているか(・・・・・・)否か(・・)』に掛かっている。


 即ち、貴様が見事ボツリヌスを逃がすことが出来れば、この戦い全方位で敗北したとしても、我らの勝ちよ!」


 自身の勝敗にしか興味のなさそうな剛力殺が、自身の敗北と引き換えに、お母様を逃がそうとしています。


 声を上げて笑う剛力殺の言葉に、私は。


 私は……。


 ##########


 それは、私が統括する魔貴族領内での出来事。


「あ、すみません、心炉内(こころうち)蜚蠊(ひれん)さん。


 聞きたいことがあるんですが……」


 特殊なスキル『一時永続』にて多くの食物を摂取し、力も知能も手に入れた私ですが、生まれて2年しか経っていないこともあり、この世の知識には疎かったため。


 倒した元魔貴族を部下にして、領地の管理方法や部下のまとめ方、他にも時々道徳や常識について教えてもらっていました。


「だああああ!


 その名前で呼ぶなあああ!


 もうアンタに負けたし!


 アタシ、魔貴族じゃないし!」


 顔を真っ赤にしてプリプリ怒っている元魔貴族『輝かしき常闇』こと彼女、心炉内(こころうち)蜚蠊(ひれん)さんは私同様、虫から成長した人型魔族で、頭からぽやんと触角を生やした可愛らしい見た目をしております。


 さて。


 魔貴族は通常、別名として漢字の名前で呼称することが多いのですが。


 魔貴族から脱落した場合にどうするのか、ということは特に定義されていません。


 というか、魔貴族から落ちるということは、通常イコール死亡なので、誰も気にすらしないのでしょう。


 心炉内(こころうち)蜚蠊(ひれん)さんとしては、魔貴族から落ちたのならば漢字の名前は捨てたい、特に負けた私に呼ばれるのは屈辱だ、ということらしいです。


 ……まあ、ちょっとイジワルがてら、この名前で呼んでいるのですが。


「えーと、今日お聞きしたいのは、私のお母様のことなのですが」


「うん、ていうか、いつもお母様のことじゃない。


 ハア、ホントにマザコンなんだから……なんでこんなヤツに負けたんだろ、アタシ……」


「お母様は、なぜ私を手放したのでしょうか?」


「ん? どういう意味?」


 私の問いを、バカにしながらもちゃんと聞いてくれる彼女。


「私のお母様は、体力も魔力も最低辺レベルでした。


 そこに降って現れた私。


 力は強いけど、物は知らないし、自分を盲信してくれている。


 普通に考えたら、抱え込んでおくのが定跡ですよね?


 でも、お母様は私に外の世界を見てくるように言いました」


 力をつけ、知能を得て、常識を知る度に、よりお母様のことが分からなくなりました。


 私が知識を得れば、お母様の元に戻ってこないことも十分考えられます……というか、その可能性の方がずっと高いでしょう。


 お母様にとっては、私を外の世界に出すことに全くメリットがないのです。


「ああ、なんだ、そんなこと」


 何度考えても分からなかったそれ(・・)に、しかし彼女は答えを持っているようでした。


「そ、それはなぜ……」


「『愛』よ」


 答えは出たわね、とでも言うように踵を返す彼女。


「い、いや、ちょっと待ってください!


 もう少し、分かりやすく……」


「説明するまでもないと思うけど。


 例えばアンタ。


 そんなにお母様が大事なら、両手両足もぎ取って、そこに飾っておけばいいじゃない」


 突然、突拍子もなく恐ろしいことを言い出す彼女。


「な、なにを言い出すんですか!」


「ずっとアンタのモノに出来るし、合理的よ(・・・・)


 ……でもアンタ、やんないでしょ(・・・・・・・)


 相手の為なら、自分が犠牲になってもいい、てね。


 愛って、そんなモンなの」


 あんたバカね、というように、大仰に溜め息を吐いています。


「なるほど……ということは、私に無償で知恵を授けてくれている貴女の行為も、『愛』に当たるわけ、ですか……」


「は、はあああ?


 ぜ、全然違うし!


 こ、これは、アレだし!


 あ、そ、そうだ!


 いつかアンタの寝首をかくために、信頼を得ようと思ってやっているだけだし!」


 何故だかわたわたと慌てふためいて顔を赤くする彼女。


 うん、愛にはいろんな形があるんですね、と、私は納得しました。


 ########


 ずい、と剛力殺の前に私は進み出ます。


「お、おい、(わっぱ)……」


「剛力殺……貴方の案は、非常に魅力的ですが」


 ゼエゼエ聞こえる自身の吐息で、いったん言葉を途切れさせると。


 めいいっぱい息を吸い込んで、言葉を続けました。


イマイチ(・・・・)、『()がない(・・・)!」


「……フハハハ! ほざきおって!」


『GYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!』


 二人の笑い声を、竜王の啼き声がかき消します。


「それで、どうする、ベルゼバブ(・・・・・)よ。


 万策尽きたのではないのか、ん?」


「いえ、一つだけ、思いつきました。


 この方法なら、勝率は25%程度あります」


「……4回に1回、か。


 まあ、このままでは勝つ可能性が無いのだからな。


 良かろう、其れで行こう」


「わかりました。


 基本は同じ突貫ですが……多分、私の体力的には最後の一撃になるでしょう。


 全力のパワーでお願いします」


 私は自身の策を簡単に剛力殺に伝えます。


「……なるほど、確かに勝率25%……馬鹿馬鹿しいが、故に、気に入ったぞ!」


 次の瞬間、竜王のブレスが私たちを襲いました。


 それを合図にするかのように私は剛力殺の背中を掴み、竜王の逆鱗へと突貫します。


 当然、竜王はそれを邪魔するようにガードしてきました。


 しかし、本当の目標は逆鱗(ソコ)ではありません。


 目標は、ズバリ、竜王の依り代でもある、竜王の『発火腺の骨』……!


 上下左右の巨大な犬歯の横についた、計4つの発火腺のいずれか。


 これを破壊すれば、恐らく依り代を失い竜王も消え去るはずです。


 ギリギリまで逆鱗近くまで意識を向かせておいて、そこから急上昇。


 無防備な竜王の顔面近くまでやってくることが出来ました。


 ここからは、純粋な4択。


 鬼が出るか、蛇が出るか。


 鬼を掴んで蛇に突貫しながらそんなことを考える私のもとに。


 ふと、懐かしい香りが漂いました。


 ……ああ、そうか。


 どうして、お母様はあんな竜の骨ごときに興味を抱かれ、ペタペタ触っていたのか、ようやく分かりました。


 お母様は(・・・・)ここまで見越して(・・・・・・・・)おられたのですね(・・・・・・・・)


 お母様の香りがついているのは、依り代となっている『発火腺』のみ。


 そして、お母様の香りの4択となれば、はずす方が難しいに(・・・・・・・・・)決まっているでしょう(・・・・・・・・・・)! 


 もはや私は何の疑いも躊躇いもなく。


 まるで赤子のように、(そこ)へ向かって突貫していくのでした。

虫2匹、お母様のお気持ちを盛大に勘違い。


元魔貴族・現副官、ツンデレさんの本名は『チャバネ』です、念のため。

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