第19毒 猛毒姫、鑑定する
私の楽しい魔術生活が始まった。
朝5時にオーダーが朝ご飯と日持ちのする昼ご飯を持ってくる。
ご飯を食べると昼ご飯と便所以外は延々と魔法を使う。
夜12時にオーダーが夕ご飯を持ってくる。
私が食事をしていると後ろから回復魔法をかけてくれる。
寝る。
以上が日課になった。
「1ヶ月過ぎましたねえ、ボツリヌス様」
「うむ。魔石は3000個程使ったぞ」
「こんなに魔石を使った人間ってボツリヌス様くらいじゃないですか」
「多分のう。
それでも手持ちはまだ17000個ほど余っておるがの」
「四捨五入すると20000個ですね」
此奴、私の努力を千の位で切り上げおった。
「四捨五入するでない…
しかも明日さらに20000個増える予定じゃ」
私はがくりと項垂れた。
最低でも語詠唱を得るまでは、魔石は貯まり続ける一方じゃということは解ってはいた……解ってはいたが、朝から晩まで頑張っても頑張っても全然減らない魔石を見ていると、心が折れそうになる。
いかんいかん、まだ始まったばかりじゃのにこれではいかん。
私は話題を変えようと、今日たまたま見つけたある屑魔石をオーダーに見せる。
「そういえばオーダーよ、この魔石を『鑑定』を使って見てくれぬか」
「?良いですよ。
……あれ?この魔石、魔力が500もありますね」
やはりか。
「屑魔石に混じっておった。
たまにちゃんとした魔石も混じっているのかもしれんのう」
「それはラッキーでしたね。
……ってボツリヌス様、なんでこれが屑魔石じゃないってわかったんですか!?」
「むう。
なんとなく、というかのう。
魔石ばっかり使っていたから、どの位の魔力が含まれているか解るようになったんじゃ」
「凄いじゃないですか!
ボツリヌス様、将来これで食べていけるんじゃないですか?」
恐らく可能じゃろう。
雛の雄雌を見分ける仕事みたいなもんじゃ。
細かい作業に向く日本人の得意な分野じゃ。
オーダーはにこにこしながら別の魔石を私に手渡した。
「どうやって魔力量が解るんですか?
やってみてくださいよ」
むむ、さっきまでは鬱々としていた私じゃが、オーダーにこう持ち上げられると自然に笑みが零れてしまう。
オーダーも私を励ますために言っていることは解っているのじゃが、解っていてもやはり嬉しい。
「よしよし、やって見せよう!
まずはこう、魔石を握ってこれを見つめるとじゃな」
♪テレッテッテッテー♪
謎の音楽が頭の中に鳴り響いた。
「……どうしたんですか?」
「え?
いや、今の音、オーダーは聞こえなかったのかの?」
どうやら私にだけ聞こえる音のようじゃ。
音楽はまだ鳴り響いておる。
一通り音楽が落ち着くと、今度は頭の中に言葉が流れた。
《おめでとう! ボツリヌス は 鑑定 を 手に入れた!》
「……は?」